召喚されて棄てられた

いぎたないみらい

レベル≠スキル

『あなたはもう、必要ありません』



ドチュッッッ



ーーーー……は?



「がっ、ゴフッッ…!」



彼女の腹に、何かが貫通していた。


『レベルが低い上に、救世主一行の行動を滞らせる者は、処分対象になります。なのでそう睨まないで下さい。怖いですわ』







ーーーーー…………は?







おれたちは普通に授業を受けていた。

それだけだった。

突然、なにか音がして、どこもかしこも白くなって、気づいたら、目の前に女神と名乗る女がいた。


これだけでも驚くほど「は??」なんだが。


その女が言うには、おれたちに自分の世界を助けてもらうために、自分の世界に喚んだのだとか。


いや、自分ちのことは自分でどうにかしろよ。アンタ女神なんだろが。


クラスメイトは全員、興奮していた。


いや。わかる。わかるよ?諸君。

つまり今のおれらは、異世界に召喚されて。これから異世界の勇者として生きる " 選ばれた者 " ということだ。

興奮するのもムリはない。


だがな?冷静に考えてみてくれ。


物語で描かれる異世界は大抵、おれらの世界より文明レベルが低い。

つまりおれらは、不自由な生活を強いられるんだぞ?


その上、こいつが言った " 助けてくれ " というのは、『蔓延したモンスターや魔王、悪魔などを倒してくれ』という意味だった。

つまり、おれ達は異世界に興奮して舞い上がった兵士として、モンスターやらなんやらと戦い、自分ちのために死んでくれ、ということだ。


わかってんのか?わかって無さそうだな。わかってないなぁ。馬鹿なんだなぁ。


そうこう考えている内に、異世界について説明され、レベル測定というものが始まっていた。


女の世界では、強さがレベルとして表され、そのレベルに応じて、スキルが割り振られるらしい。


多くの生徒が高いらしいレベルのA~Sっぽい。そして今のところ、最低ランクがC。それ以上のランクなら一応、問題はないそうだ。


因みにそのCランクは、学級委員長の女子1人。いつもクラスを纏める立場なだけに周りからの視線が変わっているような、いないような。


まあどーでもいー。おれにゃカンケーない。


おれの番が来た。


『貴方のレベルは、……………………ハァ。次の方どうぞ』


あれ。反応が悪い。インチョーの方がまだよかったぞ。………ってぇことは、おれ、Cランク以下の可能性が高い…………?


そっ…れぇはぁ………うーん………。

ビミョー、としか言えねー……。


とりあえず、ステータスを見てみる。


あ。ここで見れるじゃんランク。へー……。 えっ?Hとかあんの?えっ?うそやん?確実に最低ランクやんけ。驚きすぎてエセ関西弁になっちったよ。


じゃあ、スキルも期待出来ねーな。


ーースキル [ 創造 ] 使用不可ーー


期待どころじゃなかった。


唯一のスキルが使用不可て…。泣ける…。


なんてしていると、女神が話し始めた。

どうやらこれから、王城だか神殿だかに送られるらしい。


『それからあなた。Hランクの虫ケラさんには、" 不浄土の迷宮 " に行ってもらいます。あ、これは決定事項なので、拒否権はありませんから』


…えええぇぇぇーーーーー。

おれの人生ハードモード決定ーー……。


「あのぉ、そこって~…」

『未だ誰1人として攻略したことの無い、高難易度の迷宮です。救世主の皆様の足を引っ張る存在とされる者は、そちらで処分する決まりになっているんです。なので恨まないで下さいね♡』


恨まないで下さいね♡じゃあないだろ。

すごいなこの女神。メンタル強度が神かよ。


「あの!」


声を大にしてあげたのは、インチョーちゃんだった。


インチョーは反対した。おれの処分に。


女神が何を言っても、周りの奴らが何を言っても、断固反対した。


粘り続けた。


そうして、彼女は殺されかけているのだ。



ーーーーーふざけるな。


ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなっっっ!!!

なんで彼女が死ななければならないんだっ!なんでアイツらは見てるだけなんだっ!なんで笑ってやがるっ!!


うつ伏せに倒れたインチョーに駆け寄り、仰向けにする。


なんでっ………!



なんでおれじゃなくて彼女なんだっっ!!




なんでおれを殺さなかったんだっっ!!!




おれがっ…!!




おれが彼女を助けれたらっっ!!!!




ーーーースキル保持者の強力な " 欲望 " を感知しました。


ーーーースキル [ 創造 ] の一部権限が解放されました。


ーーーー権限の解放に基づき、液体の創造が可能となりました。



「ーーーーーーーっ聖水!」


彼女の傷口に水のようなものがかかった。

血が流れなくなった。止血の効果があったんだろう。

でもまだ、傷は塞がれてない………っ!


