第6話 大団円
マツモトが考えている、
「交換殺人」
というトリックには、
「影がある」
と思っていた。
その影というのは、本当であれば、
「形があるもの」
ということでの影なのだが、元素と分子という発想をした時点で、
「そこは平面で、顕微鏡のようなもので見た感覚」
というものを想像させるのだった。
ただ、微生物であっても、その向こうに陰が見えることがあったのだが、それが、単体が別れた時のものだという感覚から、
「細胞分裂」
を考えるのだった。
それが、変異となるのかどうか分からないが、
「変異」
というのは、ウイルス特有のもので、変異しない他の生物が細胞分裂をするのだと考えると、
「変異」
と、
「細胞分裂」
とでは、どちらが高等動物のものなのか、調べれば分かるのだろうが、知らないということにして、小説に組み込もうと考える。
そんな中で、マツモトが交換殺人について、いろいろ考えていたが、
「やはり、他のトリックと組み合わせなければ難しい」
と考えるようになった。
何が組み合わせやすいのか?」
ということを考えたが、そもそも、
「探偵小説において、単独のトリックよりも、そこに何かを組み合わせたものの方がいいトリック」
というものを考えてみた。
その一つとして、前述の
「顔のない死体のトリック」
というものに、組み合わせるのが、
「一人二役」
というトリックであった。
こちらは、数学的な理論から、なかなか難しいものだったりするのだが、それは、
「誰か第三者を殺して、自分が死んだかのように見せかける」
ということにする時、
「被害者と加害者が入れ代わっている」
というミスリードをすることで、さらに、
「自分が死んだことにすれば、被害者と思っている人間も、加害者と思っている人間も、隠れているわけなので、見つかるわけはない」
ということだ。
しかも、入れ替わったと思われる人間は、本人の一人二役なのだから、存在していないのだ。
「存在していない人間が、警察に捕まることはない」
というのが、犯人側の計画だったのだろう。
その犯罪をもう一つひねってみたのが、
「交換殺人」
というものではないだろうか?
逆に、交換殺人というのは、余計なことをしてはいけないだろう。
「交換殺人」
というのは、それ自体が分かってしまうと、そこから雪崩式に、事件の真相が明るみに出てしまうに違いない。
だから、一人二役だって同じだ。分かった瞬間に、
「まるで数学の公式を解いているようなもの」
ということで、
「一度明るみに出てしまうと、芋ずる式だ」
ということになってしまうだろう。
交換殺人は、下手に策を弄すると、明るみに出やすいともいえる。
お互いに、
「自分に割り当てられたものをこなしていくだけ」
ということになるのだろうが、
本来であれば、ありえないというのは、三すくみのように、
「最初に動いた方が負けだ」
というのと同じ理屈であった。
というのも、
「最初に、犯行を犯すというのは、すべてが相手のためである」
つまり、
「相手のために、殺人を犯すわけだが、その時には、相手に鉄壁のアリバイを作ってやる」
ということになる。
しかし、
「第一の殺人を犯してしまえば、どうなる?」
本来であれば、
「もう一人の犯人が、自分の殺してほしい相手を殺してくれる番だ」
ということになるのだが、相手の身になってみれば、
「自分の消えてほしい相手を、もう一人が殺してくれた。しかも、自分には鉄壁のアリバイがあるわけだ。何も無理して、俺が誰かを殺すなどする必要などない」
ということを悟るだろう。
最初こそ、
「何とか、自分が助かりたい一心で、交換殺人に乗ったのかも知れないが、自分の立場が変わると、欲というものが出てくるだろう」
しかも、
「自分にとって、これ以上ない」
という条件が揃ったのだ。
それこそ、まるで
「盆と正月が一緒に来たようなものだ」
ということになる。
もちろん、相手は、
「約束じゃないか?」
というであろうが、そもそも、
「殺人を犯す」
という明らかな違法行為に対して、しかも、すでに犯行を犯した人が、まだ何もしていない相手に促すということが通るわけはない。
下手をすると、相手から、警察にチクられるかも知れない。
今であれば、
「自分と、利害関係がまったくない相手だ」
ということだから、何もしなければ、警察に疑われることはない。
つまり、もう一人と関係があると警察に分かった時点で、自分も容疑者の一人になるのだろうが、今の時点では自分が犯人だと疑われることはない。
そういう意味で、
「策を弄すると負けだ」
ということよりも、元々が、ガチガチの犯罪計画だということから、身動きができないのだ。
「これこそ、三すくみの関係」
のようではないか?
ということである。
「三すくみの関係に、さらに、三つ巴が絡んでくる」
ということは、
「交換殺人における表と裏」
というものを暴くことになるのではないだろうか?
そんなことを考えていると、
「交換殺人」
というものを計画している、
「マツモト」
そして、その交換殺人に必要な、精神疾患を持った、
「シノザキ」
という二人の関係。
それは、
「昼と夜」
「三つ巴と三すくみ」
と言ったような関係が、
「相対するもの」
という関係ではなく、平面的に
「どちらかが、どちらかのまわりに存在している」
という形を立体的に感じさせることで、まるで、
「メビウスの輪」
のような形にしなければ、交換殺人という、
「現実では不可能だ」
といわれる犯罪を、小説の上でといっても、成功させるのは不可能ではないかと思ったのだ。
「目の前に見える影」
それが、創造上の事件と、実際の事件とがが、
「同一次元で進行しているのではないか?」
という錯覚に導くのであった。
( 完 )
影のある犯罪計画 森本 晃次 @kakku
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