さみしがりや
杉 司浪
人肌恋しい季節
大学一年生の時に出会った男の子がいた。そこそこイケメンでお洒落な人だった。彼との関係が始まったのはその年の11月頃。お互いに散歩が好きで意気投合し、寒い夜にコンビニの前で集まって散歩をした。手を握りながら、外でコンビニの肉まんを食べた。彼から毎日連絡がきて、彼の家に遊びに行くようになり、彼も私を受け入れていた。
春になり、彼からの連絡は少なくなった。それでも、たまに家に呼ばれることがあった。彼からの連絡は心臓がぎゅってなる程嬉しくて、一度も断ったことはなかった。私はまさに都合の良い女の子だった。
夏になり、彼からの連絡は来なくなった。私はすっかり彼に惹かれていた。連絡が来ないと不安になり、他の女の子がいるのかもしれないと嫉妬した。そんなこと彼には言う勇気もなくて、自分から連絡する勇気もなくて、ただ彼から連絡が来るのを待った。
太陽がはやく沈み出した頃、彼から電話がかかってきた。
「久しぶり。家来なよ。」
私は高ぶる気持ちを抑えた。都合の良い女の子なのに都合の良いように使われるのは少し悔しい気持ちになった。
「久しぶり。どうしたの?」
どうせ行くのに、要件次第で行くふりをした。
「久々に会いたくなって。」
他の女の子に断られたのかな。私なら必ず来るだろうって思われているのかな。
「何時に行けば良いの?」
そうして私は都合の良い女の子になる。
「いつでも。都合の良い時に来て。はやく来てくれたら嬉しい。」
彼はいつだって私の欲しい言葉をくれた。私だってすぐに会いたい。少しでも長く、彼を独り占めしたかった。こうして冬は週に三回程、彼に呼ばれて彼の家に行った。
ある日、彼は私を拒んだ。
「もう俺を都合良く使うのやめて。もう会わないから。」
真剣な顔の彼は、少し怒っているようにも見えた。都合が良いのは私じゃなかったの?私は驚き、悲しさ、悔しさ色々な感情を抱えたまま彼の部屋を出た。
それから彼からの連絡は途絶えた。私はずっと彼に囚われていた。冬になれば、彼からの連絡を待ち、どこかで会えないかと散歩前に集まったコンビニに寄ったりもした。
彼と会うことはなく、一年が過ぎた冬の日、彼から連絡がきた。
「会いたい。家来て。」
彼に会えば、私はまた彼を忘れられなくなってしまう。彼に会いたくなってしまう。彼を独り占めしたくなってしまう。でも、私には会わないという選択を選べない。会いたい。抱きしめて欲しい。少しの間だけでも彼のものになりたかった。
「わかった。」
私はまた都合の良い女の子になった。どうせもう連絡は来ないかもしれない。これが最後かもしれない。そんな覚悟で彼に会いに行った。彼はそんな私の気持ちなんて気にせず、一年前に自分が言ったことも忘れているようだった。
「痩せた?可愛い。」
彼はいつだって私の欲しい言葉をくれた。私は彼が好きだ。しかし、告白してしまえばもう会って貰えないかもしれない。突き放されるかもしれない。私は彼に自分の気持ちを悟られないように素っ気なく接した。
「ありがとう。冬だから呼んだの?」
彼は当たり前だというように、だって寒いしと笑った。きっと、冬になると誰かを呼んじゃう病気なんだ。だって、寒いし人肌恋しいから。
春になり、彼からの連絡が少なくなった。夏になり、彼からの連絡は途絶えた。このサイクルが当たり前になった。
八月の炎天下の日、彼から連絡がきた。
「家来て。」
今、夏だよ。連絡する時期間違っているよ。人肌恋しくて連絡するんじゃなかったの。勘違いしちゃうよ。君は都合の良い男の子だ。家に行くと優しく抱きしめてくれた。いい匂いって耳元で褒めてくれた。彼に会う前に毎回シャワーを浴びてきてたのは私だけの秘密。この日以降、彼から連絡が来ることはなかった。
また冬がきた。彼のSNSには料理の写真が投稿され、同じ料理のお皿が二枚。メンションには女の子の名前、そして私に連絡は来なくなった。彼はこれから別の人と幸せになる。
私はまだ君を忘れることができそうにない。
さみしがりや 杉 司浪 @sugisirou
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