りょりょりょ
藤泉都理
りょりょりょ
金の額縁に赤の簡易マットの賞状額に、仰々しく納まっているのは、成績原簿。
大学名、学部名、学科名、学籍番号、氏名、生年月日、入学日、卒業日、科目名、単位、評価、年度が記されたこの成績原簿は、父親にとっては、卒業証書よりも無事に大学を卒業した証、らしい。
科目の単位は取れているものの、お世辞にも評価は高いとは言えない成績原簿を、玄関先の壁に堂々と鎮座させるのは恥ずかしくはないのか。
実家に帰る度に抱く疑問をしかし、父親にぶつけた事はない。
本人が満足しているならそれでいいし、何より、父親のように、あんな目を覆いたくなるような評価を取らないぞと反面教師になってくれているので、いいのである。
近い将来確実に。
鳶が鷹を産んだと言わしめて見せるのだ。
これだから一人親は、特に父子家庭はダメなんだ。
などとふざけた事をのたまう口を須らく塞いでやるのだ。
「フハ、フハハハハハ。おう。親父。優秀な一人息子が帰ったぞ。盛大にもてなせよ。ほら。土産の高級酒だ」
「おーう。わしの大事な一人息子よ。わしもおまえの為だけに、今や高級魚に昇進した鰻を食わせてやっからな。居間で待ってろや。あと何度も言ってるが。わしは漁師だが下戸で、土産に酒は飲まんからもらってくんな、土産は高級菓子にしろって言ってんだろうが」
「しょうがねえだろ。親父にどうぞって、ゼミの先生がくれるんだからよ。どうせ漁師仲間に渡して無駄にはならねえんだからいいだろうが」
「ふん。言ってんだろうが。断れってよ。それとも何か?親父が漁師のくせに酒が飲めねえ、なんて恥ずかしくて言えねえってか?」
「ちげえよ。先生の厚意を無下にはできねえってだけじゃねえか」
「何言ってんだ。私は飲めないからお父上にどうぞって言われて持たされたんだろ。不用品を押し付けられてるだけなんだよ。おめえは」
「それがどうしたってんだ?貰えるもんは貰う。それで親父は漁師仲間に喜ばれる。それでいいじゃねえか」
「ふん。ゼミの先生がどんだけ偉えか知らねえが、信用しすぎると痛い目見るからな」
「フハハハハ。そんな事は百も承知だ。つかず離れず。利用してやるぜ。骨の髄までなあ」
「おう。それでこそ、わしの息子だ」
「フハ、フハハハハハ!」
「ゲハ、ゲハハハハハ!」
玄関を開けようとしていた漁師仲間は、久々に騒がしい二人のやり取りを聞き、顔を見合わせてにっこり笑った。
「おうーう。息子が帰ってきて嬉しいんだなあ。まつきっつぁん」
「元気いっぱい口がなめらかだあ」
「ヘヘヘ。またうめえ酒を相伴させてもらおうじゃねえか」
「おいおいおい。酔っぱらい過ぎんなよ。今日は帰省を祝って、花火パーチーをするんだからな」
「「「「ひぃえっひぃえっひぃえっ。いやあ。俺たちもはしゃいじまってんなあ」」」」
(2024.7.18)
りょりょりょ 藤泉都理 @fujitori
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