第17話 君とドリーム☆チェンジ!

 あの日から2日がたち、ついに5月に入った。

 桜はもう散ってしまって、新緑になり。

 放課後、わたしは中庭で一人、風に吹かれていた。

 香凌学園って、自然がとってもきれいだから、風も気持ちいいんだ。


「ん~」


 両手を広げて、新鮮な空気を胸いっぱいに吸う。

 すると、後ろから足音が近づいてきた。


「なにしてるんだ、こんなところで」

「あっ、紀月くん!」


 振り向くと、そこにはランドセルを片手に持った紀月くんがいた。


「ここって、お花とか緑がすごくきれいだよね!」

「まあ、緑化りょっか委員が毎日欠かさず手入れをしているからな」

「へえ、そうなんだ」


 きっと、心を込めて手入れをしているんだろうな。

 紀月くんは、ベンチにあるわたしのランドセルの横に、自分のを置いた。


「夢生」


 ふと、真剣な声で呼ばれる。

 紀月くんは少しだけ視線を逸らした後、貫くようにわたしをまっすぐみた。


「ありがとう。俺と、ドリームバディになってくれて。いや、それ以前に、ドリームチェンジャーになってくれて」

「え……」


 まさかお礼を言われるなんて思ってなかったから、わたしはびっくりして固まる。

 ……そういえば、最初は右手の印を受け入れられなかったんだっけ。


「このまえ影を浄化したときだって、俺一人だけじゃきっとだめだった。だから……ありがとう」

「......うん! わたしこそ、ありがとう!」


 ふんわりと、胸が温かくなる。


「これからも俺とドリーマーバディとして、守ってくれるか」

「もちろんだよ!」


 わたしたちは暖かな夏の近づく風の中、笑いあった。


―――いつかきっと言うから、そのときは紀月くんに聞いてもらえるといいな。

わたしとお父さんの話。

いろいろ心配かけちゃったかもしれないし、謝ろう。そして、お礼が言えたらいい。

……ありがとうって。



「あー、こんなところにいた!」


 聞き覚えのある声に振り返ると、校舎の中から依悠くんが飛び出してきた。


「二人とも、下校時間過ぎてるよ!」

「えっ、ほんとに!?」

「まじか。門が閉まる前に出るぞ」

「はーい!」


 中庭にわたしの返事が響いた。



 芝生のグラウンドを駆けて、なんとか無事に門を抜けたわたしたち。

 会話する二人の隣で、わたしは考える。


 香凌学園に入学してまだ1週間も経っていないし、メイドの仕事だってまだまだ慣れないことばかりだけど。

 でも、辛いとき、苦しいとき、みんなと支え合うことができたら。

 それって、すごくいいことだよね。


 まだ、心の底から“信じる”ことは、難しいかもしれないけど。

 少しだけ、頑張ってみようって思ったんだ。

 そう思えたのはきっと、紀月くんのおかげだね。


「今日、紀月の家で勉強会しよーよ! 5月入ったから、定期テストも近くなったし」

「て、定期テストっ!?」


 そ、そんなものが!

 単元テストとかじゃなくて!?


「夢生ちゃんも一緒にやろ!」

「仕事は今日休みだし、いいんじゃないか」


 そ、そんな、紀月くんまで〜。


「い、いいけど……」


 編入試験があるくらいだもん。私立の小学校のテストなんて、絶対難しいよね。

 今から不安だあ〜!


「よっし、決まり! じゃあ夢生ちゃん、おれが今まで授業でやったとこ教えてあげるよ」

「え、ほんとに!? ありがとう!」


 それは心強い!

 依悠くんなら、きっと教え方も優しそうだし、すぐわかっちゃいそう!


「紀月くんもテスト、がんばろーね!」

「夢生も、赤点取らないようにな」

「あ、赤点!? なにそれっ!」


 ランドセルの揺れる音が心地いい。

 わたしたち三人は笑いながら、夕日の下校道を歩いていった。




  ―――夢の中は、無限大だ。

 ありえないことだってできるし、昨日のことをそっくりそのまま映像にすることだってできちゃう。


 ただが夢。されど夢。


 わたしたちドリームチェンジャーは、夢の中だけでも幸せになれますようにってお願いをするんだ。


 紀月くんと、みんなの夢と街を守るために。君を護るために。

 これからもどんなことがあったって、きっと負けないよ。


 わたしは君と、ドリーム☆チェンジをする!

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ドリーム☆チェンジ! 桜田実里 @sakuradaminori0223

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