最終話 初めての告白、そして初めてを始める? 

「健。ちょっと顔貸せ!」

「つ、つばき!? 朝からどういう?」


 翌日、遅刻ギリギリになりながら教室にたどり着いた俺に、つばきから呼び出しがかかった。


 もうすぐ一時限目が始まるというのに、つばきの奴に問答無用でひと気の無い廊下に呼び出された。


「もしかしなくてもサボるつもりか?」

「ばぁか。一時限目は自習だ、バカ。そんなことより、昨日みゆと?」

「ふぉっ!? な、何を?」

「……キス」

「何だ、それのことか」


 てっきりもっと別の何かを言ってるのかと思った。もちろんの意味だとしても、いちいち聞いてこないだろうけど。


「ふ~ん? あんたにとってそんなこと扱いするんだ? 告ってもいないくせに」

「な、何故それを?」

「図星かよ。あんたの思わせぶりな『好き』って言葉で、あの子はすっかり付き合ってるって思ってる。まさか気付いてないとか言わないよな?」


 学食での些細な言葉とかネットカフェでのこととか、やはりそうだったのか。


「い、いや……でも何でそんな……。そもそもつばきはそれを知ってて俺を彼女に会わせたんじゃないのか? 俺の好きはそうじゃないって教えてやればよかっただけなんじゃ?」

「そんなこと私から言えるとでも?」


 おお、こわ。いつになくマジな目つきすぎるぞ。


「みゆは好奇の目を向けられただけで告白されたこと無かったから、だからモテたい願望のあんたなら上手くいくのかもって思った。そしたら意外と……」

「俺はお前に言われた通りにしただけで特別なことは何もしてないけどな」


 モテたいし羨ましがっただけなんだけど、いつの間にか友達になってたんだよな。


「それがみゆにとって良かったってこと。そういうわけだから、キスまでされたんなら後は……分かるよな? みゆにはただでさえ藤木クロエが近づいているんだ。あんたにとってライバルになる前に告れ! 私からは以上!」


 ……自習だからと堂々とサボるのもどうかと思うが。つばきから言われたことは俺自身の反省でもあるし、昨日言いかけたことをみゆに伝えようとも思っていたからどのみち言うしかないわけだ。


 昼休み時間、隣のクラスからみゆが俺の教室に顔を出した。今まで自分から声をかけてこれなかった彼女だったが、俺の顔を見てすぐに気づいてくれたようで俺に手を振りながら声をかけてきた。


「中森健くん、お昼だよ。一緒に行こ?」


 なぜ中森を誘うんだとか、あんなに積極的だったのかなどと外野からの声がざわざわしていたものの、児玉みゆの笑顔が俺にだけ向けられていることを察したクラスの男連中はあっさりと俺を送り出した。


 それにはつばきからの圧力が相当にやばかったからに他ならない。暴力性が高い奴だったが、どうやら本気で俺とみゆが上手くいくことを願っているようで男子たちの邪魔は完璧に阻止してくれた。


 俺とみゆは注目を浴びる学食ではなく、あまり人気の無い中庭で昼食を食べることになった。


 ――食べるのはあっさりと済ませ、ベンチで座りながらみゆに真面目に話すことにした。


「健くん、昨日言いかけてた話の続きを聞かせて?」

「も、もちろん。えっと……」

「なぁに?」


 中庭に他の生徒がいないことを確かめて、俺はこの場でもう一度みゆを力いっぱい抱きしめようと肩に手を伸ばす。


「――! 健くん?」


 俺の気持ちが通じているかのようにみゆも手を伸ばしていて、俺を真っ直ぐに見つめている。


 そして俺はようやくその言葉を口にした。


「児玉さんのことは最初、モテすぎる女子ってことで羨ましくて、それから気になりだして……つまり、その、みゆのことが好きなんだ俺……だからえっと、これからもよろし――」


 俺が言葉を続ける前に、またしてもみゆから勢いよく唇を押しつけられていた。ほんの数秒で離すだろう……そう思っていたのに、俺を真っ直ぐ見つめながらみゆからもう一度本気の告白が囁かれた。


「わたし、健くんのことをつばきから聞かされた時からずっと好き! 好きって言葉で早とちりしたのも知ってる。でも今度はちゃんと言ってくれた。だから、わたしをこれからもずっと好きでいてくれる?」


 俺はみゆからの素直な告白に照れながら、俺の確実な返事であることを示すようにして、もう一度みゆへ優しいキスを交わしてみせた。


「もちろん、これからはみゆのことをもっと知って、もっと好きになるよ」

「初めてなこと、もっとすごいことを……健くん。一緒にたくさんしていこうね!」


 これから徐々に甘えてくれるんだろうなと思うと照れてしまうな。もっとすごいことってのも気にはなるけど、完璧な彼女に見合うように少しでも近づいていけたら。


 その時がくるまで理性を保っておかないとだな。

 

 

 





※※※※※※※※

短いお話で志半ばな終わりとなりましたがこれで完結となります。

拙い物語となりましたが応援ありがとうございました。

8月からの新作ラブコメにご期待ください。

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トップ3圏外になったモテすぎ完璧女子が好きという言葉に過剰反応するのは気のせいだろうか? 遥 かずら @hkz7

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