サバイバル姉弟
大都督
サバイバル姉弟
これは、僕と姉さんがこの島に流れ着く前の話……。
僕には一人だけ姉が居る。
父と母は僕達が幼い頃に離縁し、そのまま僕達は口減らしと捨てられてしまった。
ありえなくない?
僕はその時まだ成人もしてない14歳。
姉さんは17歳と成人してまだ二年。
父はそんな姉さんを連れて出て行こうとしたけど、姉さんは僕をどうしても残していけないとその時強く父に抵抗してくれた。
その態度が気に食わなかったのか、父は姉さんの髪を掴んだり殴ったりと酷い事をしていた記憶が残っている。
あんなの父じゃない、クソ野郎だ。
そのクソ野郎の父はそのまま家を出て行き、そのまま音信不通。
別に如何なろうが興味はないが、噂では女に騙されて奴隷落ちしたと耳にした。
いい気味だ。
そして母だが、この女は悪女だ。
母親を悪女と言うのは一般的に口が悪いと思うが、こいつはクソ親父以上に最低だ。
なんたって近くに住んでいる男という男に手を出しては金銭などを貰い、自身を見飾る事しかしない奴だ。
この女のせいで近くに住んでいた夫婦も離縁したり、姉さんが変な目で見られてしまう。
決めてだったのが街の村長の愛人になろうと屋敷に行った事だろうか。
馬鹿だ。
母は村長の奥さんにこっ酷く叩かれたみたいで、髪の毛もバッサリと切られて帰ってきていた。
同情? そんなのする訳もない。
まぁ、こんな駄目な親の子として僕と姉さんがこの世に生を受けたのは何の因果なのか。
暫くしてその母親、いや、悪女が突然出ていけと告げてきた。
うん、まー、別に僕は姉さんと一緒ならこの家に未練はない。
だけどいきなり言われるとは思ってもいなかった。
と言うか姉さんが率先して家から出ていこうとしていたので僕はそれに付いていくだけだ。
宛があるかって?
あると言えばあったけど、馬鹿な親のせいで姉さんは働いていた仕事をクビ。
唯一そこの店主の奥さんが詫び金として数日分のパンが買える分のお金をくれた事かな。
うん、理由は聞かないけど姉さんが邪険にされた訳じゃ無いから宿の人は悪くないのかな。
当てにしてた宿も駄目となると僕達は悩んだ。
街と言ってもそれ程広くもないから何処かでまたあの悪女と顔を合わせるかもしれない。それは嫌だねと二人で話していると、姉さんは別の街に行こうと言い出した。
別の街と言っても歩いて行くのは危険だ。
この世界は盗賊も居れば魔物も居る。
剣も魔法も使えない僕と姉さん二人で旅なんてそれこそ自殺行為だ。
他に方法は無いかと思っていると、姉さんが悪戯な笑みを浮かべている事に気づいた。
あっ、これはまた姉さんの悪い癖が出たなと僕は早々と諦めることにした。
「ねぇ、陸が駄目なら川を下ればいいんじゃない? そうすれば盗賊にも襲われる事もないわよ!」
姉さん、僕はたまに姉さんの頭の中が心配になるよ。
でも僕は反論しない。だってそれが姉さんが決めた事なら僕はそれに従うだけで幸せなんだから。
えっ? 顔がニヤけてる?
だってしょうがないじゃないか。
あんな満面の笑みにドヤ顔を向けてくる姉が嫌いになる弟がこの世界に居るもんか。
「あっ! これを舟代わりに使えないかしら!?」
うん、姉さん、どう見てもそれはただの丸太だよ。
先ずこんなの如何やってここから動かすのって……、あっ、そう言えば姉さんは馬鹿力の加護を神様からもらってたね。
この世界には成人すると神様から加護が与えられる。
その内容は様々だが姉さんが神様から貰った加護は【力任せ】
うん、馬鹿力と言うか全てを力で解決する加護だ。
容姿端麗な姉さんが何でこんな加護が与えられたのか不思議だ。
あっ、はい、馬鹿力では無く万能な力ですね。だから僕の頭を掴まないで下さい、馬鹿力って言ってごめんなさい。
姉さんは大きな丸太を川辺に運び手刀でその丸太を半分に切った。
そして人が入れそうなスペースを素手で作ってる。
バリバリとまるで草でも削ぎ取っているみたいに見えるけど、姉さんが今やってる事は木の中身を素手でむしり取っている。
うん、姉さん格好いいよ。もし姉さんが兄さんなら、もっと格好良かったかもしれないけど。
その後僕は見てる事しかできなかった。
いや、寧ろ僕が何か手伝うよと言っても姉さんが働かせてくれない。
はぁ、どうせ僕は加護もまだ貰ってないただの子供ですよ。
僕が少し不貞腐れた感じにしてるといつも姉さんが僕の方を見てはニヤニヤしてる。
フンッ、小馬鹿にするのもあと一年だからね。
一刻も経たずに即席の丸太の舟ができた。
これ、本当に素手で作ったの?
