第4話 11回目~20回目
2024年7月7日(11回目)
状況を整理する時間は俺にはない。すぐにバイクを走らせてRTAしてアプタ・ヴィルゴを避けつつ百合羽を回収。自衛隊の避難所に入った。もはやここまでくるとゲーム感覚そのものだ。俺は一応回収した警官と怪しげな黒服たちの銃を懐に忍ばせて周囲を警戒していた。ヴィルゴとの接触は俺にとっての”死亡フラグ”だ。だけど向こうは俺のことを把握している。だが出会わなければよいはずだ。俺はリュックに配給された缶詰やペットボトルの水などを詰めて、百合羽の手を引っ張る。
「ちょっと!どうしたの?!もうここにいれば安全なんだよね!?」
「いいや。すぐに出ていく。このまま外に出て山の方へ向かおう。怪人も怪獣も街で暴れるのが目的のはずだ」
確信はないが、たぶんあいつらの目的は人間の殺戮のはずだ。人口密度の低いところは狙わないだろう。ネットでも田舎の方にはあいつらは現れてはいないという情報が流れていた。俺は百合羽とともにバイクに乗り避難所を出て山の方へ向かった。
「次寿…こんなひどいの放っておけないよ」
「だったら目を瞑ってろ!俺はお前以外を守る余裕がないんだ!」
街の中は阿鼻叫喚の地獄だった。そこらへんに散らばるかつては人だった肉片。黒焦げの死体。泣き叫ぶ人々。だけど俺はヒーローじゃない。だから俺はすべてを見捨ててただ走る。だけど。
「そこのバイク!いますぐに止まってもらおうか!」
拡声器で響き渡る男の声。聞いたことがある。いつかのループで俺のことを撃った男の声だ。俺たちの上空をヘリが飛んでいた。同時に随伴する大きな飛行機も数台見えた。
「誰が止まるか!くそ!」
俺はさらに速度を上げる。怪人を避けつつ怪獣の足の間をぬって奴らを振り切ろうとする。
「まったく!手荒なことをさせるな!出動しろ!」
その声と共に俺たちを追っていた飛行機の後ろの扉が開く。そして中から続々と二階建ての家ほどの高さのロボットが何台も降ってきた。
「人型兵器?!まだ実用化はされてないんじゃ?!」
ニュースでは次世代の兵器として報道されていたけど、まだ試験運用中だと聞いていた。でもどう考えてもその動きは滑らかでこなれているように見えた。人型兵器は俺たちを後ろから走って追いかけてくる。あっという間に隣に並ばれた。そしてその手が伸びてくる。
「舐めんおら!!」
俺はハンドルをきって、近くのがれきに乗っかってジャンプする。それで伸びてきたロボットの手を躱した。そしてすぐに道路ではなく狭い路地裏に入ってロボットたちが追えないようにする。だけど。
「次寿!だめ!!!!」
百合羽が俺の握るブレーキを思い切り握った。その拍子にバイクは勢い余って宙に舞う。なんでこんなことをしたのか理解できなかった。俺と百合羽は宙に投げ出された。だけど地面を見ると小さな子供が路地裏にしゃがんで泣いているのが見えた。ああ。百合羽は本当に優しいんだな。そのことにどこか嬉しさを感じる自分がいた。百合羽は路地裏のビルの上にいたロボットの手が優しくキャッチした。どうやら無事のようだ。だけど俺はそのままビルの壁面に体を思い切り打ちつけられて即死した。
2024年7月7日(12回目)
俺はすぐにRTAして百合羽を拾って避難所に入る。そして配給を受け取って山の方へとバイクを走らせた。もちろん例によってロボット共のが襲ってきた。バイクは小回りが利くからある程度は回避できた。だけど奴らの追撃の手は全く緩まない。
「聖野百合羽を引き渡せ!そうすれば安全は保障する!」
「そんなもん誰が信じるかよぉ!」
俺はバイクをひたすら走らせる。だけど結局ロボットにバイクごと掴まれる。百合羽は丁重に握られたが俺は違う。ロボットは俺のことを容赦なく握りつぶし、俺は死んだ。
2024年7月7日(13回目)
何度目のRTAなのかわからないけど無事に避難所に辿り着いた。配給を受け取ってリュックに詰めながら考える。奴らをどうやったら撒けるのかを。俺は自衛隊の仮設の武器庫に侵入する。そして89式と弾薬と替えのマガジン。それらを入れるチェストリグ。それにとある武器を手に入れてリュックに仕舞って武器庫から出た。混乱を極めている避難所内では俺の存在は透明人間みたいなもんだ。誰も泥棒したなんて気づいていない。
「次寿?!なんでライフルなんて持ってるの?!」
「必要なんだよ!これらからを生きていくためには!」
「でもおかしいよそんなの!そんな危ないものすぐに捨てて!」
「いいから黙っててくれ!」
俺は百合羽に怒鳴って黙らせバイクに乗せる。そしてバイクで避難所を出た。例によってすぐにヘリが現れた。
「すぐに聖野百合羽を引き渡せ!そうすれば命は保障しよう!」
