【ショートストーリー】真実の鏡 ~リンドウとエリザ、すべての呪縛を解く旅~」

藍埜佑(あいのたすく)

【ショートストーリー】真実の鏡 ~リンドウとエリザ、すべての呪縛を解く旅~」

「ねえ、リンドウさんってかっこよくない?」

「バカね、リンドウさんは女子なのよ。かっこいいじゃなくて、可愛いでしょ!」


 学園の廊下で、そんな会話が耳に飛び込んできた。

 リンドウ・エイミー。

 それが私の名前だ。


「でもリンドウさんってミステリアスなとこあるよね。かっこいいし、きれいだし、惹かれるのよね」

「同感。まるで別世界の人みたい」


 クラスメイトたちの好奇の目を背中に感じながら、私は足早に教室を後にした。窓ガラスに映る自分の姿を見つめる。切れ長の瞳、ほっそりとした顎、白皮の肌。制服のブレザーの下に隠れたわずかな胸のふくらみは、まだ誰にも知られてはない。


 私は、自分でも自分の性別がわからない。

 そもそも、性、とはなんなのか。

 男として生きるべきなのか、女として生きるべきなのか。

 またはそのいずれでもないのか、両方なのか。

 答えはまだ見つからない。


 両親は、私に「リンドウ」という名を付けた。琳戸リンドウは、いにしえの言葉で「すべてからの解放」を意味するという。本当だろうか。

 母は言う。

「あなたには、性別にも……いいえ、何ものにも縛られない自由な生き方をしてほしい」と。


 しかし、周囲の目は冷たく、時に残酷だった。


「あいつはいったい何なんだ?」

「気持ち悪い」


 中学時代、私は同級生たちに無視され、いじめられた経験がある。


 高校に進学し、新しい環境で生まれ変わろうとしていた矢先、とある出来事が起こった。学園一の美少女と名高いエリザ・ウィンザーが、私に話しかけてきたのだ。


「リンドウ、放課後に二人で会わない?」


 エリザの瞳に宿る熱を感じて、私は思わず頷いていた。


 放課後、中庭の片隅。エリザは静かに語り始めた。


「私、リンドウのことが気になっていたの。性別なんて関係ない。あなたという人間に惹かれているんだわ」


 まるで鏡のように澄んだ瞳。

 エリザの眼差しと言葉は、まっすぐに私の心に突き刺さった。


 恋愛対象が同性なのか異性なのか、そんなことはもはや問題ではない。

 私とエリザは、お互いの魂を見つめ合っているのだ。


 これは、性別の殻を破り、自由を求める一人の人間の物語。

 私は、エリザの手を取り、言った。


「私も、エリザのことが好き。一緒に新しい世界を見つけに行こう」


 夕暮れの校舎に、二人の影が寄り添う。まだ見ぬ明日に向かって。


 二人は手を取り合い、黄昏の校舎を抜け出した。

 目指すは、世界の果て。

 現実と幻想の境界線が曖昧になる、魔境の地。


「ねえ、リンドウ。私たちは、どこへ行くのかしら?」


 エリザが不安げに尋ねる。


「わからない。でも、きっと私たちを受け入れてくれる場所があるはずよ」


 私は力強く告げた。


 深い森を抜け、霧に包まれた湖を渡り、

 断崖絶壁を越えていく。

 まるで、イラストレーションから抜け出したかのような

 シュールで美しい景色が、二人を出迎える。


「見て、リンドウ。あれは一体……?」


 遥か彼方、地平線の果てに浮かぶ

 巨大な城。

 まるで、異界の楽園を思わせる

 荘厳な佇まい。


 私たちは、城へと向かって歩みを進めた。

 風は止み、音は消え、

 まるで時間が止まったかのようだった。


 城門をくぐった瞬間、

 私たちの体は光に包まれた。

 眩しさに目を細めると、

 そこには、数え切れないほどの人影が。


 老若男女、あらゆる容姿の人々が、

 私たちを温かく迎え入れる。

 彼らの瞳に、哀しみも苦しみもない。

 ただ、安らぎと歓びに満ちている。


「ようこそ、リンドウ、エリザ。

 私たちは、ずっとあなた方を待っていました」

 一人の老婆が、優しく告げる。


「ここは、『すべてからの解放』の地。

 性別も、年齢も、容姿も、

 一切の束縛から自由になれる場所です」


 私は、エリザの手を強く握りしめた。

「私たちの居場所は、ここだったのね」


 二人は、互いに喜び合った。

 自らの殻を破り、真の自由を手に入れた喜びに。


 やがて、城は光に包まれ、

 そして、幻のように消えた。

 残されたのは、茫漠たる虚無の世界。


「エリザ、聞こえる?

