第18話


「和、急げ!」

「わかってる」

花束を両手で抱え、約束の場所へ夜慧ともに駆ける。

すでにそこには葵に小梅、先輩方がいた。

「あ、和たち来た」

「二人とも遅刻よ」

すみません。と夜慧ともに息も切れ切れ謝り、呼吸を整え顔をあげる。

そこには久末先輩がいた。

手術結果は『奇跡』だというが多分『軌跡』のほうだろう。

みんなが久末先輩の道しるべとなり、その道を歩いてきてくれたから、きっとここにいるのだろうと、私は思う。

ただ、後遺症として足の負担が重く、歩くのは今後厳しい。とのことだった。

さらに今は体が麻痺しており、喋ることも、手を動かすことも出来ないという。

私は一歩、一歩と前にでて、そっと手の上に置くような形で、白のダリアを置いた。

久末先輩が震える口でなにかを伝えようとしている。

聞こえない。それでもはっきりと伝わった。

それは私も言いたかったこと。

「――私もです。久末先輩」

私がそういうと、ゆっくりと変わらない笑顔で久末先輩が笑った。

「みなさん、本当にありがとうございました」

久末先輩の両親が頭を深々と下げる。

もうここの医療では限界ということで、久末先輩は引っ越すのだ。

「ほら、いっちゃうわよ」

「チューするなら今ですよ」

「いや、今じゃなくていい。元気になったらそのときに――」

天辰先輩はそこまで言って、頬を赤く染めた。

「久末先輩、またドッジボールやりましょう!」

走り出す車がみえなくなるまで私は手を振り続けた。


参考文献

前世を記憶する子供たち 著 イアン・スティーヴンソン 訳 笠原敏雄

「日本の神様」がよくわかる本 著 戸部民夫

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黒猫ドッジボール 万年一次落ち太郎 @7543

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