第2話

 ガード下の居酒屋はサラリーマンたちで賑わっていた。


 「久しぶりだね? 唐沢君」


 木下は中学の時同様、私の事を「唐沢君」と呼んだ。

 木下はすでに頭頂部が薄くなっていた。


 「約40年ぶりだな? 木下は今、何をしているんだ?」

 「電気メーカーで研究職をしているよ。木下君は?」

 「俺は定年まで後3年の窓際族だよ」

 「僕もだよ。自分が定年になるなんて思いもしなかった。サラリーマンをするために人生の半分があったのかと思うと虚しいよ」


 そう言って木下はビールを一口舐めた。


 「それでどれくらい集まるんだ? クラス会?」

 「今のところ18人だよ」

 「42人クラスだから、半分集まれば優秀だな?」

 「まだ連絡が来てない人もいるからもう少し集まると思うよ」

 「それで誰が来るんだ?」

 

 私は後藤が来るのか探りを入れた。


 「高田君に小野寺さん、それから佐藤さんに今村君。珍しく今回は後藤さんも来ると言っていたよ」

 「そうか? 後藤祥子も来るのか?」


 嬉しかった。


 「後は地元会津にいる人たちだね? もう連絡がつかない人もいるのは寂しいよ」

 

 クラス会は5年ごとに東山温泉でやっているようだったが、その頃私は多忙を極めていたのでクラス会には出席出来なかった。

 だが本当の理由は他にある。東京からのアクセスが悪いことと、もう会津には実家もなく、特別会いたい奴もいなかったからだ。


 「みんな悦ぶと思うよ。今回は唐沢くんが参加してくれて」

 「それはどうかな? 俺はみんなと少し距離を置いていたから」

 「それは僕も同じだよ。昼休みにみんなと校庭でサッカーもしなかったしね?」

 「でも木下は勉強は出来たじゃないか?」

 「理数系だけだけどね?」

 「それが出来ればあとはなんとでもなるからな?」


 木下とはクラスこそ違うが同じ会津高校の出身だった。

 俺は普通科、木下は理数科だった。

 確か大学は青山だったはずだ。大学院まで進んだと噂では聞いていた。


 

 当たり障りのない話を1時間ほどして私と木下は別れた。


 「今回はクルマで行こうと思うんだけど、木下も一緒にどうだ?」

 「ありがとう、僕は電車が好きなので大丈夫。磐越西線から磐梯山を見るのが楽しみなんだ」

 「そうか、それじゃあまた会津で」

 「うん、またね? 唐沢君」


 去っていく木下の背中が小さく見えた。

 クラスメイトの老けた姿を見て、自分も同じだと苦笑いをした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋ほど切ない恋はない 菊池昭仁 @landfall0810

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