インナーシャツはアイビーグリーン

地崎守 晶 

インナーシャツはアイビーグリーン

「あっちーな、早くエアコンつかねーかな」

「なー、職員室だけ冷えてんのはぜってーずるだよな」


 7月上旬、暑さは災害だとかアナウンサーが叫んでる、灼熱の教室の朝。

 長月の奴、下敷きで扇ぎながら片手でカッターシャツのボタンを全部外して前をはだけやがった。

 

 とんだ目の毒だ。

 目を反らそうとして、その妙なインナーの色が焼き付いた。

 やけに灰色がかった深緑。見たことがない色だ。 その脇と胸元を、染みた汗がどす黒く侵している。ぴったり貼りつき、薄い大胸筋が手に取るように。

 ごくり、と喉仏が上下して、我に帰る。


「お前、女子がくる前に閉じろよな。風紀の飯島がうるせえぞ」

「わーってるって」


 ウィンクが出来ないから両目を閉じてへらへらする長月に、ため息。

 授業中、長月の背中に目が吸い寄せられてしまう。見慣れない緑色が白を透かしていた。



 部活帰り、一人でこっそりイオンにいた。山積みのインナーシャツをひっくり返す。拍子抜けするほどあっさり見つかる。あの妙な緑。

 タグを見て、その色の名前をようやく知る。

 次の朝、制服の下に買ったばかりのそれを着た。

 アイツの着けていた色の名前を、口の中で転がす。

 通学路が、いつもよりドキドキした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

インナーシャツはアイビーグリーン 地崎守 晶  @kararu11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