第8話


「今日からここが貴方の部屋です。」


「分かりました。ありがとうございます。」


アルハイルに案内され、ミリューユは王城にある一室に来た。とても広く、女の子らしい部屋だった。だが派手さはなく、ミリューユにとても合う。彼女の為に用意された部屋のようだ。


「ミリューユは他の顔はしないのかい?俺はこの表情以外見たことがない。」


部屋に入ってすぐ、アルハイルが急に指摘してきた。唐突な事だったから、ミリューユはつい彼の目を見つめてしまう。


「笑えばいいのに」


彼はそういうと、ミリューユの頬をつねった。たまに垣間見える子供らしい行動にミリューユは何故か少し、ほっとした。


私だって、笑いたくなくて笑ってないってわけではないのにな.......


ミリューユも周りの者たちが笑っているのを見て、笑ってみたいなと思うようになってきた。だが、もう笑い方がわからないのだ。


「私が笑っても、きっとろくな事が起こらないです。」


「そう?俺は可愛いと思うけど」


「そういう問題ではないのです。お部屋、ととも素敵です。わざわざありがとうございます。」


ミリューユはこれ以上話を広げたくなかったから、すぐに話を切り替えた。自分の能力について、いつか話さなければいけない。だけどそれは、きっと今ではない。今は、父からの命令をどうするのかを考えるのが先だった。


アルハイルが、夕食の時間になったら呼びに来る、とひと言残して部屋を出ていった。1人になり、ミリューユは部屋の中心にあるソファに腰掛けた。そして思考を張り巡らす。


本来であれば、国王である父の命令は絶対である。今はトワン王国が流通の中心となっているが、最近の経済状況などを見る限り、スウェルド帝国が追い越してくるのは時間の問題だろう。きっと、父はそれを阻止したい。だからミリューユをこちらに送った。

だが縁談を持ちかけたのは、どうやらスウェルド帝国からみたいだ。その理由は、トワン王国の内情を知っていて、母の旧友であった皇后様がミリューユを保護したいと思ったから。そして、良い人質になるから。つまり、スウェルド帝国側にはほぼ悪意がないと受け取っていいだろう。


なのに私は、やっと居場所をくれた人たちを傷つけなければいけないのだろうか.....。


それは嫌だな...と思い、自分に、人に抵抗したいという意思が残っていたことに気がついた。

久しぶりに他人から優しさを向けられ、ミリューユの心に、少し変化が起きていた。自分でもそれに気づき、慌てる。感情が戻ってしまえば、大切な人たちをまた自分の手で傷つけることになってしまうのだ。それだけは嫌だった。そう思い、心の中で膨らんできた感情を、また押込めた。


◇◇◇


ミリューユが帝城に行ってから1ヶ月が経った。最近、父はずっといらいらしているようだ。母も少し機嫌が悪そうである。わたくしはというと、義姉が居なくなり、毎日の楽しみが減ってしまった。ちょっとつまんないわ。それに、婚約者があんなに素敵だなんて、信じられない。あんなに綺麗な方の隣に並ぶなら、みすぼらしい義姉より、かわいく、周りから愛されているわたくしの方がぴったりじゃないかしら?きっと義姉は、誰からも愛されなかったため、あの婚約者にちょーっと愛を囁かれただけで落ちてしまったんだろう。だからこの家から、逃げるように出ていったのだ。お義姉様って、ほんとうに可哀想。自分の口が勝手に角度を上げていくのを感じる。

お義姉様は誰からも愛されるはずがないのに。騙されて着いていくなんて、王女失格なのではないかしら?でも、わたくしなら絶対に愛される。

そうだ!ベリアンヌは思いついた。


わたくし、お義姉様の婚約者が欲しいですわ!


とても浅はかな考えだった。




◇◇◇


「姫が婚約かぁ.......」


テルが窓の外を見ながら呟く。彼女はミリューユが幼い頃から世話をしてきた。本当の妹のように思っている。だからこそ、嬉しくもあり、少し寂しいのだ。


「来月に婚約式があるのよね、」


正式に婚約が発表されれば、父は、トワン王国の国民は、どう思うのだろう。父は私に落胆するだろう。国民はどう思うのだろう。第一王女を、他国に渡したのだ。それが公に発表されれば、国は混乱に陥るのではないだろうか。それに、公にはされていないが、最近父の体調があまりよくないのだ。いつ、父が国王の座から下りるか分からない。だが、父が下りると、次は義妹が女王となるのだろうか?

何をどう考えても、トワン王国がいい方向に進まないのは確かだった。じゃあ私は、どうするのが正しいの.......?


考えても、分からないことだらけだった。



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感情を忘れた令嬢ですが、隣国の第二皇子に溺愛されました。 らい @ray-02

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