夏、ひまわり、ホームラン

豆腐数

ある意味ストライクだったやつ

 夏、セミの声、ひまわりの咲く畑。幼なじみ。そしてバットを持った僕。


 僕は中学の野球部に入っている平凡な野球少年で、隣を歩く千夏はいつもそんな僕を応援してくれていて、他校の練習試合とかになると、いつも応援に来てくれる。


 気恥ずかしいけれど、周囲に「うらやましい」「大事にしろよ」「股間に金属バット当たってくたばれリア充」とか素直に言われると、僕も思春期ボーイ丸出しで遠ざけるなんて事は……しないけど最後のやつちょっとふざけんな、野球ボールじゃないタマがヒュンッてなっただろうが。


「今日大活躍だったね、ケンちゃん」

 

 健司だからケンちゃん。ありがちなあだ名である。


「たまたまヒット打てただけだよ」

「でも点取れた」


 長くてサラサラの髪に、大きなひまわりの髪飾り、白いセーラー、模範的な長さのままで履かれたスカート。スポーツ少女とは無縁な千夏の生き方そのままの、女の子の格好。


「ね、バット貸して」

「いいけど、気を付けてよ?」

「うん……わっ、結構重い」


 そうだよ、結構重い。だから素振りってものをして慣れないと、まともにボールを打つ事すら出来ない。


「ね、ね、ケンちゃん。見てて」

「?」


 千夏が数歩下がって、畑と道の境目すれすれに立って、不器用にバットを振り回した。


「そーれ!ホームラぁあああーン!!!!」


 千夏の汗が飛び散って、溶けそうなチョコレート色の髪も散らばって、スカートが翻って、

 

 何より、何にも当たらないように配慮された、千夏の無邪気な素振りが、僕のどこかにぶち当たった感じがした。


「なんちゃって。ゴメンね、返す」

「……」

「ケンちゃん?」

「あ、うん」


 千夏からバットを受け取って、ギクシャク歩く。


「ケンちゃん? さっきから変だけど」

「テヲツナゴウカ」

「えっ……」


 僕の突拍子のない要求に、千夏が熱さとは違う反応で顔を赤らめた。

 頭のヒマワリと頬の夕日が手を取り合ったみたい。

 

「手を! 繋ごうか!」

「えっ、う、うん」


 僕はズボンで手を拭くと、千夏の白い手を自分の手で包んだ。日に焼けた僕の手が、千夏の白い手を包む。コントラストがエッチだ。


「千夏、そんな真っ白で、日焼け大丈夫?」

「う、うん。ちゃんと日焼け止め塗ってるし」


 今更ながら、僕はこの幼なじみにホームランを打たれた事で恋に落ちたらしい。

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夏、ひまわり、ホームラン 豆腐数 @karaagetori

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