エピローグ。眠りの中の僕。

 部屋でジャンクフードをかじりながら、僕は映画の続きを見た。せっかくリリィに貰った特別延長時間。

 ピザもポテトフライもリリィが作ってくれた。完璧なだらけタイムだ。

 なのに、一日の疲れと長風呂の湯あたりが押し寄せて、僕はいつしか眠ってしまった。

 多摩の街と、狸たちはどうなったんだろう。

 

 夢の中にまでリリィが出てきた。

 夢の中でもやっぱり僕は、リリィの愛情から逃亡を図る。ひたすら走る。

 どこへ逃げても、リリィは笑いながら追いかけてきた。笑いながら走っている女ほど怖いものはない。

 振り向いて見た先には、多摩の山々を一足で超えて歩くほどに巨大なリリィがそこにいた。


「アキラへの愛が体の中で膨らんで膨らんで、気がついたら私、こんなに大きくなっちゃいました! この胸、何カップなんでしょうね?」


 うるせー馬鹿。平坦な体型をしている僕に対してのイヤミか。


「それ以上勝手な真似はさせんぞ、極悪淫乱ロボット。アキラくんを奪いたければ、私の屍を超えていけ」


 アルバート叔父さんが駆けつけて、僕を逃がすために時間稼ぎをしてくれた。

 僕の知っている叔父さんよりずいぶん若くて、言動はそのまま。

 好みのタイプど真ん中で危険だ。

 夢なら、抱かれてもいいかな……。


「そうさせていただきます、えいっ」

「う、うう……うわらば!」


 けど、あっけなく巨大化したリリィに踏み潰された。

 僕の乙女心とともに。


「あーもう、アルバートの役立たず! まあいいわ、アルバートが死んでも、代わりのアルバートがいるし。これで三人目かしら」

「はっはっは、さすがリリィだなー。アキラ、父さんの改造はすごいだろう? 巨大ロボットも男のロマンだからな!」


 父さんと母さんが、リリィの頭の上に乗って騒いでいる。聞かなければよかったと思うような内容だ。

 百メートル……いやニ百メートル? リリィは今もなお、どんどん大きくなっているようだ。

 あまり大きいと、自分の重さで立つこともできないんだぞ。夢だからいかなる理屈も通用しないのか。

 そのうち、地球をまるごと抱えられるくらいに大きくなるんじゃないだろうか。そうなるといよいよ逃げられないなあ。

 宇宙に逃げるのは嫌だ。外星植民地はご飯が美味しくないらしい。

 春夏秋冬が楽しめないとも聞く。何より武州多摩が僕は大好きだ。

 観念して地べたに座り込んだ僕は、不思議と安心した。

 逃げなくていいと決めれば楽なのだ。逃げるから苦しくなるんだ。

 リリィなら、僕が死ぬまで僕を守ってくれるだろう。

 僕を愛してくれるだろう。

 それはまちがいなく、かけがえのない幸福なのだろう。

 

「アキラ、これからも愛と平和でいっぱいの毎日を送りましょうね。私は、そのために生まれてきたんですから」  


 僕は温かく巨大なリリィの胸に抱かれた。夢はそこで終わった。

 

 目が覚めたときは、やっぱり寝室の布団にきちんと寝かせられていた。

 いつもの朝と違うのは、僕が裸で寝ていたことと、やっぱり裸のリリィが布団の中で横たわっていたこと。

 何もなかった。そう思いたい。そうじゃなければいけない。

 頭の中でブツブツ言いながら、僕は二度寝することにした。

 日曜日だから、リリィは僕を起こさない。

 日曜日は寝坊しても良い日と決まっているのだ。

 起こさないかわりに、僕の隣で一緒に寝ている。

 

 リリィは眠る機能があるんだろうか。

 

 夢を見るんだろうか。


 AI機器を待機モードに移行させて、最低限の機能だけで電気の羊を数えているのかもしれない……。



 おわり

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リリィに首ったけ? 西川 旭 @beerman0726

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