第16話 星座のジュエリーと夜空
さわさわと葉っぱのこすれる音がする、森の中。
隣にはふたつ、ランドセルが転がっている。
戻ってこれたんだよね……ってことは、影を浄化できた……のかな?
よかった、とわたしはほっと胸をなでおろした。
影から街を守ることができたし、悪夢を終わらせることができた。
わたしは起き上がる。
ごつんっ!!
「っいったあ~!」
その瞬間、頭にとんでもなく大きなものがぶつかる音がした。
続いて頭に痛みを感じる。
びりっと全身に稲妻が走ったみたいな感覚。
「うう~」
あまりの痛さに背中を丸めて頭を抱えた。
なんだか、くらくらする……。
「どうしたんだ、お前」
「あっ、紀月く~ん」
涙目になりながら横を見る。
「えっ、何で泣いてるんだ」
「なんか頭に……当たったみたいで」
「頭に?」
紀月くんはあたりをきょろきょろする。
そしたら、何かを見つけたみたいに視線が止まった。
ようやく痛みが治まってきて、起き上がる。
「なにかあったの?」
「……たぶん、これだな。夢生の頭に当たったのは」
わたしに何かを差し出してきたので、覗き込んでみる。
「えっ、まって、なにこれっ!?」
思わず大声を出して驚く。
その手のひらにあったのは、握ったって光がはみ出してしまいそうなほどに大きい青色の宝石!
キラキラ輝いて、まぶしい。
「これは……星座のドリームジュエリーだ」
「星座のドリームジュエリー?」
そういえば芭由ちゃんのときもドリームジュエリーとかって、夢を改変したときに生まれた石があったけど……。
それとは、名前がちょっと違う。
「星座のドリームジュエリーは、普通のとは別なんだ。その名の通り、12星座の宝石――星座石がモチーフのドリームジュエリーで、簡単に言えば、夢の力で生まれた本物の宝石になる」
紀月くんは少し驚いた様子で、説明してくれた。
そんなのがあるんだ……! トリコにする輝きに、わたしは口を半開きにする。
「これは乙女座の星座石、サファイヤだな。俺も、初めて見た」
「サファイヤなら、わたしも聞いたことあるよ! それで、“初めて見た”って、星座のドリームジュエリーを?」
わたしがたずねると、紀月くんはうなずいた。
「ああ。星座のドリームジュエリーは低い確率で獲得できるらしい。星座分あるから、これは12個のうちの1つだ」
ちょっと持っていてくれ、とわたしに宝石を預け、なにやらランドセルの蓋を開けて、ガサゴソとなにかを探し始めた。
そしてファイルを取り出し、中から一枚の紙を手に取る。
「なにそれ?」
「俺が、描いたやつなんだが……」
紀月くんはわたしにぺらりと紙を見せた。
「……え」
紙には、幼稚園児のらくがきみたいなものが描かれていた。
正直……なんの絵か分からないくらい。う〜ん、動物と、色の塊? 数字も書いてあるけど。
か、カラフルだなあ。
「っ、やっぱやめだ!」
わたしが見ていると、紀月くんはバッと紙を腕で隠してしまった。
この反応……もしかして。
「それ、紀月くんが描いたのっ?」
すると、紀月くんは顔を若干頬を赤くしながらそっぽを向いた。
「……だったら悪いか」
やっぱり!
「絵は下手なんだ! 仕方ないだろ」
「え~、もう一回! ちゃんと見てなかったし!」
そうせがむと、紙を畳んでファイルにしまってしまった。
一見何でもできる完璧王子様に見えるのに意外な一面もあるんだなあと、わたしはほおが緩んだ。
わたしが思ってるだけで本当は、紀月くんは遠い存在じゃないのかもしれない。
「それで、なにを描いてあったの?」
「星座の絵と宝石だ。絵のほうが分かりやすいと思ったんだ」
「なるほど~」
じゃあ動物っていうのは、間違ってなかったのかも?
すると、紀月くんはランドセルから取り出したメモとペンで、さらさらと何かを書き始めた。
絵、ではなさそうだけど……。
わたしは紀月くんの手元を覗き込む。
「わっ、すごいわかりやすい!」
メモには、12星座と宝石の名前が書いてあった。
えーっと……
さっき紀月くんが言っていたように、12星座だから、あたりまえだけど宝石も12個ある。
知っている名前のものもあるけど、想像もつかない名前の宝石もある。
「星座のジュエリーは、流れ星として空には流さないんだ」
「えっ、どうして?」
何か理由でもあるのかな。
紀月くんはメモ帳を閉じてランドセルの中にしまいながら、答えてくれた。
「お告げでは、星座のドリームジュエリーは流さないことになってるんだ。いや、流してもいいんだが、手元に保管しておいて、12個集めると何かが起こるらしい」
「なにかって、なにっ!?」
わたしは、きらりと目を輝かせた。
そういうのって、わくわくするよねっ!!
「それは俺にも分からない。だけどこれで1個だから、その“なにか”に近づいたことは確かだな」
「へえ~、なんだろう、楽しみ!」
そのときまで、紀月くんとバディでいられるといいな。
でも夢を改変することは悪夢を見ている人がいるってことだから、仕事はないほうがいいんだろうけど……でも、そう考えてしまう。
「今度、ちゃんと12星座分表にしてくる。もちろん文字でな」
「うん! りょーかいっ」
わたしはぴしっと敬礼ポーズをしてみた。
紀月くんの絵が見れないのは残念だったけど、いつか見せてくれるといいなあ。
「さあ、帰るぞ」
わたしたちはランドセルをしょって立ち上がる。
宝石は、スカートのポケットの中へ入れておいた。
空はもう真っ暗だ。きっと学校には誰もいないだろう。
「校門……はさすがに開いてないから、穴から出よう!」
「穴?」
紀月くんが首をかしげる。
わたしは、編入初日に依悠くんの案内で通った森の中の道のことを言ったんだけど、伝わらなかったかも?
すると、思い出した様子でこう言った。
「依悠が作った通り道か」
「えっ、依悠くんがつくったのっ!?」
「ああ。4年間毎日登校の時に同じ場所を通ったらできたらしい。動物の通り道を木がよけるのと同じような原理なんじゃないか」
「へえ、そうなんだ! ふしぎだね~」
「たぶん近いと思う。こっちだな」
出口へ向かって、わたしたちは歩き出す。
森には、葉っぱの隙間から星の光が差し込んでいた。
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