4話 1日目 秘密のお茶会



「あれ?城野先輩。今日の出勤って何時からでしたっけ?」


 「今日は休みだよ。」


 先程のお洒落な3人組の会話に乗って別の話し声が聞こえてきた。

 みろく達の向かいの席に座っていて、重たい金属の箱のようなものを被って顔を

隠しているスーツ姿の男性二人。

 その箱のようなものはよく見ると時計に見えなくもない。というか大きな時計だった。二人ともデザインが異なる大きな時計の箱を頭に被っている。素顔は見えない。


 手前の男性は濃紺のスーツを着ていて、顔は見えなくとも、雰囲気がとても

ふわふわとしていて優しそうだった。一方、その隣のグレーのスーツを着た男は隣に座っている男性より体格がよく背も高かったので、少し威圧感を感じた。

 しかし、威圧感とは別に、不思議な雰囲気をまとっている。確か、「城野先輩」とか呼ばれていた。


この二人も先程の3人と同様、明らかにただものではないことだけ伝わってきた。

 

 被り物サイズの通常より大きな時計を被り、素顔を隠していて、服装はスーツ。

先程の、会話からして会社員かなにかだろう。恐らく勤務先は同じで、二人の仲は

良い?のだろう。さっきの会話も、そっけなく返しているように見えるが、どこか温かみのある感じがした。


 先程の会話に続いて、優しそうな男が返答した。


「あ、そっか!今日は仕事休みでしたね〜明日はありますよね?午後からでしたっけ?」


「天野くんは午前からだよ。」


「そうだった!城野先輩も午前ですよね?明日はちゃんと起きてくださいよ!また隣の部屋まで先輩を起こしに行くはめになるので。」


「うん、気をつける。」


 自分の予想どおりかなり仲は良いようだ。


 様子からして、天野という男性が部下で、城野という男性がその上司のようにみえた。


 流れ的には、部下である天野が明るく質問し、上司である城野がそれに対して端的に答えている様子だった。


しかし、端的なのに言葉のひとつひとつに、どこか温かみを感じた。



「そういえば今日開催している『秘密のお茶会』は次いつ開催されるんですか?」


「もう来月だと思う。招待状が来るのはいつも突然だから詳しくは分からないかな。」


 『秘密のお茶会』もしかしたら今開催されているこのお茶会のことなのだろうか。それに招待状とはなんのことなのだろう。その招待状とやらを貰った人が今ここにいるのだろうか。

 

 ただ、この『秘密のお茶会』とやらを見ていて気づいたことがある。



 きっとここにいる人は普通の人ではない。



 みろく、アメリア、シャーロットもしくは、女王様。この3人はまず少なくとも

日本人ではない。顔つき、服装、圧倒的西洋だった。”和”など微塵を感じられない。


 みろくの服装は胸元に赤いリボンがついておりスカートの丈は膝のあたりまで、ふわふわとしたスカートで豪華な刺繍など、とくかく鮮やか。


 金色の透き通るとうな外ハネのショートカット。服と同じ色の薔薇がついた帽子。深い緑の大きな宝石がついており、言ってしまえば ”姫を型どった人形” だ。


 アメリアやシャーロットに関しても同様。アメリアは身長が170cmほどと女性にしては高く、スタイルが良かった。腰まである青髪が美しく、服装は膝まであるマーメードドレスのような黒いワンピースだった。そのワンピースの上に袖が広がった、上着のような服を着ていた。

 

 シャーロットは青ががった髪に、赤いシルクハット、これも高級そうに見えた。

服は、黒いチェックのはいった赤いジャケット、ズボンも同じ柄のものを履いていた。背丈はみろくと同じくらいで、150cm後半と言ったところだろう。


この3人の特徴はこんな感じだろう。この3人の共通点は、容姿端麗で異国の服装。

貴族のような高級品が多く、意味不明な発言が多い…。


 事件の手がかりとは程遠かった。赤い薔薇を手がかりにここまで来てしまったはいいものの、黒髪の女性はどこにもいない。


 ただ何かあるのは確実だと思った。


 今はとりあえず帰ることだけ考えよう。でもまず、両浜高校の近くにこんな広い場所も、薔薇が咲いているところもなく、あんな大きな建物が周りから見えない訳もなく、こんな田舎に、異国の貴族集団と時計の被り物を身に付けている変人はいる訳もなく___こんなことよく考えたら全てがありえないことで構成されていた。

 

 いわば、異世界。というやつ___。


 帰る方法など見つかる宛もなかった。出口を塞いだ薔薇を強行突破するか、素直にこの人達に聞くしかない。とりあえず、盗み聞きをしている身として、まずは謝罪をし、それから…。


 いや自分にそんな勇気はない。残す手は薔薇の壁を強行突破しか‥。確か鞄にはいっているペンケースの中にハサミが入っていたはず、それでどうにか脱出するか。

 見事な薔薇の木を切るのは、心が痛むけど、この人たちに聞くよりはマシだと思った。


 しかし、やっと掴んだ手がかりだ。無駄にはできない。ここから脱出することができたら、また来ようと思う。今度は少し、大胆に行こう。手がかりの写真を見せて、それから情報を集めて…。


ここで天野と城野の会話を思い出して、気がついた。

           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そういえば今日開催している『秘密のお茶会』は次いつ開催されるんですか?」


「もう ”来月” だと思う。招待状が来るのはいつも突然だから詳しくは分からないかな。」

          〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


”来月”…。もう退職しているではないか。どうしようか…。




「次の開催は明日だよ。」




長テーブルの一番奥の席に座っていた、黒髪の男性が遠くから口を挟んだ。

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見習い探偵は異世界(?)に迷い込む おがわ @hetalia0704

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