(幕間)ようこそ異世界のコーファライゾ学園国へ



 皆さん。本日はコーファライゾ学園国の輝かしい一日にお立ち会いいただき、本当にありがとうごさいます。

 今日こうして、第八回目の入学式を執り行えることを、私は嬉しく思います。



 改めまして、コーファライゾ学園国教務部インペリアル所属、三条ヶ岳原さんじょうがたけはらクニジュウロウです。この学園にて僧侶……失礼、生徒指導部長をしております。




 しかしまぁ、皆さんご存じの通り、この世界では学生が……すなわち皆さんが絶対的な権限を持ちます。未来を切り開く若人わこうどである貴方たちが、この国を動かしていくのです。……まぁ、皆さんは年齢も出身もバラバラな訳ですが。

 それでも、今日この日から皆さんは力を合わせて共に生き抜く同郷となります。我々教務部インペリアルは、その手助けをするためだけに在ると言っても良い。それだけ私たちは、今ここにつどってくれた皆さんに期待をしているのです。





 ───少し、昔話をしましょうか。

 選抜試験の勉強や座学で充分に知っているとは思いますが、まぁ聞いてください。



 二十年ほど前、この地には『パリオット』という国名がありました。古くから土着の守り神として存在していた幻獣らと共生しながら、人々はのどかに平和に暮らしていたのです。



 ところが、突如として世界に君臨した”魔王”により、世界は破滅の危機にひんしました。隣国はみな魔王軍の侵攻を受け滅び、『パリオット』も壊滅寸前にまで追い込まれたのです。

 さらに、幻獣たちも大量に命を落としました。今、この地に生き残っている幻獣たちは、ほんの一握りです。『ワイバーン』なんかは、今でこそ四千匹はいるとされていますが、かつては三万匹以上生息していたと言われているんですよ。



 『パリオット』の人々にとって、幻獣の存在はなくてはならないものでした。この国の人間は、幻獣の血を分け与えてもらうことで、"魔力"や"生命力"を手にしていましたからね。



 異世界の……いや、失礼。現代日本からやってきた皆さんは、平均的には八十歳程度までが寿命とされていますよね? ところが、この国の住人は、三十歳程度で寿命を迎えます。何故なら、幻獣の数が減り、生命力の供給が受けられなくなってしまったからです。



 皆さんが動植物を食らい、自然に生かされるのと同じように、この世界では幻獣から受けとる力が命を繋いでいた。しかし、魔王侵攻によって幻獣の数が大幅に減った。故にこの世界の住人は皆、平均して三十年ほどしか生きられないようになってしまったのです。





 しかし、『パリオット』の人々も幻獣も、全滅した訳ではありません。皆さんがよく知っているように、この世界はとある一人の”勇者”によって救われました。




 ───そう、その”勇者”こそが、コーファライゾ学園国の設立者にして永世名誉皇学生、「佐藤さとうハジメ」様です。




 彼は、いわゆる”異世界転移者”でした。皆さんが住む現代日本から、不思議な力でこの地に転移なさったのです。

 そして、パリオットの人々と絆を深め、幻獣たちとも心を通わせていった彼は、ついに魔王を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらしました。




 パリオットの姫君と結ばれた勇者様は、この地を治める新たな王に任命されました。幻獣も住民も減ってしまったこの国を建て直すには、勇者様の力が必要不可欠だったのです。



 しかし、勇者様はまだ若き身。現代世界でいう学生だった。当然、一国を治めるための知識や経験など持ち合わせておりませんでした。



 そこで勇者様が考えたのが、この国を”学校”としてしまう統治方法。

 即ち、現代日本において勇者様が暮らしていた”学校”の姿をそのまま再現し、住民らの役割をあてがうことで、この国に秩序をもたらそうと考えたのです。



 初めは、異文化の習わしを取り入れることに反対する者もいました。しかし、政府の役割を担う『生徒会キャビネット』、警察組織の役割を持つ『風紀委員ポリスソルジャー』等、国家運営に必要な組織を兼ね備えた学校方式の統治は、理に叶っていた。崩壊寸前であった我が国は、勇者様の一案によって見事に秩序を取り戻したのです。