なんか座る所とか手を置く所が凄くツルツルで綺麗なんだけど。えっ? 元々そんな木だった? そうか。
僕は考える事を止めた。
姉さんは作った舟を持ち上げ、川へと入れる。勿論舟の中には僕と二人分の荷物も乗ってるんだけど、姉さんは気にしないと軽々と持ち上げている。
ザバンっと水しぶきを上げ、姉さんがジャンプで舟に飛び乗ってきた。
姉さん、誰も居ないから良いけど、その格好でジャンプしたらパンツが見えてるよ。
えっ? 知ってる? そうですか。
僕は何も言わない。
舟は川の流れに乗って下っていく。
心地よい風とこれ迄の嫌な事を川の流れと共に忘れてしまおう。
川で釣りをしている人が目立つ。
ここで釣れる魚って美味しいのかな?
そんな話をしてると船の近くに魚影が見えた。
あっ、姉さんが川の中を泳いでる魚を手で掴んで取った。やった、今日の晩御飯だ!
その後姉さんは川底を見ては魚を掴んで取ってくれてる。
あんまり取りすぎても困るけど、食料があり過ぎて困ることは無い。
そんな事をしてると川の先の流れが大きく二つに別れてる。
片方は予定通り進むべき方角だが、もう片方は行っては駄目な道だ。
なんたってもう片方の道の先は滝でありその先は海だから。
僕は魚掴みをやってる姉さんに声をかけ、進むべき方角へと指を指す。
姉さん、早く丸太舟の向きを変えないと、えっ? 方角を変える為の棒を作り忘れた?
うん。姉さん、僕はおっちょこちょいな姉さんも好きだけど、今回ばかりは言わせてくれ。お馬鹿。
落ち着いて姉さん。
取った魚をオール代わりには使えないよ。
無情にも僕達が乗る舟は滝のある方角に流れてしまっている。
このままでは僕達は滝に落ちてしまう。
あー、何て不運な僕達なんだろう。
んっ? 姉さん何で僕を背負うの?
荷物も持って、あっ、取った魚は諦めちゃうの? 勿体無いけど、ってか何するの?
えっ? 川の水面に出ている岩に飛び乗っていく?
そんな事できるの?
姉さんはその質問に答える前と飛んだ。
飛んでまず一個目の岩に着地。
よかった、姉さんの加護がなければ今頃乗っていた丸太舟の様に滝に飲み込まれてたよ。
うん、本当にギリギリだったね。
姉さんは更にドヤ顔してるけど、元はオールになる棒を忘れた姉さんが威張れる事じゃ無いからね。
話は後と、あっ誤魔化した。
取り敢えず次の岩にジャンプ使用と姉さんが足に力を入れた時だった。
「「あっ」」
姉さんが足を滑らせ、僕達は川の中に落ちてしまった。
ドボンっと言う音の後、川の流れる水の音が僕のその時の最後の記憶だった。
「アル! アル! お願い、目を覚まして!アル!」
姉さんの声が聞こえる。
今更だけど僕の名前はアル。
姉さんの名前はミル。
何だか唇が柔らかい。
苦しかった呼吸が楽に、いや、ちょっと苦しい。
寧ろ肺が痛いです。
「ゴホッ! ゴホッ!」
「アル!」
「ゴホッ!? 姉さん……。ゴホッ!」
「良かった……。アルが全然目を覚まさないし、貴方、息もしてなかったのよ! もうっ、心配かけないでよ!」
「ご、ごめん……」
「うんん。悪いのはお姉ちゃん何だから、私こそごめんね」
「所で……。ここは? 僕達、確か川の滝に落ちたはずだよね? でも、ここは……」
僕達が居るのは滝の下、もしくは海近くの浜辺に流れ着いたのかと思っていたけど、どう見てもここはそうは見えない。
なんと言うか、洞窟?
