(14)三日遅れの入学式
「っはー……ようやく終わった……」
生徒指導部長の話が終わったタイミングで、入学式は小休憩の時間となった。
この日は、コーファライゾ学園国が総出で入学式を行う日となっており、
式の再開は三十分後。大講堂に集められた生徒たちがワラワラと外の空気を吸いに出ていく中、
「元僧侶なだけあって、話めちゃくちゃ長かったなあのオッサン……。 てか、今さらしれっと入学式やるってどういう神経してんだよ……」
本来、入学式は三日前……シュウマ達が現代日本から転移してきたその日に行われているはずだった。しかし、予期せぬ
当然、入学式などやっている場合ではないということで、入学式の延期と特別警戒宣言が出されたのだが……あれから三日経った今日、入学式は何事もなかったかのように開催された。しかも、暴動に対する釈明や謝罪、経過報告も無しに、である。
「あ、いたいた! シュウマ君!」
と、
「良かった、やっと会えたよ……。 転移の日の事故があってからずっと話せてなかったから、僕たち心配してたんだ」
「管理局に入院してるのかと思ったけど、例の襲撃であそこはめちゃくちゃだったし。 そんで場所分かんなくて、お見舞いいけなかったんだよね。 で、もう大丈夫なわけ?」
現れたのは、
おぉー、とシュウマが気の抜けた返事をしながら、身体を二人の方に向ける。すると、
「え……うわ、ちょ!? も、もしかしてソレ……腕なくなってんの!?」
シュウマが着る新品の制服。しかし、その右腕部分は芯が通っていないと言わんばかりにプラプラと浮いていた。ヒカリも、ワカナの後ろで顔をひきつらせるが、当のシュウマはあっけらかんとした顔で、
「あー……まぁ、その色々あって。 ゲートに飲み込まれてからはもう完全に壊死しちまってたからな。 んで、侵攻するとマズいから、手術して切り落とすことになった」
淡々と説明するシュウマだが、それは真っ赤なウソ。
本当は、
あの後、シュウマは
……しかしまぁ、そんなことをバカ正直に話す訳にもいかず、誤魔化すためのエピソードとして、シュウマは仕方なくこういう話をしているのだった。これは、治療や精密検査の最中に、
「そんな……入学早々、こんなことになっちようなんて……。
……その、僕にできることがあったらなんでも言って! 食事とか、移動とか、なんでも手伝うから!」
のっぺりと固めた焦げ茶色の髪が、透き通った茶色の瞳を片方だけ隠している。その長く伸びた髪と、色白で整ったパーツから、女性と間違われることも多い彼。しかし、唯一シュウマとは男同士で和気あいあいと話せる間柄となっている。
「いやぁ、まぁシュウマの自業自得だろって気もするんだけど……流石に片腕無いのは可哀想すぎだし。 ま、私もなんかあったら手伝ったげる」
「え? じゃあ……下のお世話とか?」
「左腕もセット割で葬ってやろうか? お?」
「ごめんなさい冗談です……」
笑顔でブチ切れるもう一人の少女は、
赤みがかったストレートの髪を束ね、快活なポニーテールにしている彼女。男女ともに分け隔てなく接するサバサバした性格で、特にシュウマやヒカルとよくつるんでいる。ちなみに、第八期新入生の中では第三位の成績を誇る秀才で、周りからも一目置かれている。
「で、実際どうすんのそれ? 一応、管理局が色々補償とかしてくれるんだろうけど……義手とか?」
「いや分からん。 あんまり高度すぎる医療技術は、まだ
「あ……そ、そういえば、
「あー……まぁ、ダメ元で頼んでみても良いかもしれねぇけど。 それこそ高くつくだろうしなぁ……」
「それにほら、シュウマは自分から手突っ込んだせいでこうなった訳でしょ? だから、学園国規則的には災害共済の対象と見なされないかもしれないし。 ……そうなったら、もう自分でメキメキ腕生やすしかないねぇ」
「俺ってサイヤ人か何かですか?」
と、とりとめのない会話を繰り広げていると、不意にワカナが「あ!」と声を上げた。
「そういえば、シュウマがずっと会いたい会いたい言ってた
(っ……)
照姫アケヒという名を聞いて、シュウマは一瞬顔をしかめた。
管理局の建物内で
彼女のことだから、
そのことが、シュウマの脳裏をずっと渦巻いていたのだった。
「そう、だね……プログラムにも、アケヒさんの名前が書いてあるのに」
「……その事だけどさ。 俺、実はもうアケヒと一回会ってんだよ。 転移の日に」
キョトン、とする二人。そして、息を揃えて「「えっ!?」」と顔を近づける。
「ど、どういうこと? 転移の日って……あの事故の後に?」
「そういえばシュウマ、転移の後行方不明になったよね? あん時は本当、皆騒然として大変だったんだから! この際、転移の後どうなったのか、事細かく説明して貰───」
と、ワカナがシュウマに詰め寄ろうとした時だった。
「───第八期新入生、二十番の
大講堂の入り口側から、そう声がかけられた。
シュウマらが振り向くと、入り口にズラリと立ち並ぶ上級生らの制服が目に入った。そして、その中央には小柄な青年が一人。黒の短髪で、スポーツでもやっていそうな健康的な焼け具合と肉付きが印象的だ。よく見ると、腕にはアケヒが着けていたものと同じ腕章がある。
「あれって……
「シュウマ……入学早々呼び出し?」
「いやいやいや……そんな、やましい事は何もしてねぇ、けど……」
名乗り出るのを躊躇うシュウマだったが、やがて役員の側がシュウマ達に気付き、近づいてくる。
「こんにちは、裁切シュウマくん。 僕は
「あ、あぁ……どうも」
律儀に握手を求められ、困惑するシュウマ。とりあえず左手を出すと、役員───ヒロトはニコリと爽やかな笑顔を浮かべた。そして、シュウマの手を離さないまま、
「実は、
えっ!? と、後ろの二人は声を上げるが、シュウマは一人、落ち着いた様子でため息をついた。恐らく、三日前の事件についてまた根掘り葉掘り聞かれたり言われたりするのだろう。
「シュウマ……アンタ、大丈夫なの?」
「シュウマ君……」
「だーいじょうぶだよ。 ほら、多分ゲート事故のことでちょっと怒られるだけだよ。 心配しなくても、パレード前には戻るから」
そう言って誤魔化した後、シュウマはヒロトと目配せをして頷いた。お互い、部外者には事の詳細は明かさないように、という暗黙の了解だ。
そうして、シュウマはヒロトに連れられるまま、大講堂を後にした。
その背中を心配そうに見つめるヒカルとワカナ。丁度その時、入学式の再開五分前のアナウンスが、会場一帯に響き渡った。
つづく
かくして俺は、異世界学園で終末の力を託されました 彁面ライターUFO @ufo-wings
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