エピローグ

 事故から数ヶ月が経ち、薫子は病院を退院することになった。医師や看護師に見送られながら、薫子は病院の玄関へと向かう。


(私の新しい人生が始まるのね……)


 そう思いながら、薫子は大きく深呼吸をした。

 退院の日を心待ちにしていた家族が、玄関先で薫子を出迎えてくれた。


「薫子、退院おめでとう! 本当によかった……!」


 母が涙を浮かべながら薫子を抱きしめる。


「ありがとう、お母さん。心配かけてごめんなさい」


 薫子は優しく微笑んだ。


 病院を後にし、いつもの街並みを歩いていると、薫子は不思議な感覚に襲われる。

(迷宮での出来事は夢じゃなかった。あの経験があったから、今の私があるのよね)


 事故からの復帰後、薫子は仕事に邁進した。彼女の献身的な努力が認められ、数年後、海外出張のチャンスが巡ってきた。行き先は、憧れの都市パリ。

 エッフェル塔を背景に、セーヌ川沿いを散策する薫子。

 優雅な街並み、洗練されたファッションに身を包んだ人々、香ばしいコーヒーの香り。

 薫子は、まるで夢の中にいるような心地よさを感じていた。

 人生の新たな可能性を感じながら、彼女はパリの街を満喫していた。


 ふと、視界の先に見覚えのある後ろ姿が目に入った。

 まさか……と思いながら近づいていくと、その人物が振り返った。

 そこには、カイトの姿があった。


「薫子さん……! 本当に君なのかい!? まさか! 信じられない!?」

 

 驚きと喜びに満ちたカイトの表情。

 二人は、感動的な再会を果たした。


「カイト君、私たちの経験は現実だったのね…!」

 薫子が言葉を紡ぐと、カイトは深く頷いた。


「ガブリエルの教えは、僕の人生観を根底から変えたんだ。彼のおかげで、科学と宗教、科学と哲学の融合を目指せるようになったよ」


 カイトが熱心に語る。迷宮での経験が、彼の研究者人生に大きな影響を与えたのは明らかだった。


「私も、ガブリエルさんから学んだ勇気と希望を胸に、毎日を全力で生きているわ。人生の意味を見出そうと、常に自分と向き合っているの」


 薫子の言葉からは、迷宮での経験が今も彼女の心の支えになっていることが伝わってくる。


 カイトと語り合うことで、あの不思議な体験が鮮明によみがえってくる。

 薫子は、運命的な再会に心からの喜びを感じていた。


「カイト君に会えて本当によかった。私たちの絆は、永遠に変わらないわ」


 薫子が瞳を輝かせて微笑むと、カイトも深く頷いた。


「ああ、僕たちは一生の仲間だ。これからも、互いに刺激し合いながら、人生という冒険を歩んでいこう」


 二人の再会は、まるで奇跡のようだった。

 しかし、彼らの心の中では、いつかまた巡り会えると信じていたのかもしれない。

 迷宮での絆は、時空を超えて彼らをつないでいたのだ。


 二人は笑顔で握手を交わし、それぞれの道へと歩み出した。

 ガブリエルとの別れは悲しいけれど、彼が残してくれたものは、薫子たちの心の中で生き続けている。


(人生とは、光と闇の狭間を歩むこと……か)


 ガブリエルの言葉を噛みしめながら、薫子は歩みを止めた。

 空を見上げると、雲の隙間から優しい光が差し込んでいる。

 まるで、ガブリエルが見守ってくれているようだった。


「ありがとう、ガブリエルさん。あなたとの出会いが、私の人生を変えてくれた」


 薫子は心の中で呟き、再び歩き出す。

 迷宮での経験は、彼女に生きる勇気と希望を与えてくれた。

 これからは、その想いを胸に、自分の人生という永遠の謎に立ち向かっていくのだ。


(人生には正解なんてない。でも、自分を信じて歩んでいけば、きっと素晴らしい景色に出会えるはずよ)


 そんな想いを胸に、薫子は未来へ向かって力強く歩み出した。

 彼女の物語は、新たな一歩を踏み出したばかり。

 これから先の道のりは、きっと喜びと悲しみ、光と闇が交錯する。

 それでも、薫子は怯まない。

 なぜなら彼女には、仲間との絆と、自分を信じる強さがあるから。


 迷宮での旅は、終わったのではない。

 真の冒険は、これからなのだ。


 薫子の瞳に、希望の光が輝いている。

 彼女はもう、迷子ではない。

 自分の人生の主人公となって、新たな一歩を踏み出すのだ。


 永遠の迷宮への旅は、終わらない。

 人生という名の冒険は、続いていくのだから。


(了)

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【短編小説】永遠の迷宮 ―根源への問いかけ― 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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