そう、洞窟の中なのだ。
それも馬鹿みたいに大きくて広い洞窟。
上を見上げればそこには空ではなくごつごつとした岩肌。
ザバーっと音のなる方に視線を向けると、そこからは多くの水が落ちてきている。
えっ? どう言う事?
「なるほどね」
姉さん、何も分かってもないのにその知ったかぶりのセリフは止めてよね。
でも一応聞いておこう。
姉の尊厳を守る為だ。
「姉さん、何がなる程なの?」
「アル、落ち着いて聞きなさい。私達は川に落ちて、きっと先にある滝に流されたの」
「うん、それは分かってる」
「ええ、貴方は賢い弟ね。そしてあの上から流れてきてる水が答えよ」
「……」
姉さんの指を指す先を見ては、僕は何を言ってるんだと思ってしまう。
まさか落ちてくる水が滝と繋がってるとか言わないよね。
ご近所では賢いと言われる姉さんがそんな事言うはずがない。
「フフッ、アルには難しかったかしら。あの上から落ちてくる水はきっと滝と繋がってるのよ!」
うん、言いやがった。
流石姉さん、いろんな意味で凄いよ。
そんな姉さんに僕は質問してみた
「う、うん。で、でも姉さん……」
「んっ? アル、何?」
「あの、姉さんは滝とあの落ちてくる水の所が繋がってるって言うけど……。それだと流れてくる水の量が違うんじゃないかな?」
「……そうね。だとしても私達が川に落ちて流れ着いたのはここなんだから、私達が来たのはあそこからよ」
そう言って姉さんは自身が言った事を曲げなかった。
信念がしっかりしてる事は良い事だと思うけど、姉さんはもう少し考えようよ。
そんな事を口にしたら姉さんに嫌われるかもしれないから僕はあえて何も言わない。
そうしないと近所に住んでいた意地悪なジョンみたいに、姉さんの拳が顔面に飛んでくるかもしれないからね。
何でそうなったのか、その時の事を姉さんだけではなく、周りにいた人達も口を噤んでいる。
取り敢えず僕達二人は生き残れた。
あの流れの早い川に落ちたら死んでたかもしれない。
今の幸運を喜ぶ前と、ここが安全なのか確認すべきだと思う。
「姉さん、これから如何するの?」
「……取り敢えず周囲を調べるわよ。アル、動けそうなら一緒に来て。私は兎も角、貴方をここには置いていけないは」
「う、うん……」
僕は姉さんに言われるがままに、まだ少しぼーっとする頭を振り払い歩き出す。
目の前には上から流れてきた水が溜まっているのか、まるで湖の様に広く広がっている。
反対に後ろを向けはそこは森の中。
ひらひらと虫が飛んでいるから、寄生する虫には気おつけないといけないな。
そう言えば僕達の荷物の半分近くが流されたみたいで、その中に入れていたナイフが無くなっているのが辛い。
姉さんは仕方ないわねと言葉を残し、手刀にて目の前の木々を切っては道を切り開いていく。
うん、元々持っていたナイフよりも姉さんの手刀の方がよく切れてる気がする。
でも、硬そうな細い木とかも手刀で切ってるけど、姉さんの手は大丈夫なのかな?
うん、全然平気みたい。
少し歩いてると何だか甘い香りがする。
「あっ! 姉さん、アポーの実だよ! あれは真っ赤で食べれる状態だよ!」
アポーの実は美味しく甘くて蜜がたっぷりと入った果実だ。
最近は不作が続き、滅多に食べれない物になっている。
「本当! しかもあんなに実ってるわ! えっ!? アル、見て!」
「如何したの姉さん……。えっ!?」
僕は驚きに姉さんの指を指す方へと視線を向ける。
そして正に姉弟と思える程に同じ反応をし、同じ声を出す。
だって仕方ないじゃないか。
姉さんが指を指す方にはアポーの実以外にもオレンの実、ブドの実と様々な果物が実った木が一面に見えている。
勿論他にも様々な木の実を生やした木々が生えている。
「凄いっ! こ、これ、全部本当にオレンの実とブドの実!?」
「本物……みたいね」
「あっ!? 姉さん、いきなり食べたら危ないんじゃ……」
「何言ってるのよ。食べれる物なのなを確認しないと駄目でしょ?」
姉さんの言うことは間違っちゃいないけど、それ、味見ってレベルの量じゃ無いよね。
わざとらしく一口食べるごとに首を傾げてるけど、姉さんの頬が上がってるのは分かってるんだよ。ほら、また味見と言ってアポーの実をかじりだした。
「姉さん!」
「アハハっ! ごめんごめん。アルにもちゃんとあげるから。ほらっ」
「ありがとう」
姉さんの悪戯も嫌いじゃない。
だって僕を思う優しさの方がズッと大きい事は知ってるから。なんせ僕が食べやすい様にってアポーの皮を全部手刀で切っちゃうくらいだからね。
うん、甘くて美味しいのはアポーの味なのか、姉さんの甘さなのか。
なるほど、ダブルアタックだね!