 そうして出来上がったのが、この『コーファライゾ学園国』。

 ”コーファライゾ”とは古きパリオットの言葉で、「健やかなる未来」を意味します。勇者様は、この地に暮らす人々と幻獣たちが、再び健やかな暮らしと輝かしい未来を手にすることを願って、この名を付けられました。



 ……そう、今ここに集った皆さんこそが、このコーファライゾ学園国にとっての”未来”に他なりません。



 勇者様がこの世界に迷い込んだ際に発生した ”ゲート”。十年前、それが再び現れたことで、我々コーファライゾ学園国と現代日本国との間に交流が生まれました。互いに情報を共有し合い、ゲートについての研究と解析が進められ、今ではゲートを恒常的に出現させることに成功しました。



 結果、現代日本とコーファライゾ学園国は常にゲートで結ばれ、物資や情報をやり取りできるようになり、こうして現代日本からの入学生を受け入れることができるようになりました。これは本当に喜ばしいことです。



 勿論、ゲートの解析はまだ完璧ではありません。現に、生身の人間を無傷で移動させるには高度な技術が必要ですから、人の行き来は年に一回のみ、一度に転移できるのは二十人までと定められています。……まだまだ、不完全なことが多い。

 


 そこで、未来を担う君たち新入生に、この国をより良くするべく学びを深めて欲しいのです。

 先ほど話したように、コーファライゾ学園国は今、幻獣の絶滅危惧による国民の寿命低下と、危機的な人口減少という大きな問題に直面しています。この世界に住む人間は、長くても三十年しか生きられない。加えて、現在のコーファライゾ学園国の人口はわずか六十万人という現状です。今も、移民……というと言葉が悪いかもしれませんが、現代日本からこちらに入学してきてくれた皆さんの人口を足して、何とか国力を維持しているに過ぎません。

 


 どうか、皆さんの力で、コーファライゾ学園国を救ってください。それが、私たち原住民族の願いです。





 ───と、少し長くなってしまいましたね。

 それでは、今後の皆さんの生活についても、少し触れておきましょう。詳しくは、また後で説明があると思いますが。



 これから皆さんはコーファライゾ学園国の”八組”として学園生活を送ってもらいます。八組というのは、皆さんが第八期選抜入学生だということで、そうナンバリングしているだけです。



 クラスというのはわばコミュニティ、市町村のようなものだと思ってください。クラス内で係や当番などを決めて、共に生活をすること……それが、生活内学習として、皆さんの”授業”となっていきます。更には、委員会や部活動などへの加入も良いでしょう。それらは、言うなれば”職業”。この世界は、各委員会や部活動、そして生徒会によって支えられているのです。



 勿論、授業もあります。が、それは私たちの世界でいうところの”礼拝”に近いもので、週に一度しか実施されません。

 我々『教務部インペリアル』は、各クラスを回り、この世界における神や幻獣らへの信仰的儀式を補佐したり、生活指導などを行っています。ですから、本来の学校で行われる”授業”や”試験”などのようなものは無いんです。コーファライゾ学園国での生活そのものが修学であると、そう思っておいて下さい。



 そして、三年間の在籍の後、皆さんには”卒業”か”在学”のいずれかを選んでもらいます。すなわち、現代日本へと戻るか、この世界に定住するかのどちらかを決めるということです。

 ……ちなみに、過去に現代日本から転移してきた人たちの在学選択率は、累計で八十パーセントを越えているそうです。それだけ、コーファライゾに関心を持ち、この国を支える覚悟で訪れてくれている人が多いのだと、私はそう思っています。



 私たちとしては、コーファライゾの人口減少を抑えるべく、ぜひとも皆さんにはこの国に残ってもらいたい。しかし、それを強制はしません。この三年間で学びを経て、皆さんが自分自身でよく考え、未来を決断してくださいね。





 ……さて、私の話はそろそろ終わるとしましょう。



 

 最後に、もう一度だけ。





 ───貴方たちは、我がコーファライゾ学園国にとっての”希望”です。




 これからのコーファライゾ学園国の行く末を……どうか、よろしくお願いします。

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