まず根底に愛情があり、その愛情が登場人物たちに行動を起こさせる。
主人公らが抱える「自分のほうを見てほしい」という感情が、彼の周囲で思わぬ事態を引き起こす。愛を求めること、また愛を与えることというのは、どうしてこうもままならないのであろうか。
作中では赤い色が印象的に使われていて、個人的には「赤=愛憎の象徴」という印象を受けた。相反する二つの感情がこの一色の中に併存しているのだ。
登場人物のなかではやはり主人公の父親が秀逸で、容姿も立ち振る舞いも完璧でありながら見るからにミステリアス。この人物を信用すべきかどうか、終始どきどきさせられっぱなしであった。いやまったく、じつに素晴らしい造形である。