第3話 キスと皐月ちゃん
映画も見終わり街をフラフラしながら話す。その内の六割は煽られている。勝つことは出来ない。
「まだ日が出てるのに意外と人がいるね」
「そうだね、花火はもうちょい先だね」
今日のデートの最終目的地は祭りである。意外と大きな祭りで人通りも多く賑わっている。
「とりあえず抱きあっとく?」
「なぜ!?」
「友達に見つかって追いつめられる所が見たいから」
ひねくれている。僕が困る所を見て楽しんでいる。皐月ちゃんが楽しいならあまり否定はしたくないのだがこちらのダメージも大きい。
「道の真ん中じゃ邪魔だしね? また今度で」
少しツンとした表情を浮かべながらこちらを見つめる。ノリが悪いと思われたのか分からないがさすがに無理である。
「……ん」
差し出された手は開かれ何かをねだっているように見える。財布から五百円玉を取り出すが首を横に振りツンとした表情も変わらない。早くしろみたいなジェスチャーを受け何も分からないままとりあえずお手をしてみる。
「いたたたたっ!」
「遅い」
ツンデレと言うにはデレが少ないと感じながらもそのまま屋台を見て歩く。手を繋いでる手で指を指そうとしたりするため毎回引っ張られる。わざとなのかシンプルになのか分からないが、そんな皐月ちゃんが可愛い。そんな皐月ちゃんが好き。
「境也今度アレやろ!」
射的の玉を奪ってくる皐月ちゃんが、フランクフルトを意味深にニヤニヤしながら食べてこちらを見てくる皐月ちゃんが、綿あめ食べるの下手な皐月ちゃんが可愛い。
「青ノリついてるよ? あ~んしてあげようか?」
「綿あめ食べるの下手だったし信頼できないな」
「うぅ、あれはしょうがないと思う」
「この焼きそばには生姜無い」
この空気感も楽しい。いつまでも二人でいられたら幸せだ。そうこうしている間に日も沈み花火が綺麗に見えそうな空になって来た。
「私良い場所知ってるよ」
言われるがままついて行けば人気の少ない公園のベンチに座る。祭りの騒がしさと明かりが見える。
「ここなら人少ないし、花火も楽しめると思うよ」
なぜかここに来て気まずさ流れ出し静かになる。心の中の邪な考えが浮かぶ。付き合ってまだ年も立っていないが進展があっても良い。キスの一回ぐらいなら許されるのではないだろうか。この瞬間皐月ちゃんは何を考えているのか。打ち上げの放送が気まずい空気を壊す。
「もうすぐ始まるって。ちょっと遠いかもだけど二人きりだし、」
二人きり。聞こえる音は遠くの放送と虫の鳴く声だけ。誰にも見られてない。一人で勝手に高揚しながら空を見上げる。
薄く光が昇っているのが見え目で追い駆ける。大きく咲き、魅入られる。音が届き人の歓声がかき消され圧倒される。花火に照らされ、圧倒的な景色に固まる。それを簡単に溶かすような、花火にもかき消されないスッと声が届く。
「奇麗だね」
「そうだね」
耳に響く花火の音、何色もの光の中そっと手をつなぐ。このまま大きく進展していくなんて事を考えない人はいない。音が体に響き心臓の鼓動も大きく感じるような気がする。
「皐月ちゃ――」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえる。騒音をかもし出す男。
「あれ? 境也の友達じゃない? やっぱりデートか~」
少し強引に茂みに引っ張る。良くアニメとかである光景花火がバックライトとなり皐月ちゃんが眩しい。倒す側がよかったがそうこう言っている余裕はない。さっきまで座っていたベンチに座り声を出せばバレる。
「始めてはこんな状況でやりたいんだ~」
「違うか――」
思わずツッコむが指で止められる。その指を口元に当て『静かに』というジェスチャーをする。ハッとし冷静さを取り戻そうとする。
「今のも間接キスだよ?」
皐月ちゃんは冷静にしてくれない。花火の影となり良く見えないがニヤニヤしているのは分かる。顔と顔が近づきやはりニヤニヤしていた。
「したい……? いいよ?」
断ることも出来ず距離だけが近づいてくる。思わず目を瞑るが花火の光が輪郭だけでも分からせてくる。影が段々と広がり近いのが分かる。
「――変態」
耳元でささやかれた言葉に思わず目を開ける。花火も終盤にさし掛かり夜空が明るい。目に焼き付いて離れないこの時の笑み。
皐月ちゃんは儘ならない。
皐月ちゃんは儘ならない!? 天然無自覚難聴系主人公 @nakaaki3150
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