第30話 ランドルの狂気

ランドルは、玉座に座っているとき、頭の中にリトのことが浮かんでいた。


アルヴェリア王国の有力貴族であるエドワード・ヴァレンティン公爵の娘、リト…。

彼女の姿を見たのは、偶然に一度だけだったが、その姿が目に焼き付いている。


あの美しい金色の髪と大きなピンク色の目、愛くるしい姿。

まだ幼いと言っても、もう少しすれば誰もが認める美しい娘に成熟するだろう。

それらを思い出すたびに、彼の胸には奇妙な高揚感とともに苛立ちがこみ上げてくる。


「リト…」と、彼は低く呟いた。

「どこに隠れてるのかな…?」


彼は玉座から立ち上がり、闇がうごめく部屋の中を歩き始めた。

その姿は美しい青年の姿だったが、彼の体からは常に黒い霧が立ち上り、目は血のように赤い光を放っていた。


今の彼の名はランダール。

表向きはランドルの子孫となっている。


しかし、外見は違えど、ルーカスやセレス、リアムが分析している通り、魂はランドルそのものだった。


「まあ、鬼ごっこだな…」

ランドルは小さく笑った。

彼の声は人間のものとは思えない、低く響く音だった。

リトがいなくなったことに対して怒りを覚えていたが、それ以上に彼女を見つけ出して再び自分の手中に収めることへの興奮が勝っていた。



どこかの作家が物語にしたのか、大賢者リトの話が民衆に人気があったので、その名にあやかろうとする者がこぞって自分の子供にその名を名前を付けた。

「リト」という名前は珍しくなかったが、あの美しい少女が「リト」という名前だと聞いた時、ランドルはすぐにその少女を手に入れようと思った。


「この執着は、仕方がないんだよ。リト…」

その名を口にするだけで、ランドルは興奮を抑えられなかった。


昔、召喚されたばかりのリトのことを思い出し、ますます気持ちが高揚してくる。

「何度生まれ変わっても、俺が手に入れるから…」



召喚されたばかりの頃のリトは、まだ若くて、周囲の状況を理解しきれず、不安と恐怖に満ちていた。

夜になると彼女は時折涙を流し、ランドルはその小さな肩を抱きしめて優しく慰めていたものだ。


「泣かないで、リト。俺がついている。君を守るから」

ランドルはかつて、そう言いながらリトの涙を拭っていた。

リトはその言葉を信じ、彼の胸の中で安心したように眠りについた。

あの時のリトは、あまりにも無防備で愛らしかった。

心のどこかに、彼女を守りたいという奇妙な衝動が芽生えていた。


だが、ランドルの計画は当初から明確だった。

魔王と手を組み、いつか仲間全員を殺すつもりだった。


絶対的な力を持ち、この世界の覇者になる事が、ランドルの目的だった。


勇者としての役割を演じ続けることはストレスだったし、仲間たちと協力し合う日々、笑顔で接するのは彼にとっては正直、苦痛でしかなかった。

特にリアムに対しては、あの態度と自己犠牲の精神が嫌悪感を抱かせた。

彼の目の前でいつも気取った態度を取るリアムを、心の中で嘲笑し、軽蔑していた。

リトと仲良くしているところを見て、今すぐにでも殺してやりたかった。


「バカな奴らめ」

とランドルは当時を振り返りながらつぶやいた。

「俺の正体に気づきもしないで」


しかし、リトだけは別だった。

彼女の純粋さ、そしてその可愛らしい姿に、ランドルは殺意を抱くことができなかった。

もしも彼女が仲間の一人でなく、自分にもっと近づいてくれていたら、リトだけは生かしておいてもいいとすら思っていた。

だが、ランドルは理解していた。

リトは他の仲間たちと深い絆で結ばれており、魔王との裏切りを知れば決して彼を受け入れることはないだろうということを。


「だから仕方がなかったんだよ」

と、ランドルは自分自身に言い聞かせるように呟いた。

「だが、最後の暴走は予想外だった」


決戦の日、リトが見せた力の暴走は凄まじかった。

ランドル自身も危うく命を落としかけ、魔王も同様に瀕死の状態に追い込まれた。

あの瞬間、ランドルと魔王は、どちらも生き残るために決断を下すしかなかった。

二人の存在を一つに融合させるという、最も忌まわしい手段に。


「魔王の醜い姿に自分を融合させるなんて…今思い出しても吐き気がするな…。」

ランドルは不快そうに顔をしかめた。

しかし、命をつなぐためにはそれしかなかった。

そして、融合した結果、魔王の意思は消え、ランドルが優勢な存在となったことは、彼にとって幸運だった。


新たな力を手に入れたランドルは、気に入らない魔族や人間を次々に虐殺し、その魂を喰らった。

特に、リアムの連想させる外見のルナウルフを狩った時は、かなり興奮して虐殺にも力が入った。

魂を喰らうことで、彼の力は維持され、彼の存在は不滅となった。

定期的に人間や魔族を連れ込み、その魂を自らの糧とした。



「リト…逃がさないよ。」

ランドルは微笑みながら呟いた。

その笑みは、冷たく、狂気に満ちていた。

彼の赤い目は、暗闇の中で光を放ち、その視線は遥か遠くを見据えているかのようだった。


ランドルは再び玉座に座り、考えを巡らせた。リトとの再会、そして彼女を手に入れるための計画を。


「何度生まれ変わっても、俺が手に入れてる。そして…」

ランドルは、くくっと笑い、

「また、俺が殺してあげるからね。」


鬼ごっこは、まだ始まったばかりだ。

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私が町を開拓して、裏切り勇者の王国を崩壊させるまでの物語 @kinoko-kino

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