第6話
航空祭当日
山田の少しキレイになった車で、百里基地の正門に向かった。
「航空祭って初めてなんだよね、人が多いから避けてたし」
「そっかぁ、姫は見たこともないんだ?何か今回は、特別公開とかで基地の警備も大変らしいよ」
「皆さん大変なお仕事で、お疲れ様です」
「「あははh」」
案の定、基地の前の道は大型バスで渋滞していた。最寄り駅からの臨時バスたちだ。
「こりゃあ、優遇されてもたどり着けなきゃ意味ないわ」
「気長に進もう。みんな条件は一緒だし」
渋滞にはまってから30分ほどで正門前の
山田が車の窓を開けて、隊員の1人に声をかける。
「澤部!案内してよ」
山田に呼ばれた澤部という人が、慌てて駆け寄ってきた。
「山田先輩!急に呼ばないでくださいよ」
「いいじゃん。それより例の場所に案内して」
「わかりました、ちょっと待っててください」
そう言うと澤部さんは詰所のほうに走って行った。
少しすると戻ってきて、手書きのメモを山田に渡し何か説明している。
「了解、じゃぁ後は頼んだ」
「健闘を祈ります」山田にスチャッと敬礼をして車から離れていく澤部さん。
「山田、彼は?」
「ん?地元の後輩」
正門から中に入り、管制塔近くの関係車両が止まっている場所に停車した。
「これが関係者優遇措置よ!はっはっは」
「私は、関係者じゃないんだけどな…」
「何をおっしゃいます、今日のメインディッシュが!」
「メ・・メインディッシュ?」
山田のスマホに着信音がなり、宮島さんからの連絡だった。
「はいよ!今着いたとこ。いるよ。ちゃんと連れてきたから。プランAね」
「プラン?」
「ひ・み・つ。ちょっと歩くけど、ついてきて」
言われるままついていく。基地の中なんて初めて来たから、はぐれたら迷子になりそう。
戦闘機が並んでるところに来た。自由に見ていいみたいだから、写真を撮る人がいっぱいいる。
山田は、・・また誰かと話してる・・
戦闘機を眺めながら、ぶらぶらと歩いているとどこからか小さな歓声が聞こえてきた。
ざざざざざz
戦闘機の後ろのほうから、ジープが走ってくる。
「おおお」
目の前でジープが止まって、迷彩服の自衛隊員が降りてきた。
「姫子ちゃん」
聞き覚えのある声がする。
「ええ?須佐さん?」
(制服マジックというのか、めちゃくちゃカッコイイ!!いやいや、普段もカッコイイけど・・)
迷彩服の肩に付けた無線から、怒ってるような叫び声が…
≪すさぁぁぁぁぁ!勝手なことするなぁぁぁ≫
「あーーうるさいねぇ、切っちゃお」ぶちっ
須佐さんは無線のコードを引き抜いた。いきなりのことでポカンとしてしまう
「姫子ちゃん?」
「あ・・ああ!はい?」
「今日呼んだのは、今から見せるけど俺からのメッセージがあるんだ」
「メッセージ…ですか?」
人差し指で空を指すと、ブルーインパルスが飛んできた。
基地の中で大勢の歓声が聞こえる中で、須佐さんが何か話しているけど轟音でかき消されてしまう。
顔を近づけてきて、耳元で囁くようにカウントダウンする。
「ファイブ・・フォー・・スリー・・ツー・・」
その瞬間、轟音と共に2機のブルーインパルスがスモークを出して交差しながら急上昇した。
それから円を描くように内側に急降下してスモークを止めると、空に大きなハートのマークが浮かんだ。
「ハートだ!」
「これが俺からのメッセージ、姫子ちゃん・・」
須佐さんが私の肩に腕を回す、迷彩柄のキャップで他の観客から見えないように顔を近づける。
(あ…これは…キス?する?…)
自然と目を閉じてしまう。
幸せな気分の時に意地悪な悪魔がささやくのよねぇ・・・
≪すさああああああ!今すぐ戻らんかああああああ≫
ジープが吠えた。正確にはジープの無線が吠えたのだ。
もの凄い声量に目を開けてしまった…うっ…寸止め?あと1ミリだったのに・・・
「ホントうるさいねぇ…」ジープの無線に応答するため離れていく。
その場に残された私は、迷彩柄のキャップを握りしめていることに気づいて須佐さんを追いかける。
「姫子ちゃんごめん、この後、俺の演技なんだ。F2飛ばすから見てて」
「はい!しっかり目に焼き付けます」
キャップを渡すと腕をつかまれ軽く車内に引き込まれた。
目を開けたまま・・・重なる唇から須佐さんの体温が伝わってくる。
車内無線から響く司令官の声も遠くに消えていった。
素戔嗚尊は櫛稲田姫を溺愛する 笠原源水 @portupano
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