第二話 ルナの生体


ルナは人間の言葉を話す。こちらの話している内容もおおよそ分かっている様子だ。さて、何から確認したら良いのか。


ルナはテーブルに置いたコップを手に取り飲み始めた。猫であれば本来、前足を使って水を飲んだりしない。飲んだとしても足を浸して、その手を舐めとる程度だろう。


何故コップの使い方を知っているのか。私はまだコーヒーを口にはしていない。



次にルナはカニカマを指で摘み匂いを嗅いだ。昨日私がルナに差し出した時と同じ様子だ。そしてそのまま口に入れ咀嚼した。



飲食は人間と同じように行うようだ。



「ルナ、前住んでたところでも、人間の姿だったの?」


「・・・・。」



ルナは私に目を合わせることなくカニカマを食べ続けた。


その後も何度か話しかけるものの、対して返答はしてくれずルナから得られる情報はあまり無かった。こうなるととにかく観察して、どこまでできてどどこまでできないのか自分で調べる必要がありそうだ。




私はテレビをつけてみた。


ルナは音が鳴る方向が気になるようで、すぐに反応した。テレビの前にペタリと座ったまま、しばらくテレビ画面を見ているようだった。しかし、テレビの内容に反応しているような様子はなく、何を考えているのはよくわからない。



30分ほどそうしていただろうか。ルナは急に立ち上がり、部屋の中をうろうろと歩き始めた。何かを探しているようにも見えた。


「ルナ、何か探してるの?」


「排泄。」


・・・・排泄?トイレに行きたいってこと?トイレならこっちだよと扉を開けてあげると、ルナは扉を閉めることなく用を足し始めた。


「ル、ルナ!!扉閉めて…!!」



ルナは聞こえているのか聞こえていないのか、返事をすることも扉を閉めることもしないので、仕方なく私が閉めた。


私があたふたしている間にルナはトイレの扉を開け出てきた。




「ル、ルナ…トイレには自由に行ってもらって構わないんだけど、用をたす時には扉を閉めて欲しいの…できる?」


「できる。」



やっと返事が聞けた。


言い回しが独特ではあるが、かなりの語彙を持っていて人間とそう変わらない生活ができるのかもしれない。ルナは一体何者?猫が仮の姿で、本当は人間?それにしてはなんだか人間味がないし、今までどう生活していたのか想像もつかない。



私はまだまだルナを試してみたくなった。



「ルナ、これなんて書いてあるかわかる?」


私は郵便受けに入っていたチラシをルナの目の前に置いた。



「だい、セール」


「そう…!!じゃあ、自分の名前は書ける?ルナってカタカナで書くの。」



ルナは私からペンを受け取ると子供のように握りしめて持ち、見事ルナと書いてみせた。お世辞にも綺麗とは言い難いが、文字の読み書きもできるようだ。


「すごい…!!すごいよルナ……!!」


私は天才猫を見つけたかの如く、はしゃいでルナを撫で回していた。他人から見ればそこそこ大きな男が文字を書いただけで騒いでいる奇妙な光景だろうが、私はどうにもルナが猫にしか思えないのだ。



撫でられたルナは気持ちよさそうに目を細め、そのまま溶けてしまうように脱力していった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫を飼うつもりが さびねこ @savinekochan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