第5話 戦女神

 避難所の仮設テントの中で俺はぼーっと横になっていた。このまま外に出てもさっきのループと同じように死ぬだけ。ここに残ってもアプタ・ヴィルゴという謎の少女と出会って死ぬ。まさに詰みの状況だ。


「大丈夫だよ。みんなもうこわくないからねぇ」


 百合羽は泣いている子供たちをあやしている。生来の優しさゆえにか子供たちは泣き止んで穏やかな顔で百合羽に甘えていた。だめだ。諦めたくない。俺はこの子を必ず守る。そのためには行動を起こさなきゃいけない。そんな時だった。


『無事な成人男性の皆さんにご協力いただきたいことがあります。指令所にあつまっていただけないでしょうか?繰り返します…』


 避難所内にスピーカーでアナウンスが入った。これは初めてのイベントだ。今回ここに飛び込んだのは今まで一番早かったから今まで見逃していたイベントのようだ。俺は百合羽に一言声をかけてから指令所に向かった。そこには生き残った男たちが数百人ほど集まっていた。そしてみんなの前に迷彩服の壮年の自衛官が現れて言った。


「お集まりいただきありがとうございます。現在皆様もご存じの通り正体不明の敵が日本だけでなく全世界で暴れております。一刻も早くこれを撃退しなければ皆さまやこの避難所に逃げてきた女性や子供たちのことも守れません。そこで皆様にこの避難所の防衛協力をお願いいたしたく集まっていただきました」


 周囲がざわつく。自衛隊の人は丁寧な物言いだが、実質的には戦闘への参加要請だ。


「当仮設避難所には現在試作段階ではありますが、戦闘用パワードスーツが配備されています。ですが相次ぐ自衛官の損耗によって数が余っている状態です。皆さまにはこれらを使って避難所を守り、さらには他の地域の敵の排除を行っていただきたく存じます」


 自衛官の男は頭を下げる。


「我々の力不足は承知です。本来ならば一般市民の皆様を守るのが我々の務めです。ですが奮戦しつつも戦力は限界を迎えつつあるのも現実です。お願いいたします。ご協力を。皆様のお力をぜひ我々にお貸しください!」


 自衛官の目には涙が浮かんでいる。悔しいのだろう。守るはずの対象に力を借りなければならないのは。その気持ちはよくわかる。そしてそれは俺だけじゃない。周りの男たちだってそれは同じだった。一人の男が前に出て言った。


「俺はあいつらに子供と妻を殺された。なあ復讐でもいいのか?他の誰かの家族を守るためなら復讐でもかまわないか?!」


「…はい。動機は一切問いません。奴らから今生き延びた人たちを守っていただけるならば」


「わかった。俺は志願する!」


 それがきっかけだった。多くの男たちが手を挙げていった。その中で俺は様子見していた。ここで志願することでループを脱する機会になるのか?俺には判断しかねていた。その時ふと気がついた。指令所の壁に背を預けて男たちをどこか微笑ましそうに見るアプタ・ヴィルゴの姿があった。以前の周回で彼女は自衛官と喋っていた。人種的には日本人には見えないが自衛隊の所属なのは間違いないのだろう。これは一つのいいきっかけかも知れない。アプタ・ヴィルゴと接触すると誰かに殺されるが、その誰かが俺に目をつける理由は正直よくわかってない。俺も軍属になれば接触してももしかしたら殺されずにすむ可能性があるのではないだろうか?賭けてみるしかない。


「志願します!」


 俺も手を挙げた。そして志願した男たちは自衛官に連れられて別のテントへと連れられてきた。そこにはパワードスーツがずらっと並んでいた。


「こちらがパワードスーツです。最新のOSにより纏えば自分の体の延長線上で体を動かすことが出来ます。短時間であれば飛行も可能です。すべて感覚的に操作が可能です」


 ずいぶんとすごい代物のようだ。俺は案内されるまま自衛隊の迷彩服に着替えてパワードスーツを着ることとなった。


「お前さん若いな。まだ学生だろう?いいんだぞ。別に逃げても。子供なんだから」


 俺のパワードスーツを調節している整備の自衛官のおっさんは悲し気な目でそう言った。


「いいよ。この世界に逃げ場なんてないんだ。だったら戦うしかない」


 俺はパワードスーツを纏ってそう言った。その場で足踏みしてみる。実際に感覚的というか自分の体の延長で動かすことが出来た。これなら戦える。足掻こう。精一杯。彼女を守り切れるその時まで。










 だけど世の中ってのはやっぱり甘くなかった。







 俺たち志願民兵はそこそこの慣らしのあとすぐに出撃となった。


「うおおおおおおおお!!!よくも俺のかぞくぉっをおおおおおおおおおおお!!!」


 家族を奪われたという男は先陣を切って怪人たちの群れに飛び込んだ。刀を振るって怪人たちを切り裂いていく。他の民兵たちもそれに続いた。俺たちの任務は避難所に近づく怪人たちの殲滅である。俺は避難所から余り離れずに民兵たちが討ち漏らした奴らを淡々と刀で斬ったり、銃で撃って殺していった。


「すげぇなこのスーツ。でも酔いそうだ」


 酔いそうなのは揺れとか振動とかではなく、全能感の方だった。無力な自分に圧倒的な暴力を授けてくれるこのスーツの魅力に酔いそうな自分が確かにいる。だけど俺はそれをぐっとこらえて自分の仕事に徹した。だけど。


「くそ…敵が多すぎる…!」


 一匹一匹は大したことはない。だけど数があまりにも多すぎた。避難所に人が集まっていることがわかっているのだろう。だから怪人たちも無尽蔵に集まってくる。ケーキに集る蟻のように。


「ぐぁあああああああ!!!」「ぎゃああああああ!!」「かああぁあああさあああん!!!」


 一人一人と民兵たちも斃れていく。俺たちは精鋭とは言い難い存在だ。本来ならば十分な訓練を積んでから実戦に入るはずなのに、にわか仕込みで放り込まれればそうもなる。そして俺が抑えていた群れの中から一体の怪人が飛び出して避難所へと駆けていく。俺はすぐにバーニアを吹かして、飛んでその怪人に追いつき斬りかかる。だけど本来人間は空を飛ぶことに慣れてない。だから。


『gyaaaaaaaaaaaaa!!』


「ぐぅううう!」


 俺は怪人を切り裂いた。だけど怪人の腕の長い爪も俺の腹部の装甲を貫いてお腹の中をぐちゃぐちゃにしたのだ。これはもう助かれない。俺はその場に倒れる。そして避難所の方を見る。ゲートの目の前に銀髪の髪のアプタ・ヴィルゴの姿が見えた。彼女は光り輝く大剣を手にしていた。そしてそれを思い切り横薙ぎで振るう。すると光の刃が発せられて避難所に迫っていた怪人たちを悉く真っ二つにしていった。


「スゲぇ…。なんなんだよ。あいつ…」


 俺の視界は徐々に狭まっていく。俺の目に映るアプタ・ヴィルゴはどこかがっかりしたような顔で俺のことを見ていた。それが悔しくて悔しくてたまらないまま、俺は死んだ。













****作者のひとり言****


ループしようぜ!

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死に戻れば戻るほどスキルをゲットできる王の力を手に入れたけど、世界が詰みかかってるのがやばすぎる!!ループ・ザ・キング!! 園業公起 @muteki_succubus

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