氷の鞘
九戸政景
本文
「やっべ、遅刻遅刻!」
その日、俺こと
そうして足が渦巻きになりそうな程に急いでいると、その横に涼しい顔で追い付いてきた奴がいた。
「おはよう、刀士」
「
並走する
まず少し女顔ではあるが少しハスキーなボイスも相まって異性からの人気は高く、家も中々のお金持ちだ。その上、料理も出来て文武両道、人当たりもよいというどうして俺の幼馴染みをやっているのかと疑問に思う程のハイスペックだ。とりあえずラブコメの世界に帰ってほしい。
そしてそんな俺に対して雅也は不思議そうに首を傾げる。
「変か?」
「お前、いつも俺なんかより早く起きてるだろ! なのに、どうしてこの時間に一緒に走ってるんだよ!?」
「大好きな幼馴染みと一緒にいる時間を多くしたい。それ以外に理由はいるのか?」
雅也は真顔で聞いてくる。その姿を見てため息をついていると、雅也は走りながら鞄を探り、美味そうなおにぎりとペットボトルのお茶を渡してきた。
「刀士、ほら」
「お、サンキュ──じゃねぇよ! いまは流石に食いづらいって!」
「それなら俺が食べさせよう。因みに、忘れてきそうだと思って弁当も作ってきているから昼に渡す」
「ああ、ありがとうな! お前のその準備のよさは本気で助かるよ!」
「そうか。それならよかった」
雅也は静かに笑いながら言う。女子や他の男友達には見せたことのないそんな微笑みで。そんな雅也を見てため息をつきながら俺は雅也と一緒に走り続けた。そして朝のホームルーム開始五分前でようやく校門が見え、これなら間に合うと思ったその時、雅也にグイッと腕を引っ張られ、そのまま物陰に連れていかれた。
「ちょ、何するんだよ!」
俺の声も聞かずに雅也は俺を立たせると、そのまま俺の唇に自分の唇を重ねた。
「むぐっ!?」
そして押し付けるようにキスをしてきた後、俺の舌先を自分の舌先でつついてから雅也は唇を離し、嬉しそうな顔をした。
「これで今日も一日頑張れる」
「お前……」
「でも、もっとご褒美がほしい。夜、ウチに来てくれ。そして俺の事を褒めながら可愛がってくれ」
「……わかったよ。俺の刀、お前の鞘におさめてやるよ」
「ああ、待ってる」
雅也は本当に嬉しそうに言う。そんな幼馴染み兼恋人の姿を見てから俺達は遅刻しないように校門に向けて走り始めた。
氷の鞘 九戸政景 @2012712
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