 私たちは、もう現実に戻れないのかもしれない。

 だけど、後悔はしていない。

 だってこれは、私たちが選んだ道だから」


「うん、リンドウ。

 たとえこの先に何があろうと、

 私はあなたと共にいる。

 私たちの魂は、永遠に結ばれているわ」


 二人は、虚無の中で

 ただ静かに寄り添った。

 それが、この上ない幸福に感じられた。


 虚無の中、二人は寄り添い、見つめ合う。

 エリザの瞳に映るのは、リンドウの切れ長の目。

 リンドウの眼差しに吸い込まれるのは、エリザの吐息。


 ふと、エリザがリンドウの頬に手を添える。

 真珠のような肌に、優しく触れる。

 指先から伝わる熱が、二人の体を駆け巡る。


「リンドウ……」

「エリザ……」


 名前を呼び合う度に、胸の鼓動が高鳴る。

 まるで、魂が共鳴し合うかのように。


 エリザの唇が、リンドウの唇に重なる。

 柔らかな感触に、二人は息を呑む。

 舌と舌が絡み合い、濡れた音を立てる。


 熱く甘い口づけに、理性が溶けていく。

 制服の下、白く輝く肌が露わになる。

 互いの体に、そっと指を這わせる。


 リンドウの胸に、エリザの手が伸びる。

 小さな……乳房とも呼べないほどの

 微かなふくらみを、そっと包み込む。

 そして敏感な乳首に、舌を這わせる。


「ぁん……」

 思わず漏れる、甘い嬌声。

 リンドウの反応に、エリザは微笑む。


 リンドウの手は、エリザの秘所に伸びる。

 ショートパンツの上から、そっと撫でる。

 そこにあるのは確かな突起。

 すでに熱と蜜に濡れている。

 エリザの指は今までない感触に戸惑いながらもそれを優しく愛撫する。


「リンドウ、お願い……」

 エリザは懇願する。

 もっと欲しいと、体全体で訴える。


 二人は服を脱ぎ捨て、抱き合う。

 白く輝く肌と肌が、重なり合う。

 互いの体の隅々まで、舌と指で愛撫し合う。


「エリザ、私とひとつになって……」

「うん、リンドウ。私はあなたの一部になりたい……」


 エリザの脚が、リンドウの脚に絡みつく。

 秘所と秘所が、ぴったりと重なる。

 粘膜がわずかな突起を包み込み、熱を帯びて融け合う。


「ぁっ、あぁぁっ……!」

 二人は同時に、甘い声を上げる。

 快楽の波が、全身を包み込む。


 揺れる腰の動きが、次第に速くなる。

 指と舌も加わり、敏感な突起を責める。


 絶頂が、二人を襲う。

 全身を駆け巡る、電撃のような快感。

 盛大な蜜が、互いの体を濡らす。


「はぁ……はぁ……」

 荒い息が、虚無に響く。

 絶頂の余韻に、二人は抱き合ったまま脱力する。


「私は、もうあなたの一部よ……」

「私も、あなたと一つになれた……」


 囁き合う言葉に、

 二人の体が光り始める。

 魂が溶け合い、

 一つの存在へと変わっていく。


 やがて光は消え、

 そこには一人の中性的な美少年が佇んでいた。

 曖昧な性別と、完璧な美貌を湛えて。


 リンドウとエリザは、

 男でも女でもない、新しい生命となったのだ。

 真の自由を得た、唯一無二の存在へと。


 その美少年は、

 静かに瞳を閉じ、微笑んだ。


 自らの運命を切り開いた、

 勇気ある二人の結末。


 それは、新たな伝説の始まりなのかもしれない。

 まだ見ぬ世界へ、一歩を踏み出すために。


(了)

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【ショートストーリー】真実の鏡 ~リンドウとエリザ、すべての呪縛を解く旅~」 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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