でもこの光景はおかしいとしか言えない。
僕達は農民だけに知ってるけど、アポーの実とオレンの実は隣同士では実ることは無い。
更にそこにブドの実だ。
これも本来なら二つの実りが終わった後に次の季節に実る食べ物。
姉さんもそれは知ってるのに呑気に次はブドの実をパクパクと口に入れてる。
僕はその時嫌な予感が過ぎった。
もしかしてここは誰かが隠れて秘密にアポーの実を栽培してる場所なんじゃないかと。
そんな事ができるのは貴族の人かもしれない。
もしかしたら怪しげな魔法使いかもしれない。
姉さんの食べる手を止め、僕達は誰か居ないか捜索する事にした。
森の中は猛獣など何が居るかまだ分からないので足を踏み入れるのは危険だ。
僕達は水辺にそって歩くことにした。
しかし、歩いてると気づいた事が一つある。
最初歩き出した時、上から落ちてきている水は僕達の背後にあった。
少し歩くとそれが左側に見え、いつの間にか僕達はそれに向かって歩いている。
そう、時間をかけてぐるりと一周して戻ってきてしまったのだ。
総結論付けたのは先程まで僕達が口にした果物の木の所に到着したからだ。
「……」
「姉さん、ここって、滝の下じゃないの……」
「本当、不思議な場所ね」
「姉さん! そんな呑気にしてる場合って、また食べてる!」
「アル、落ち着きなさいよ。ここがどんな所か分かんないけど、大丈夫。私もアンタも生きてる! 目の前には食べ切れないほどの食べ物もある! 後は寝る所が欲しいわね」
「はぁ……」
姉さんのお気楽な所は姉さんの長所でもあるし、短所だ……。
既に上から見えていた日の光は岩陰に隠れて周囲も薄暗くなってきてる。
「えっ……あっ!? 姉さん! 急いで火を焚かないと!」
僕は焦った。
こんな所で家も小屋もない場所で火も起こさなければ獣に食べられてしまう。
僕は急ぎ周囲の木々を集めだし、枯れた木の葉をかき集めだす。
姉さんも手伝ってくれるけど、姉さんが選ぶのは大きすぎる木や生木と火を焚くには向かない物ばかり。
ああ、そうだ。姉さんは大雑把な性格でもある。
洗濯をお願いすれば必ず服の何処かが破け、皿を洗ってもらうと割ってしまう。
それも姉さんの持つ加護の力のせいだと言うけど、その大きな木を選んだ事には加護は関係ないよね。
僕は姉さんの分と燃やせる木を集め、火を起こす。
周囲が暗くなるタイミングと、僕達は火に暖まることができた。
それと見つけた大きな葉っぱを使い、寝床を作る為とそれを焚き火の煙で炙り、虫などを予防しておく。
お腹が空いたらまたアポーの実を食べてお腹をふくらませて横になっていると、突然姉さんが服を脱ぎだした。
「ね、姉さん!? どうしたの!?」
「何言ってるのよ。寝る前に煙臭い体を洗い流さないと。ほら、アルも来なさい」
「だ、駄目だよ姉さん!」
「何で?」
「だ、だって、川の中に魔物が居るかもしれないよ。き、危険だし、それに……」
キラキラと星の光と焚き火の火に照らされる姉さんの体に僕は思わず目をそらしてしまう。
「アハハッ、大丈夫大丈夫。ちゃんと魔物が居ない事は確認してるから。それにちゃんと水浴びするところは川と繋がってない場所を選んでするからね。さっ、言い訳してないでアルもおいで」
「えっ!? ちょっ! 姉さん!?」
僕みたいな非力な男が姉さんの力に勝てることも無く、僕は姉さんと水浴びをすることになった。
草むらには身体を綺麗にする為に村でも使っていた草があったのでそれを絞り、出てきた汁にて僕達は体を綺麗にできた。
姉さんの背中はとてもスベスベしていて、僕の肌とは全然違う。
あんまり触ってると姉さんに変に思われちゃうかなと思いつつ、僕は手を引く。
「ううっ、さ、流石に寒いわね」
「そりゃ、体を拭く物も無いからね……」
