三分間のデート

今日は男にとって、特別な日だった。

何せ、この日は彼女との初ディナーだったので、彼がそう思うのも無理はなかった。


しかし───運が悪いことに、彼が予約していたレストランの不手際によって、そのレストランに行かなくなったため、二人っきりのディナーが出来なくなってしまったのである。


男がこの事実を知ったのは、デート当日の前日。

つまり、どうあがいても絶望なわけである。

そのことに対し、男は当然ながら焦り、打開策を考えた。

考えに考えに考え───結局、嘘を付くのを諦めたのか、彼女にこの事実を告げることにした。


「ごめん、今日はディナーが出来ないんだ」


男の家にて、彼女に向けてそう告白する男。

その言葉を聞いた彼女は、きっと失望するに違いない。

男はそう覚悟を決めていたが、当の彼女は


「ディナーならここでも出来るよ?」


キョトンとした様子でそう言った後、彼女はキッチンの上にある棚の中から何かを手に取ると、その何かをテーブルの上に置いた。

その何かはいわゆるカップラーメンで、ポカーンとしている男を尻目に、彼女は電気ケトルに水を入れ、お湯を沸かし始めた。


「食べる?」


そう言うと、カップラーメンを男の前に差し出す彼女。


彼女の言葉を聞いた男は、ハッとした表情になると、すぐさまそのカップラーメンを手に取ると


「ありがとう」


と言うと、カップラーメンの蓋を開け、かやくなどを入れた後、電気ケトルからお湯を入れた後、蓋の上に箸を置いた。


男は、最初ディナーが出来なかったことに対し、罪悪感と後悔の混ざった感情になっていたのだが、彼女の機転によって、今現在の男は罪悪感と後悔から抜け出す事ができ、彼女のことがますます好きになっていた。


それから二人はカップラーメンが出来上がる時間まで、お互いの近況や愚痴、次はどこに行くかなどなどのありふれた会話をした。

そして、カップラーメンが出来上がると、男と彼女は蓋を取り、スープの素などを入れ、それを混ぜた後、カップラーメンを食べ始めた。


ズルズル

ズルズル


麺を啜る音が部屋の中に心地よく響き、時を刻む針はカチカチと小刻みに動いていく。

傍目から見れば、これはただの夕食なのかもしれない。

しかし───二人にとって、この時間がとても大切なものなのは間違いないだろう。


「ごめんね」


と男が言うと


「どうしてあなたが謝るの?」


彼女はニコッと微笑みながら、そう言った。


そんな優しくも臨機応変な彼女の一面を見た男は、カップラーメンの熱気にやられたのか、少しだけ赤くなっていた。

この日のディナーは、二人にとって特別なディナーとなり──二人が結婚してからも、ディナーと称して家でカップラーメンを食べるようになったのは、そう遠くない未来である。

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カップラーメンを待つ間に読む小説 @marumarumarumori

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