随伴の輸送機もいっしょだ。だけど今度の俺は一味違う。俺はすぐにバイクを止めて、リュックからある武器を取り出す。
「ふっとべや!」
それはRPG。カラシニコフの次くらいには世界で人気の武器だろう。引き金を引くとロケット弾がヘリに向かって飛んでいく。そして命中してヘリは空中で爆散した。随伴の輸送機もRPGを警戒して高度を上げて俺たちから離れていく。あのヘリはやっぱり指揮官が乗っていたようだ。命令がなければロボットたちも出撃はしてこないだろうという読みは当たった。
「次寿…そんな…こんなのひどすぎるよ…」
「他にできることなんてないんだよ!俺にはさぁ!」
空になったRPGを道路に投げ捨てながらそう怒鳴る。そしてバイクを走らせる。人々を見捨てながら、怪獣も怪人も無視しながら俺たちは気がついたら田舎の山道まで辿り着いた。怪人も怪獣もここら辺にはいないようだった。
「はぁ…やっと…やっと…辿り着けた…」
俺は山道の片隅にあった屋根付きバス停にバイクを止める。そして泥が崩れるようにベンチに横になった。
「…わたしのせいなの?」
「…そんなこと考えるな」
「でも。だって!」
「考えるな何にも!何にも何にも!俺たちのせいじゃないんだよ!」
寝ころびながら怒鳴る。百合羽はびくっと体を震わせた。怖がらせるつもりなんてない。
「ごめん。でも今は精一杯なんだ」
「うん。…ごめんね…ごめんなさい…」
謝って欲しいなんて思ってなかった。強いて言えば感謝の言葉の方が欲しかった。でも俺がやったことは百合羽からすれば、きっと許せないことで。だから彼女もきっといっぱいいっぱいなんだ。彼女は体を震わせていた。ぽろぽろと涙を流している。
「こっちにきてくれ」
俺がそう言うと百合羽はとぼとぼとした足取りで近づいてきた。俺は彼女を引っ張って優しく抱きしめる。二人でベンチで抱き合うように横になる。
「あっ…次寿…」
彼女の体の震えは止まった。俺の背中に手を回してぎゅっとシャツを掴んでくる。
「俺が絶対に守るから。だから。だから」
そばにいて。それはなぜか言葉にできなかった。だって目の前でいきなりバイクが爆発したから。俺たちは爆風で吹っ飛ばされて道路の上を転がる。けがはない。だけど身体を地面に打ちつけられた痛みで体が痺れて呼吸がとまった。俺はすぐにライフルを構える。一瞬だけ見えたロケット弾の軌道。その方向に銃口を向けるとマスクに迷彩姿の兵士たちの姿が見えた。
『こんなガキどもを捕まえるなんて赤子の手をひねるようなもぐぎゃ?!』
俺は英語でしゃべるマスクの男の顔面にライフル弾を撃ち込んでやった。すぐに百合羽を抱えて林に飛び込んで走り出す。
『くそ!あのガキまともじゃねぇ!子供だと思うな!プロの兵士だと思え!』
兵士たちも俺に続いて林の中に入ってくる。百合羽を背負いながらたまに振り返ってライフルを撃つ。ボディアーマーの隙間を狙って撃ったから一人また一人と殺すことが何とかできた。
『くそ!こっちがまともに打てないことわかってやがるな!』
相手はやっぱり百合羽狙いのようだ。俺が百合羽を背負っているから撃てないようだ。そのまま命がけの鬼ごっごを続けて敵の戦力を削っていく。そして向こうの兵力が残り数人くらいになってから俺はスモーク弾を投げる。百合羽を地面に置いて俺は煙の中に突入する。ナイフを取り出して煙の中で慌てる兵士たちの首を一人また一人と切っていく。これで全員殺した。俺は敵の装備を鹵獲してから百合羽の元へと戻る。
「…継寿は…悲しくないの…」
人を殺したことを悲しいと思う暇は俺にはなかった。
「ごめん。だから俺の代わりに悲しんでやってくれ」
そう言うと百合羽はぶわっと泣き出す。俺は彼女の手を引っ張って林の中を歩く。だけどぱぁんと乾いた音が響いて俺はそのまま真正面に倒れてしまう。俺を揺さぶって泣く百合羽の顔が見えた。そしてスナイパーライフルを持った黒服の男が視界に現れて百合羽の手を引っ張り上げるのが見えた。
「男として君のことは尊敬するよ。すまないね」
「継寿!継寿!いやぁ!いやぁあああああ!!」
爆散したヘリに乗っていたはずの男はどうやら無事だったらしい。俺はそのまま百合羽が連れされていくところを見ながら息絶えた。
2024年7月7日(14回目)
RTAして山に逃げ込んで。今度はバイクのママ山の中を走った。暗殺部隊は振り切れたけどやっぱりどこからかの狙撃で撃たれて俺は死んだ。
2024年7月7日(15回目)
RTAして山までやってきた。バイクを捨てて山の中に逃げ込む。暗殺部隊は返り討ちにしてやったけど、やっぱり狙撃されて死んだ。
2024年7月7日(16回目)