「着てた服も濡らしちゃったし、乾くまで火に当たっていましょうね」
「うん……」
水浴びをして体はさっぱりできた。
でも、姉さんは水浴びをした後に体を拭くものが無いことに気づいたのか、仕方ないと大きな葉っぱを体に巻きつけて二人で火に当たる事になった。
別に嫌じゃないけど、村の人には姉さんのこんな格好見せれない。
「ねぇ、アル」
「何、姉さん」
「これからも私と一緒に居てくれる?」
そんな姉さんの言葉。
ここが何処なのかよく分からないのもあるけど、姉さんも村を出る事は不安だったんだろうな。
僕は焚き火をゆらゆらと見せる姉さんの瞳を見ながら返答を返した。
「……うん。たった二人の家族だもん。僕は姉さんとずっと一緒に居るよ」
「……ありがとう、アル」
そう言うと姉さんは僕を優しく抱きしめてくれた。
ああ、この抱きしめ方は姉さんが不安がっている時と同じだ。
それに気づいた僕は同じく姉さんを優しく抱きしめ返す。
気づいたら空が明るくなってきている。
いつの間にか寝ちゃったのかな。
焚き火は消えてる。
「火、付けなきゃ……」
消えた焚き火の火を起こし、僕は乾いた服に着替えていると姉さんも起きて来た。
「ふぁわ〜。おはよう、アル」
「おはよう、姉さん。!? ぼ、僕何か果物取ってくるね……」
「うん、お願いね?」
寝起きだから仕方ないけど、姉さんはもう少し僕に気を使ってほしい。
昨日は薄暗くて見えなかったけど、今は明るいんだ。
意識してなくても姉さんの裸が目に入った僕は目のやり場に困るんだからね。
僕は逃げる様にその場からはなれ、果物が実っている木々の方へと進む。
「うんっ、やっぱりアポーの実は甘くて美味しわねー!」
「うん……」
姉さんは気にしてないのかな?
僕は未だにアポーの実みたいな赤い顔をしてたのかもしれない。
「さてと。アル、今日は森の中を探索するわよ!」
「えっ、危険じゃないの?」
「危険かもしれないけど、いつまでもここにいる訳にも行かないわ。雨が降ってきて川の水がここまで来るかもしれないわよ? その方が危険よ。それを回避するためにももっと安全な所を探さないと」
「うん……。でも、他にここに誰が住んでたら?」
「その時は雇って貰えばいいのよ! 私は宿屋の経験もあるし、アルも巻き拾いや火起こしと手先は器用なことを売り込めばいいの」
「う、うん。うまく行くかな?」
「まっ、先ずは人がいるかの確認ね。さっ、行くわよ!」
姉さんはそう言うと近くにあった手頃の棒を手に取り僕に渡し、草むらへと足を踏み入れる。
少し歩くと大きな蜘蛛の巣を発見。
大きさ的には僕の手のひらサイズの蜘蛛だけど、僕達の村では蜘蛛は害虫を食べてくれる便利な生き物と殺す事は無い。
姉さんはアポーの実を近くの木に刺し、その場を離れる。
僕達が離れると蜘蛛がやってきたのか、数匹の蜘蛛がアポーの実を食べ始めている。
良かった、これであの蜘蛛は危険な蜘蛛じゃない事が分かる。
「良かったね、あの蜘蛛は人は襲わないタイプだよ」
「そうね。果物を食べる蜘蛛は基本温厚な蜘蛛しかいないわ。もしかしたらここに害虫が少ないのはあの蜘蛛のおかげかも」
「だといいね」
僕達がそんな話をしていると次に見えてきたのは小川だ。
「姉さん、川だよ」
「ええっ、でもこの川、変よね? 先がないのに、何処から水が出てるのかしら?」
僕達が見つけた小川の先は大きな木があるだけ。
でも水の流れは下流へと流れてる。
「あっ!? 凄い、アル! 見てみなさいよ」
「如何したの? あっ、これ水が湧き出てるんだ」
「凄い、天然の井戸よこれ」
「うん、湧き水って奴だね。これなら飲んでも大丈夫かも」
「なら、私が最初飲んでみるわね」
「ええっ、大丈夫? ここは僕が飲んだ方がって、もう飲んてるし」
