魔女さまにはかないません

蒼開襟

第1話

よく晴れた午後だ。

昨日は星が落ちたとニュース番組が大慌てで、よくよく見れば僕が住んでいる家の近所の寺だった。だから朝から近辺は騒がしくTVではよく知る場所が映ってた。


学校ではその事で持ちきりで、住所が近いと知った連中は僕の周りに寄ってきたけど僕の対応が悪かったのかさっさと掃けてしまった。

実際星が落ちたことよりも重要な試験、新しい魔法の取得のために勉強が必要だったし、それともう一つ、引越し先を決めなくちゃ行けなかった。


19歳までに先生となる人を見つけて弟子になるか、学校から推薦された人の元へ行くかを決めなくてはいけない。学校で会う先輩の中には推薦された人が多いけど、その多くが皆零していた。

『絶対…自分で探したほうがいい。』と。


殆どの先輩は詳細を教えてくれなかったけど、親しくなった一人の先輩がこっそり教えてくれた。

素晴らしい魔法使いだと推薦されて行った先にはものすごい婆さんがいて、蛙だの毛虫だのグツグツ煮るタイプだったと。


推薦された場合は三年間は辞められない、これは契約であり三年我慢すればとりあえずの魔法は習得できるということらしい。

担任からはもうすでに幾つかの候補を貰ってはいたが、先輩の話を聞いてからというもの中々選択肢に上がらなかった。がそろそろ選ばなくちゃいけないみたいで今日も職員室に呼び出され指導されたところだ。


東崎ひがしざき、お前だけだぞ?そろそろ決めろ?』

担任の顔がしかめっ面で迫ってくる。

『なかなか決めかねていて…よく選んでおきたいので…すいません。』


そう言ったものの、どれかには蛙を煮るタイプの魔法使いはいるだろうし、どう考えても選択肢には上がらない。

僕は職員室を後にすると家へと自転車を漕ぎ出した。まだ家の周りは騒がしくTVの中継車が何台か止まっていた。それを通り過ぎていつも立ち寄るコンビニへと向かう。


セボンセシボンの看板にはハートフルキャッチー、あなたの街でもコンビニエンスと書かれている。この地域では珍しくないコンビニだが若者向けの物がズラリと並んでいる。老夫婦が経営しているが彼らが若い人のためにと開いたため、客はその通りに若者が8割だ。


入り口付近のアイスコーナーでお気に入りのアイスを取り、奥でジュースを選ぶ。ふと左手に柔らかいものが触れて僕はそちらを振りかえった。

薄茶色の長い髪に白い肌、薄緑の瞳がこちらを見つめている。首元で星が二つ重なった印のネックレスが揺れている。国に認められた魔女がつけている印だ。


首のネックレスから魔女だと気付いたが、その下の谷間に目を奪われて手に持ったジュースを落としかけた。

『あ、ごめん。当たっちゃったね?』

魔女は見た目よりも低い声で僕の耳元に囁くと、僕の持っていたペットボトルを支えるように手を重ねた。甘い花の匂いが鼻について体が固まる。


『落とさなかったね、えらい、えらい。』

細い指で頭を撫でられて目の前に彼女の谷間が迫ってきた。

『ちょっとごめんね、君の後ろのお酒を買いたいんだよ。うん、取れた。』

ガタンと頭の上で缶が滑り落ちる音がして、目の前から彼女の胸が遠ざかり背中を向けてレジへと歩いていく。


両手に持ったアイスとジュースが震えている。いや、僕の手が震えているらしい。

あんな真近で女性の胸を見たことなんてなかったから。

僕は平静を装いレジへと向かう。セルフレジを通して袋に入れ外に出るとさっきの魔女が外で立っていた。


『あ、来た。ねえ…君ってさ魔法学校の生徒だよね?学校の先生から推薦行ってないのかな?』

『はい?』

『あー、どっち?推薦来てる?来てないの?』


彼女は首を傾げる。薄緑の瞳に光が当たって金の輪が見えた。

『ええと…。』

僕は背中のリュックを開けると推薦状を取り出す。それを手の中で動かすと彼女が覗き込み一つ指差した。


『これ、あたし。君さあ、あたしの所においでよ。』

推薦状には国家指定魔女・雪野原月子ゆきのはらつきことあった。

これが僕と先生の出会いだ。

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