RTAして山までやってきて今度は山道をずっとバイクで走り続けた。だけど今度もまたロボットたちが降下してきて追いかけられた。すぐにバイクを捨てて林に逃げ込んだがそこには罠があった。潜んでいた暗殺部隊に襲われて何人かは返り討ちにしてやったけど、抑えつけられて制圧されて射殺された。
2024年7月7日(17回目)
RTAして山までやってきた。山道を奔っているとロボットたちが降下してきて俺たちを追いまわしてきた。予備のRPGをロボットの一機にぶち込んでやった。そして百合羽を背負いながらロボットの体をよじ登りコックピットブロックの緊急ハッチをこじ開けて中のパイロットを射殺してロボット兵器を奪った。だけど慣れない操作感のせいですぐに制圧されてあえなく百合羽と引き離されて俺は仲間を殺されて復讐に燃えるロボット太刀に踏みつぶされて死んだ。
2024年7月7日(18回目)
RTAして山までやってきた。今度はギリースーツも武器庫から盗んできて本格的な交戦に備えた。百合羽を気絶させて木々の間に隠して、俺は暗殺部隊相手にゲリラ戦に持ち込んだ。そして何とか敵のスナイプポイントまで突き止めたが、ダメ押しで相手が林の中に降下させてきたロボット兵器のライフルで木っ端みじんにされて死んだ。
2024年7月7日(19回目)
RTAして山に入ってゲリラ戦を行った。暗殺部隊は綺麗に片づけてスナイプポイントに逆に射撃を行ってスナイパーの黒服の男に重傷を負わせることに成功した。俺は黒服の男を捕らえて尋問する。
「なんで俺たちを追いかけまわす!言え!」
「君たちではない。聖野百合羽だけだよ」
「それこそおかしいだろ!なんで普通の女の子をプロの戦闘屋どもが血眼になるんだよ!」
「くくく。君は幼馴染なのだろうが彼女のことを何も知りはしない。彼女は女神だ。この世界を救済する要」
「いみわかんねーよ!死にたいのか!」
俺は男の口に向かって思い切りケリをぶち込む。男の歯が何本も抜けたり折れたりした。
「私とておかしいとは思っている。女の子を女神だのと崇め奉るなど男のすることではない。だがそう考えずにロマンに身を捧げて生きている夢想家たちがこの世界に入るんだ。私たちはその夢想家たちの走狗に過ぎない」
「じゃあそいつらはどこにいる?」
「夢想家どもを殺しに行くつもりか?くくく。終末の日を迎えた世界でそんなことを使用だなんてそれは面白い。だが無理だよ。彼らはもう死んでいる。計画だけが遺されたのだ」
「どんな計画なんだよ。ぶっ潰してやる」
「女神に慈悲を乞い、この終末の日を乗り越えるのだ。父なる神の法ではなく、母なる女神の愛で人は救済に至る」
「だから具体的な内容を聞いてんだよ!ポエムなんて聞いてない!」
「わたしが世界を救うって本当なんですか?」
気絶させて隠しておいた百合羽がいつの間にか俺たちの傍までやってきていた。話を聞いていたらしい。
「そんな妄想に耳を貸すな!」
「でもこんなことをしてくる人たちがうそなんてつくわけないよ!終末の日ってあの怪獣とか怪人のことでしょ!わたしになんとかできるならわたしは!」
「しなくていい!どうせそんなのろくなことにならない!」
「やってみなきゃわかんないよ!」
「やらなくたってわかることはあるんだよ!」
俺と百合羽は激しく言い合った。俺はこいつらのことなんてかけらも信じちゃいない。だけどさんざん悲惨なものを見てきた百合羽には響くものがあるようだ。
「そうです女神様。共に生きましょう。そんな蛮人などほうっておいて」
ぱぁんと銃声が響いた。俺はその場に倒れ込む。視界に黒服の女が見えた。うかつだった。まだ伏兵がいただなんて。
「王子でないものは女神の傍にいてはならない。せめて騎士ならばとも思いますが、このように血生臭い男など女神にはふさわしくない」
「いやぁああああああああああああああああああああああ!!ああああ!ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
百合羽の悲鳴が聞こえる。俺の意識は遠のいていく。そしてまた俺は死ぬ。
2024年7月7日(20回目)
RTAしてとりあえず避難所に逃げ込んだ。だけどどうすればいいのだろうか。どこまで逃げても影はつき纏ってくる。俺は疲れていた。体の疲れはループのたびにリセットされるが心の方はどうしても辛かった。自分の無力を呪う。
/*ならば身を委ねなさい。王子にも騎士にもなれぬあなたこそ…*/
/*暴君にふさわしい*/
****作者のひとり言****
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