第5話 双葉くん大好きだよぉ!!

そのハイライトを消した瞳でそんなことを言われた俺は.......


「しゅ、しゅみません.......」


まぁ結構必死に謝った、怖かったからね。

え?全然必死そうに見えないって?.......気のせいである。


「......勝手に失踪した、そこであたしは思ったんだよ......一体何してるんだろうって。今までの頑張りは今までなんだったのかってね」

「それに関しては......悪いとしか言えないな」


......気づいたら輪廻のハイライトは戻っていた、きっと無意識だったんだろう......でもいくらなんでもそんなになのか?

だって俺は動画を提供していただけにすぎないのに。


「まぁりとさんが引退したのは何かしらの理由があるんだろうなというのは察してたよ......それこそ、リアルが忙しくなったんだろうなぁって」


まぁ実際俺がやめたのもめんどくさいという理由もあったが......本当はリアルで色々とあっただけだからその推測は正しいと言えるだろう。


「でもさ〜......やっぱりあたしは今まで何してたんだろうって思ったよね。まぁ、なんというか、一言でいえば辛かったんだよね」

「お、おう......」


まさか俺の失踪の裏でこんなことが起きてるだなんて知らなかった。

それに.......俺が思ってる以上に「今まだ頑張ってきた」という思いは強いんだろう......そう考えるとまじで申し訳なく感じた。


「まぁでも......今の様子の通り、最終的には立ち直れたから別にいいんだけどねぇ♪.......んまぁそれで、とにかくまた動画投稿を頑張って、いわゆる大物YouTuberになった.......そしてりとさんに会うことができた」

「それに関してはまじの偶然だよな......まさかほんとに俺らが巡り合うだなんてよ」

「そうだねぇ......あの時はほんとに奇跡だと思った。それであたし達2人は今はまだ仕事仲間になれた!ほんとに夢みたいだよね!!」

「そ、そうか.......」


なんというか......ここまではっきり言われるのはむず痒いものがあるな。

......いや別に嫌なわけじゃないよ?


「けどまぁ、面白いよねぇ♪YouTuberになったきっかけがりとさんに会うための奴が大物YouTuberになるだなんてさぁ......これ、視聴者に知られたらどうなるのかな?」

「そんな変な理由じゃないだろう」


自分で言うのもアレだけど......輪廻がYouTuberになったきっかけはすごく単純なものだ。


「尊敬する人に会うために自分も大物になることを選ぶ......それも若い時を捨ててまでだ。そんなの、誰にでも出来るようなことじゃない......誇ってもいいと思うぜ」

「りとさん.......」


いやだって......尊敬する人に会うために頑張るだなんて......素晴らしいことじゃないか。


「.......ん?」


さっきのセリフを言ってからどうも.......輪廻の様子がおかしい。俺はどうしたのかと彼女の顔を覗くと......


(あ.....あははっ♪いつもいつもあなたはあたしが言って欲しいことを言ってくれる、肯定してくれる......いつもあたしの頭はあなたでいっぱいで苦しいはずなのに..... あなたのことを考えるだけで頭がいっぱいで苦しくて仕方が無いのに、その苦しさがいつの間にか癖になってて......もっとたくさん欲しいって思ったの。

......あたしだけのものだよね?

他の子にはあげないよね?......あたし?

大丈夫、あたしが絶対に守るから。

アナタを邪魔するモノはひとつ残らず消してあげる。

全部あたしだけのもの.......なんだよ?)


​───────笑っていた。

彼女の黄色い瞳が明るくなり、彼女の赤い髪の毛はいつもより暗くなっているような.....そんな気がした。


「......どしたの?」


気づけば彼女は元に戻っていて、すっかりさっきまでの様子は全く無くなっていた......一体なんだったんだろう。


「いや、なんでもない」


これに触れるのはダメだと......本能が理解したのだろうか。気づけば俺はそう即答していた。


「......双葉くんはなんでYouTuberになったの?きっかけはなに?」

「き、きっかけか.......」


さっきまでのことをなかったかのように質問をされ戸惑ってしまう......が、さっきのことは一旦放置でいいだろうと思い、俺はそれに答える。


「俺のきっかけかぁ.......正直教えたくないんだけど、引かないか?」

「引かないよ、あたしがそんなことするなんてありえないしねぇ♪」

「そうか、なら言うが.....ただの自慢だよ」

「.....自慢?」

「あぁ、その通りだ」


これに関しては嘘も何も無く......ほんとにどうでもいい理由なんだよな。ほんとに。


「俺は中学で映像部っていう、単純に映像を作る部活に入ってた......それでまぁ、そこで身につけた技術を自慢したかった、ただそれだけの話だ」

「うい......なんというかほんとに汚い理由で入ったんだねぇ」

「うるせぇなぁ.....誰だって、自分の長所を見せつけたいだろ?俺はただそれが映像だっただけの話だ」


自分の長所を見せたいだなんて気持ちは誰にだってあるはずだ......うん!だからしょうがないよね!


「......でもりとさんの場合はその広告収入だけで生活とかできなかったわけ?」

「頑張ればできたのかもしれないが.....生憎と色々と事情があってな。そういう訳にもいかなくなったんだよ」

「その事情っていうのが気になるんだけどねぇ......」

「それに頑張ったらいけるかも......程度だったからな。もしオワコンになったら何もかも終わりだと考えた.....だから俺は失踪したんだよ」


そうだ......登録者数万人なわけだが、それでも俺の人生をかけるには少ないと判断した。


「なる.......ほどねぇ」

「まぁけどお前ぐらいの収入があれば話は別だったんだけどな......俺にそんな力はなかっただけの話だ」

「うーん、大変だったんだね」

「んまぁ今は生きれてるから別にいいんだけどな........よいしょっと」


俺は気づけば出来上がっていた炒飯を皿に盛り付ける。


「喋りなんが作れるなんて器用だねぇ」

「そりゃどーも.....とりあえず炒飯出来たぞ。椅子にでも座って待ってろ」

「おっけー!.....ふふっ、りとさんのりょーうり♪♪」


元気よくそう言って、輪廻は椅子に座る。


「まだかなぁ♪りとさんがあたしに愛情込めて作った料理はまだかなぁ♪」

「愛情というより友情だがな.....すぐ持ってくよ」


スプーンと飲み物を用意し、輪廻に料理を差し出す。


「ちゃんと手は洗ってるんだろうな?」

「洗ってるよ、流石にそんな汚いことをしないよ?」

「ならいい......んじゃ、いただきます」

「いただきます!!!」


俺と輪廻は合唱して、スプーンで炒飯をすくう。


「おぉ.....パラパラしてる」

「炒飯は得意料理だからな」


そうして輪廻はそれを口に含んで......


「......りとさん」

「どうした?」


そうして輪廻は言った。


「これお店に出せるよ」

「出せるわけないだろ馬鹿」


急に馬鹿げたことをいう輪廻に俺はそう返すのだった。

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登録者100万人の大物YouTuberに気づけば外壁を埋められていて....⁉︎ りと @Raimgh

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