僕が言い終わる前と姉さんは湧き水をゴクゴクと飲み、プハーッと声を漏らす。
「これ、井戸水よりも美味しいわ! アルも飲んでみなさいよ」
「うん。……うんっ! 全然土臭くない!」
「よし、飲水はここで調達できるわね。他に無いか探しましょう」
「分かった」
僕達はこれ迄の疲れが無くなった気分と森の中を歩く。
「不思議、さっきの水を飲んだせいかしら、随分と身体が楽に感じるわ」
「あっ、姉さんもそう思う!? 実は僕も足の痛みとかいつの間にか無くなってるし、息切れもないんだ」
「へー。もしかしたらさっき飲んだ水には、身体の調子を良くする効果があったのかもね」
「だとしたら凄い湧き水だったね。あっ、姉さん、森が終わるみたいだよ」
「随分と広い場所……あっ! アル、あれって家じゃない!?」
「本当だ! あっ、でも姉さん。あれは」
「……」
姉さんが指を指すのは確かに家だ。
でも、とても人が住んでいるような家じゃない。
壁はボロボロ、窓の板は壊れ落ちて、屋根も所々と穴が開いている。
「人が住んでるようには見えないね……」
「そうね……」
僕達はその元家であった場所を調べた後、もう一度森の中へ入ろうとするが、姉さんがそこで足を止めた。
「ねえ、アル。もしかしたらここは誰も居ないのかもしれないわ……」
「えっ!? 姉さん、如何してそう思うの?」
姉さんは昨日の夜、僕達が起こした焚き火の火に誰も近づいて来なかったこと、また姉さんは高い木に登り、遠くを見ても火の灯りや煙が見えなかったと言ってきた。
確かに、僕達は結構歩き回ったけど、人の気配を感じないこの場所は変だ。
生い茂った道は人が数年と歩いていない証拠にもなる。
「じゃ、じゃ、僕達は……」
「ええ、アル。ここ、いえ、この島には今は私とアルしかいないかもしれないわ」
「島……」
そう、昨日探索して分かったけどここは島の様に円状の場所になる。
何処にも繋がっていない場所は島と言ってもおかしくない。
「アル、私はここで住もうと思ってる。食料は果物や魚があるし、飲水もある。目の前には壊れてるけど家もあるわ。知らない村や街に行けば、これ以下の生活から始めなければならないのは明らかよ」
「姉さん……」
姉さんの言う事はもっともだ。
下手したら屋根もない路地裏で僕達は寝る事になる。
姉さんの容姿に引かれた悪い男達が姉さんに手を出してくるかもしれない。
僕は恐らく邪魔だと言われ殴られるだろう。
そんな想像をするだけでも身震いが止まらない。
「アル……。アルはやっぱり村や街での暮らしがいいかな………?」
不安そうに見つめてくる姉さんの瞳に、僕は無意識に震えた身体がピタリと止まった。
「嫌じゃない! 僕は姉さんと一緒に居るって決めてるもん!」
「……アル」
そうだ、昨日も言ったじゃないか。
姉さんが居るところが僕の居場所だ。
村や街の生活が楽になったとしても、姉さんが望んでいない場所は僕の場所じゃない。
僕達はこの場所で二人で生きる。
それを胸に、先ずはボロボロになった家を住める家と建て替えなければならない。
「さっ! そうと決まったらアル、始めるわよ!」
「うん、姉さん!」
※ご視聴ありがとうございます。
こちらの話は短編となります。
コメント応援よろしくお願いします。
サバイバル姉弟 大都督 @Daitotoku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。サバイバル姉弟の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
冷切新星花外三篇/小松加籟
★11 エッセイ・ノンフィクション 連載中 16話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます