ドナルド・トランプ銃撃事件に思う

@pip-erekiban

第一話にして最終話

 二〇二四年七月十四日、アメリカ大統領候補ドナルド・トランプ氏が銃撃され負傷するショッキングな事件が発生した。犯人はその場で射殺されたため犯行動機は不明であるが、一方で

「トランプ氏の排他的言動に憎悪をかき立てられる層が一定数存在している」

 これは言えそうである。

 

 本邦でも、先般行われた東京都知事選において民主主義の在り方に疑問が投げかけられたことは記憶に新しい。


 本稿は、民主主義がかつてない危機に見舞われている昨今、リーダーたるに相応しい資質に関する私見を提示し、参考にしていただくことを目的としている。


 トランプ氏銃撃事件の原因追及を目的としたものではないことを改めて明言しておくとともに、今後の投票行動に活かしていただければ幸甚である。


  *  *  *


 前近代、議会制民主主義以前は、立場の異なる者を暴力で屈服させるのが当たり前だった。しかし殴り合いにせよ殺し合いにせよ、暴力を行使すれば勝った側もそれなりの代償を支払うことになる。

 社会に議会制民主主義の浸透を促したのは、たとえ勝ったとしても暴力行使に伴い発生するコストを人々が嫌ったからである。


 その意味からも、暴力からの脱却は歴史の必然だった。


 いっぽうトランプ氏はアメリカ分断の象徴などとされるが、少なくとも政敵排撃の手段は非暴力だった(攻撃的ではあっても暴力そのものではない)。情報発信のためにSNSを積極的に利用するなど、その手法は言論的ですらある。


 現下、各国でポピュリストが台頭している。敵を作り出し分断を煽ることで支持獲得につなげるのは洋の東西を問わないポピュリストの常套手段であり、支持獲得のためとなれば、彼らは一部国民への敵視政策すら厭わない。

 そして、彼らが排撃に用いる手段は、もっぱら言論など非暴力の方法である。


 合意形成という観点に立脚した場合、暴力を以てしようが言論を以てしようが、相手の打倒を目的としている時点で、既に無意味である。

 言い負かされた側が言い負かせた側に心服することなどあり得ず、いたずらに敵愾心を育むばかりだ。

 論戦に勝った結果、敵を作り出してしまっては元も子もない。


 相手を屈服させようとする以上、言論だろうが暴力だろうが、当然そこには摩擦が生じる。

 いまアメリカでは「主張実現のためには暴力もやむなし」との暴力容認論が一定の支持を集めているという(令和六年七月十四日、毎日新聞)。

 排他的言論に曝されている側が、追い詰められたあげく暴力に傾斜していく構図が垣間見える。


 トランプ氏銃撃事件を受けて、各国首脳から、暴力行使を非難する声明が続々出されたが、「暴力反対」程度のことなら誰でも言える。

 議会制民主主義の代表者なのだから

「テロは排他的言論が招き寄せる当然の結果である。

 それが嫌なら従来の姿勢を改めていくしかない」

 誰か一人くらいはこんなふうに言ってほしかったものだ。


 政治は、そして議会制民主主義は、断じて分断や対立の場であってはならない。

 意見が違ったとしても、また相手が少数者であったとしても、同じ議場に立っている以上は粘り強く対話を重ね、歩み寄り、百パーセントではなくてもお互い納得できる落としどころをなんとか探りあてる地道な作業の場が議会なのである。


 昨今の政治風景を見るにつけ、アメリカだけでなく本邦でも、論敵の打倒に血道を上げる政治家或いは政治団体がそこかしこに溢れかえっているように思われる。手段が暴力から言論に変わっても、敵の排撃を目的としているうちは本質的に戦国時代と変わらない。

 私は政治の現場において、口論まがいの論戦や、誰かが誰かを論破する、或いはされる様子を見たいのではない。


 立場を異にする者同士が、話し合いを重ね歩み寄りながら互いに溝を埋め合っていく、地道で高度な合意形成プロセスを見たいのである。


 自分が多数派のままでいられるか、はたまた少数派に転落するかはその時々の事情による。長い人生、期せずして少数派に転落することもあるだろう。いざそのような立場に身をやつしたとき、自らの意思で選んだはずのリーダーから敵視され、石もて逐われるほど惨めなことはない。

 

 リーダーを選ぶにあたり、論戦の強弱など取るに足らない些末なことである。

 そんなことより、その人物が

「少数者とどう接するか。立場を異にする者に歩み寄ろうという器量があるか」

 この観点に立って選ぶことを圧倒的にお勧めすることとし、拙劣ながら本稿の締め括りとしたい。

                (おわり)

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