もし僕らのことばがワインであったなら

ミナガワハルカ

カプレーゼは最強。赤にも白にも泡にも合う!

 M氏はため息をついた。


 ……だめだった。


 「さいかわ水無月賞」の最終選考対象者。残念ながらそこにM氏の名はなかったのである。


 M氏は机をたたき、立ち上がる。


 こんな夜は! そう! 酒だ!


 時刻は20時。夕食は済ませた。ならばここは、そう、ウイスキー!


 ロックグラスに氷を入れ、スコッチを注ぐ。氷が硬い音を立てて割れる。

 軽くステアしてから、口をつける。

 スモーキーな香りとともに、冷たくて熱い液体が喉を通過していった。


 ちなみに、M氏が一番好む酒は赤ワインだ。

 基本的にはしっかりした方が好みなのでブルゴーニュよりボルドーなのだが、しかしそこは気分と料理次第。ピノ・ノワールがいい時だってある。


 ただ、夏はやはり白ワインだ。

 暑い暑い、夏の日の昼下がり。

 場所はそう、広い庭の芝生の上にしよう。

 吹き抜ける爽やかな風。木陰に椅子を置き、冷えた白ワインをキュッとやる。

 何たる至福。


 ……早く庭付きの家に住みたいものだ。

 M氏はグラスを回し、香りを嗅いだ。


 M氏が今呑んでいるのはスコッチだが、バーボンも好きだ。どちらも独特のクセがある。そこがいい。飲みやすいものは少し物足りない。

 ボウモアなど、ほとんど正○丸の匂いと変わらない。なぜそんなものが旨いのか我ながら疑問に思うときもある。だが、それでも旨いのだ。納豆だって一日放置した体操服の臭いがするではないか。


 M氏は他に、ビールや日本酒を好む。だが焼酎はあまり飲まない。付き合いでスナックに連れて行かれると大抵、焼酎の水割りが供されるので、そういう時は別に麦でも芋でも不満なく飲むのだが、なぜか自ら進んで飲もうという気にはならない。理由はわからない。


 店での一杯目はほぼ「とりあえずビール」だ。


 この「とりあえずビール」。

 ビールを軽んじているとか、失礼とか、否定的な意見をしばしば目にする。

 だが、本当にそうだろうか。「とりあえず」という言葉の表面的な意味にひきずられてはいないだろうか。


 もし、さいかわ水無月賞の最終選考対象者が、

「とりあえずM氏。あとはゆっくり考えます」

 だったら、彼はさぞかし旨い酒が飲めるだろう。


 その他、M氏はビール、日本酒についても好みやこだわりがあるのだが、残念ながらそれを書くには余白が狭すぎる。


 一番好きなビールはギネスであること。そして、愛飲の日本酒は岡山の「嘉美心」の2L紙パックであることを記して、今日は筆をおきたいと思う。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もし僕らのことばがワインであったなら ミナガワハルカ @yamayama3939

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