第11話 思わぬ形のすごいキス

 あれっ?


 どうしてこんなことになったんだっけ?


 確か、みゆのスクワットを見守っていたらバランスを崩して……後ろから支えようとしたら首に手を回されていて――。


「…………んんっ」

「んむむむ」


 そして今、俺とみゆはお互いの身体を抱きしめながら、唇を合わせている状態だ。


 あまりに唐突すぎる展開でありながら、気持ちの昂りと胸の高鳴りが収まらないせいもあって、いつまでも口づけをしている……。


 そんなつもりはなかったのに何かしらの想いがあるからなのか、みゆの方からさらに強く抱きしめ、強く唇を押し当てられっぱなしだ。


 しかしここはフィットネスジムの地下室であって、プライベート空間じゃない。スタッフの誰かが見ていてもおかしくないし、俺から離れないと。


「ちょっ、ま……ストップストップ!!」


 俺の声にみゆは目を瞑ったまま身体をビクッとさせ、お互いの身体同士の隙間が無いほど密着させてきた。今まで溜まり溜まった感情をキスをすることで解放させているかのように。


 しかし俺の方が限界だ。


 たかがキスとはいえ、こんなディープな状態が長く続いてしまえばそれ以上のことを求めてしまいかねない。


「みゆ、そ、その辺で……!」

「……うん、分かった。もういいの?」

「じゅ、十分に感じられたから!」


 俺の言葉に安心したのか、みゆは唇を離してくれた。そのまま何事もなかったかのように立ち上がり、屈伸運動をし始める。


「…………通じ合えたってこういうことだったんだ」

「へっ?」

「わたしと健くん。相思相愛! だよ?」

「……え」


 待て待て。あれ、俺ってこの子に告白とかしてたっけ?


 何となく好意的な動きやら何やらは感じていたけど、少なくとも俺から彼女に何か言った覚えは無いし、決定的な何かをした覚えもないぞ。


 それとも、とっとと先に帰ったつばきから何か変なアドバイスを貰った?

 

 ……そうだとしてもこんな――こんな激しいキスをされるか?


 その辺をはっきりさせとかないと、この先どうやって彼女に接していくべきなのか分からなくなりそうだ。


「あ~、え~と……みゆは俺が好き……なの?」

「胸もお腹も好き勝手に触らせないし揉ませないんだよ? そのきっかけをくれたのも健くんだから。だから、だよ」


 それもそうか。嫌いな奴に胸を揉ませたりはしないよな。


 しかし俺がきっかけを与えたとか、それってどういうきっかけなんだろうか。まるで身に覚えが無いんだけど。


「そ、そっか……」

「うん。キスの続きは、また今度しよ?」

「…………」


 とても魅惑的な言葉だ。黙って頷くことしか出来ないじゃないか。


 でもやっぱり、俺があげたきっかけを俺自身が知らないままじゃこの子といつまでも曖昧な関係なんて続けられないよな。


 そうなるとやはり……。


「あ、あのさ――」

「健くん。そろそろ帰る時間だから、後片付けをしないと」


 ここに来たのはそもそも夜遅くだった。とはいえ、気づいたら結構な時間になっていたみたいで、いくつか出しっぱなしの器具を元の場所に戻す必要がある。


 会員制のフィットネスジムだけあって、そういうところはしっかりしているみたいだ。


 俺とみゆでダンベルなどを片付け、着替えを済ませて外に出ることに。


「健くん、何か言いかけてた?」


 お互いに着替えて外に出るとみゆから声をかけてきた。そういえば言いかけてたことがあったな。


「いや、明日学校で話すよ。もう遅いし帰らないと」

「……うん。じゃあまた明日ね、健くん」

「また明日、みゆ。おやすみ」

「うん、おやすみ」


 学校できちんと俺から言わないと――だな。

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