20話「遺跡調査にて出発」

 自らの女性としての権利を全て渡すという契約を交わすと、俺とヒヨリは遺跡調査において限定手的にパーティーを組むこととなり、彼女は食い入るような視線を向けながら歓喜の声を上げていた。


 そしてヒヨリから嘘は絶対に駄目だということを言われて念を押されると、


「ああ、もちろんだ」


 そう短く返して決して嘘は言わないことを誓うと共に親指を上げて返す。


「か、かか、感謝するぞ! ロニエル=マーキン!」


 すると彼女は先程教えた偽名で感謝の言葉を口にすると、そのまま両手で右手を力強く握り締めてきた。しかしその偽名は未だにヒヨリの中で健在なのかと思われるが、そう言えば彼女にはまだ真名を明かしていないという単純な事に気が付く。


 けれど今はまだ真名を教える訳にはいかないとして、


「んじゃ、契約は成立だな。今更取り消しとか効かないからな」


 酒場を出る為にも席を立ちながら再度契約成立の確認を行う。

 

「当たり前だとも。それよりも貴方の本当の名前を――――」

「また明日会おうぜ~」


 ヒヨリの声に被せるようにして敢えて自分の声を強引に割り込ませると、懐から飯分の代金を取り出して机の上へと置いていき、矢継ぎ早に右手を振りながら足を進ませると別れを告げて酒場から静かに立ち去る。


 そして酒場を出て直ぐに現在時刻を確認すると既に21時ぐらいであり、これなら良い頃合だとして早々に宿屋へと戻ることにすると、それは偏に明日の仕事を完璧にこなす為にも必要なことであるのだ。


 まあ要約して言うのであれば、ふかふかのベッドの上で寝ることで疲れを完璧に取り除いて、万全の状況でトレジャーに望むということである。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから無事に宿屋へと到着して自分が借りている部屋へと戻ると、早々に寝たい所ではあるのだが生憎とそうもいかない自体へと遭遇している。その主な理由というか原因としては、道具類の手入れをしなければならないからである。


 そう、トレジャーハンターは宝を見つけて回収することが主たる仕事であり、その為には必要な道具が星の数ほど存在するのだ。つまりそれらの道具を整備しなければ本番の時に使い物にならず、延いては整備不足で自らの命を落としかねない事態へと陥ることになる。

 

 それに宝を目の前にして死ぬというのはトレジャーハンターとして、これ以上とない屈辱感を味わうことになるのは容易に想像できることなのだ。


 故にクロックフォード家でトレジャーハンターとしての教育を受けた際にも、道具の整備は怠るなという事を何度も教えられて今や若干トラウマ気味ぐらいである。

 

 なんせ少しでも整備を横着すれば透かさずメイド達からお仕置きを受けることとなり、それは今思い返しても即座に全身を強ばらせることが可能で本当に恐ろしいことなのだ。

 その中でも特にメイド長のナイフダーツというお仕置きは何度も死ぬ思いをさせられたな。

 

 何故なら全身を丸太に縛られ固定されると頭部にリンゴを乗せられて、それをメイド長がナイフを投げて命中させるというお仕置きだからだ。


 これは話だけを聞くならば単純なものに聞こえるかも知れないが、少しでも手元が狂えば顔面へと鋭利なナイフが突き刺さるという中々に恐怖なものである。


 一体あれのせいで何回メイド達の前で失禁させられたことか。

 ちなみに言うと一度も顔にナイフが命中することはなく、唯一危ないのは少しだけ耳の端が削がれたことぐらいだ。


 まあそれでも当時の俺はトレジャーの練習としてメイド達の下着類を宝に見立てて何度も回収しては親父に高値で売りつけていたし、今思えばそれが気づかれていてお仕置きにも気合が上乗せされていたかも知れないな。


 だけどそれは幼い頃のただの遊びではないか。許せよメイド長とメイド達よ。


「はぁ……。つい懐かしい記憶を思い出してしまったな。まあ殆どはトラウマみたいなものだけどさ」


 道具の整備ということで芋づる式に記憶が掘り起こされて感慨に浸るが、やはりそれは純然たるトラウマで普通に恐怖でしかなく、今度屋敷に立ち寄ることがあれば何かしらの復讐をするとしよう。この数年越しの思いをとくと受ければいいぞメイド達よ。


「……まっ、それでも一応は教えて貰ったことだしちゃんと道具の整備はしとかないとな」

 

 突如として湧き起る復讐の衝動を一旦抑えると頭を掻きつつも、道具の全てを床に広げて一つ一つ手に触れて念入りな整備を開始する。


 それから5時間ほどが瞬く間に経過して眠気に襲われ始めた頃に、漸く手入れが終わりを迎える事が出来ると遺跡調査においては万全な体制が整えられた。


「ん~むりぃ。おやすみぃ」


 そして手入れで全ての集中力を使い果たすと気力のみで立ち上がり、そのままベッドの上へと倒れ込み屍のように眠りつくのであった。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆


 

「コケコッコォォォオ!」


 唐突にも外から馬鹿みたいな鶏の声が聞こえてくると、それは遺跡調査当日の朝を迎えたことを意味していて、眠り眼を手で擦りながらも重たい体を起こしてベッドから降りる。


「ふぁぁ~っ。全然寝た気がしないのだが……まあ仕方ないか」


 欠伸をしつつ確実に寝不足だという事を実感しながらも適当に身支度を始めると、寝る前に整備した道具達をコートの中へと全て収納していき、部屋を出る前に鏡の前で髪型と表情を整えていく。


 一応これでも貴族の生まれということもあり身だしなみに関しては気を使うのだ。

 まあそれでも今回は特に気を使わないといけない理由がある。

 それは遺跡調査という大事な仕事があるからだ。


 やはり普段から適当に過ごしている者には得られる物はなにもないだろうが、こうして些細な事が行える者にこそ幸運というのは与えられると俺は信じている。

 

 つまり少しでも運を上げる為のおまじないということだ。

 実際に意味が有るかどうかは遺跡調査にて明らかになるだろうけどな。

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勇者一行から追放されし流離いのトレジャーハンター、幻の10の指輪を探し求めて旅をする。~この世の宝や隠された財宝は全て俺の物~ R666 @R666

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