皐月ちゃんは儘ならない!?
天然無自覚難聴系主人公
第1話 皐月ちゃんは儘ならない
夏の日差しが照り付けられ非常に暑い今日。
早起きをして普段朝には入らないシャワーを浴びる。汗の臭いに注意を払いパッケージだけを見てどういう効果があるかもあまり分かっていない。
「なんかめっちゃスースーするな」
自分のもつ最高の服のコーデを引っ張り出し、鏡の前で襟まで気を払う。糸くず一本も見逃さずクールでスマートな感じをどうにかしてかもし出そうとする。
なぜか朝ご飯もしっかりと食べ、なぜか鞄の中の埃まで取る。
「今日はデートだ。スマートに彼氏らしくエスコートする……」
気合を引き締め扉を開ける。音に気付きクルっと体の向きを変え近づいて来る。
そう、彼女が僕とお付き合いをしている
「
ひょこひょこと会えて嬉しそうに抱き着いて来る。伝わる感触と夏の日差しのせいで暑い。今日の皐月ちゃんは甘えてくる皐月ちゃんだ。
多重人格と言うわけではないがいつもとは明らかに違う。こんなに抱き着いてこない。うれしいから許してしまうが、何かを企んでいる。
「おはよ。今日も暑いね~」
「もう完全に夏だよね~」
「アイスとか食べたくなるよね~」
「かき氷とかね~今日行く?」
「暑いから行っても良いね」
一通りの出会ってからの会話は終わる。今日何食べるとかの話も終わった。会話は終わった。
だが、一向にここを動けない。
「……暑いね」
「そうだね~」
「……あの、本当に暑いんだけど」
「そうだね~」
……いや、どいてよ!? ハグは嬉しいけども、感触が伝わって来ちゃっていい感じだけど、暑いよ!!
「どっちが先に音を上げるか勝負だよ。ちなみに負けた方はかき氷おごりね!」
「今日はそう来たか……負ける訳にはいかないね」
皐月ちゃんは儘ならない。唐突に起こる勝負、人工的すぎるハプニング、どれも僕の心をかき乱し全てをぶっ壊していく。
家を出て数秒、ラベルを見て買ったスースーする汗をどうにかしてくれるヤツはダメになった。
汗を気にしたというのにこの猛暑の中抱き合うなど汗を
だがそれは対等。皐月ちゃんとは言え汗は
方や僕の方は今家を出たばかり、この勝負は貰った……!
しかし一向に勝負は決まらない。何人かが通り過ぎ様にこちらを見ながらニヤニヤしている。
「皐月ちゃん限界近いんじゃない? そろそろギブアップしても良いじゃないかな?」
「私はまだまだ余裕だけど? いつもみたいに負けを認めたら~?」
皐月ちゃんのいい匂いが余裕なのでは? と、錯覚を起こしてしまいそうだ。だが、首筋を汗が伝って服にしみるのが見えている。我慢をしているのは分かる。
「僕はまだまだ余裕だけどね。皐月ちゃんは長く持たないんじゃないかな?」
「そう? じゃあ……」
抱き締める力が強くなりさらに密着度が高まる。押し当てられているモノの感触が少し広がる。
「また人の足音が聞こえるよ? 私は見えないけどどんな表情してるんだろうねこんな所見ちゃって」
二人の女性たちがこちらを見つけるなり目を逸らし、コショコショと何かを喋っている。
精神的攻撃と密着度を上げた物理攻撃。両方を使い、ボルテージを上げていく。そしてさらに今まで触れられなかった事。
「なんか腰が引けてるよ~? 暑いんじゃないの~離れたいんじゃないの~?」
「暑さは余裕なんだけどね……その……ね?」
「じゃあ、もっと密着して短期決戦に持ち込んじゃおうっかな~」
手が腰にまわり押さえつけようと力を入れる。反動で上の感触もさらに伝わり、もはや絶体絶命。
「──分かった! 僕の負けだ!!」
「やった~かき氷~」
汗対策も全滅、勝負も敗北、精神もやられてしまった。皐月ちゃんは儘ならない……!!
服をパタパタし、風を通し汗ばんだ身体を冷ます様は勝負した甲斐があったと思わせるものだ。
「行こっか! デートに!」
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