第2話 ホラーを見る皐月ちゃん

 出会ってすぐベタベタイチャイチャし、せっかくの服も汗でベタベタになる始末。無論皐月ちゃんも暑いので今日は映画館に行くことになった。


「何見る~? 人気のはもう空いてないね。ホラーならまだあるよ?」


「……帰るか」


 鞄を思いっきり捕まれ逃げる選択肢は潰された。怖いくらいにニヤニヤしている皐月ちゃんが映画を見る前から怖い。


「逃げんな? 見るよ?」


 反抗の余地は無い。ただ従うのみである。ズルズルと引きずられ席まで行く。


 ただ一つ言っておこう。決して怖いわけではない。乗り気でないというか、時代じゃないよね? みたいな感じである。


「まだ椅子に座っただけだよ~? もうそんなに怖がっちゃって~」


「ちょっと館内が寒いと言うか~? そのせいと言うか?」


 見るからにこの状況を皐月ちゃんは楽しんでいる。ホラーが苦手ということがバレている。だがしかしこちらにもプライドというものがあり、彼氏だからという守ってあげたい精神はある。


 電気が消え、スクリーンがやけに明るく感じる。映画の録画は犯罪と警告され、面白そうな映画の予告が数本流れる。画面は暗くなり、暗い空間が数秒間続く。やけに長く感じ、やけに隣が気になる。


 ガサガサとポップコーンが減っていく音がすごい勢いで聞こえる。このペースだとホラー展開が始まる前に食べ終わってしまうのではないだろうか。


 そんな油断をしはじめた頃、スクリーンが一気に明るくなる。同時にポップコーンの中に手を勢いよく突っ込んでしまう音も聞こえる。


 最初から幽霊が見えるタイプの映画だった。幽霊が奇怪な動きをしながらスクリーン上で人を襲っている。隣から全く音がしなくなり横を見れば固まっている。


「……もしかして、皐月ちゃんホラー苦手?」


「そんな訳ないでしょ……!」


 しかし、驚く瞬間は完全に一致しており、二人同時に後ろに身を引いてしまう。よく見れば僕よりもビビっている。


 試しに少し音を立ててポップコーンを取ればそれにも反応し肩がビクッとしている。少しこちらを睨みまたスクリーンの音にビビる。


「怖いんだ?」


 僕が皐月ちゃんに向かって言うことが出来るレアなケースだ。何よりも可愛い。


「怖くないの……?」


「このくらいならまだ大丈夫だよ」


 いつもはあんなに堂々としている皐月ちゃんの声も体も震えている。彼氏としての威厳、男としての誇りを見せる時が来た。そっと腕を掴まれ、皐月ちゃんが本当に怖がっているのが分かる。


 ――可愛い!! こんな皐月ちゃんを見れるなんて!! 可愛い!!


 映画の内容が入って来なくなりそうなので少しスクリーンに集中する。言われてみれば確かに怖い。


 間、明るさ、カメラの映しかた、巧妙に作りこまれている。ゆっくりとゆっくりと一部が見え始め、一気に来る。映画に集中していたせいか先ほどより怖く感じ、思わすビクッとしそれにつられて皐月ちゃんも一緒にビクッとする。


 軽く叩かれ腕を締め付けられる。大丈夫と言ったそばからコレだすぐに裏切ってしまった。そのまま映画は続きエンドロールが流れ始める頃は腕が痛かった。


「皐月ちゃんも苦手なものあるんだね。なんで自分から見に行ったかは謎だけど」


「境也も苦手だろうと思ってたのに……読みが外れたか」


「可愛かったよ」


 分かりやすくそっぽを向いて隠そうとするも耳が赤くなっているのは見逃さなかった。いつもの仕返しで追い打ちをかけていく。何も言い返すことなく顔まで赤くなり始めた頃思いっきり蹴られた。


「ホラー映画より怖いなんて、」


「ん~? なんて~?」

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