第2話 廃村の巨人
『お久しぶりです。お元気ですか?』
SNSのDMに届いたのは、オカルトサークルの後輩からのメッセージだった。
彼とは学生の頃、共に同じサークルで活動した仲である。
『実は〇〇さんに聞いて欲しいお話がありまして』
彼がこんな風に連絡してくるときは大概、何かしらのオカルト現象についての話だった。
今でも趣味で心霊スポット巡りなどをしているらしく、ときたまこうやってメッセージを送ってくる。
ぜひ聞かせてほしいと送ったところ、しばらくして以下の文章が届いた。
***
これは、とある山奥の村を訪れた時の話です。
「イイ感じで寂れてるな」
「だろう」
私は近頃知り合ったオカルト友だちのTと共に、その山奥の村を散策していました。
もちろん趣味である心霊スポット巡りの一環です。
「人住んでる?」
「いや、見たところ誰もいない」
散策中、人影どころか犬猫の影すら見かけませんでした。
どうやらすでに廃墟となっているようです。
「どうせなら家の中にも入ってみるか」
廃村であると踏んだ私たちは、高揚感と共に近くの民家に侵入しました。
いくつかの家々を見て回りましたが、人が居住していた跡自体は色濃く残っており、そのことがより一層もの寂しさを掻き立てるようでした。
「日も暮れてきたし、そろそろ宿に戻るか」
Tと話していたその時でした。
民家の柱に、痕のようなものを見つけたのです。
『昭子 H7.3.24』や『昭子 H6.4.17』など、つけられた痕の横にはかすれた文字で、名前らしきものと日付が彫り込まれています。
「これは……身長測定の跡か」
「何だか微笑ましいな」
心霊現象目当てで訪れたのに、なんて思いつつも、二人して笑いました。
既に暗くなり始めていたので断言はできなかったのですが、私たち成人男性と同じくらいの高さまで痕がつけられていたことを記憶しています。
きっと『昭子さん』はご両親に愛されていたのでしょう。
「なあ、今日も行ってみないか」
宿に戻り、一夜明けた時にTから言われたのはそんな一言でした。
当初は一泊してすぐに帰る予定でしたが、日程には余裕があったのでそれもいいなということで快諾。
私たちは再び廃村へと向かったのです。
「明るい時間帯だと景色が違って見えるな」
「確かに」
昼間の廃村に趣を覚えつつ、歩いていると。
「昨日の場所だ」
目に入ったのは昨日訪れた一軒家。
中の柱に身長測定の痕を見つけた家でした。
「……なんとなく気になるな」
Tはそう言って家の中に入っていきます。
彼の言葉に予感めいたものを覚えつつ、私も後を追います。
やがて痕のついた柱の場所まで辿り着きました。
「これは……」
そこで見たものに、私たち二人は驚愕しました。
昨日は暗くてよく見えていなかったのですが、なんと柱につけられた痕は、私たちの身長をはるかに上回るほど高い位置にまでつけられていたのです。
『昭子 H12.6.20』『昭子 H27.8.5』『昭子 H30.3.21』……
日付はさらに上まで書かれてあり、かなり上のものになると『昭子 R――』という文字がうっすらと見えましたが、高過ぎて詳細までは読むことができませんでした。
「ここから離れた方がいいかもしれない」
Tの言葉に私も同意し、私たち二人は廃村を足早に去りました。
これは近隣住民の方に後から聞いた話ですが、廃村には昔、巨人のように背の高い少女が住んでいたそうです。
村人たちは彼女を畏怖し、なかなか近寄らなかったのだとか。
ただし両親だけは、そんな彼女を生涯愛し続けたのだと。
それを聞いてからというもの、なぜかあの場所には立ち入らない方がいいような気がして、以来、私たちが廃村のことを話題にすることはありませんでした。
見えざる神々との邂逅 こばなし @anima369
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