「ポーションッ!ハイポーションッ!」


傷が少し塞がれた。

まだ必要だ。足りない!


「エリクサーッ!」


この世界では知らんが、おれの中で一番いい回復、っつーか蘇生アイテムのはずっ!!



ーーーースキル [ 錬金術 ] を取得しました。



え。

そーゆーカンジ?スキルってこうやって手に入れんの?てか後付けされんの?


とかなんとか思っている内に、彼女の体が淡く発光する。


そして静かに、彼女が目を開いた。


「…………っ……?わた…し………」

「インチョー……!おれのせいで、っごめん!!痛いとこはない??」

「…澤原さん?助けてくれたの?……ありがとう」


インチョーが体を起こす。


流石『メデューサ』のあだ名を持つインチョー。儚げな笑顔が眩しいぜ。


こうなると、ますますインチョーを放って置けなくなる。


「なあ、女神サマ。インチョーもおれとおんなじ、" 処分対象 " なんだろ?だったらさ、おれと一緒にその『不浄土の迷宮』ってとこに追放してくれよ」

『………あらまぁ…』

「……はぁ!?」

「あぁいや。インチョーが『もうここで死にたい』ってんなら、置いてくけど」

「なっ、…………………っ!澤原さんについてく!17で死ぬとかやだし」


インチョーの選択に、女神は神々しくも美しくもあるどこか仄黒い笑みを浮かべた。


『……そうですか。では、お二方とも " 不浄土の迷宮 " へ行く、ということでよろしいですか?』

「はい」「おー」

『受理いたしました。それではお二方?』


足元に穴が空く。


「「は??」」

『行ってらっしゃいませーーー♡』


「はあ"あ"ああぁ"ぁ"ぁぁぁ!!!???」

「いやあああ"あ"ぁ"ぁぁぁぁ!!!???」


あんのクソ女神!!落としやがった!!死ぬに決まってんじゃねーかこんなんっっ!!!ふっざけんなっっっ"!!!


辺りが暗くなる。

それから数分後、尻に衝撃が走る。


ドタタッッッ!!!


「「いっっったっっっ!!!?」」


これはっ…。流石に痛すぎるっっ…!


「っっハイポーション!!」

「っきゃぁ!?」


おれ達の体に液体がぶっかかる。

うえーー……。ビショたれ……。


「なっ!何何何何!??」


あ。ビックリさせちゃったか。


「ごめん、インチョー。お尻まだ痛い?」

「……え?…いや、あれ?痛くない……」


よかった。


「これもしかして、澤原さんの仕業?」

「そ。おれのスキル、なんらかの液体を生み出すやつなんだよ」

「へー…」

「インチョーのスキルは?何?」

「私のは [ 武器召喚 ] ってやつだけど…」


と言いながら、実演して見せた。

彼女の足元に魔法陣らしきものが浮き出て、そこから生えるように、にゅっと剣が出てくる。


「ほーん」

「何よ、その反応。自分から聞いておいて」

「いや…。想像通りの演出だなぁって」


インチョーが顔をしかめる。


「私も聞きたいんだけど。澤原さんて一人称『おれ』なの?」

「ん?………うーーん。その前にさあ」


インチョーの後ろを指差す。インチョーがそっちの方向を向く。そして叫ぶ。


「ニギャアアアァァァァ!!!?」

「アレ、モンスターだよね。どーする?」

「しっ、知らないわよぉ!!」


向こう側からモンスターの大群が走ってくる。


あっ、これテラヤバス。


インチョーがぶんぶんと、がむしゃらに剣を振り回す。モンスターには当たっていないが、牽制くらいにはなってるっぽい。

おれはインチョーの後ろに隠れる。


「ね、ねえ!これどーすんの!?」


いやマジどうしよう。


このままここで死亡エンドなんてワロエナイ。インチョー助けてその後すぐ死ぬとか、有り得ないんですケド?カッコつかねーんだが?


武器はインチョーのスキルで出せるけど、今インチョーにそんな余裕なんか無い。


おれのスキルは液体の創造だけ。液体をぶっかけたところで、なんにもならない。


……いや、[ 創造 ] は多分、おれの " 想像 " 次第だ。



……………もしかしたら。



「ーーウォーターランス」



ドッ……



ゴオオォォォ!!!




想像以上の勢いに後ろへ倒れてしまう。


「うわっっ!?」

「だ、大丈夫!?」


前方にいたモンスターは大体が吹っ飛ばされたが、体格のいいヤツや蛇みたいなヤツとかは残ってる。しかも、モンスター達の後ろから新しく数十体、モンスターがやって来る。


いや数多いなっっ!!!?


「っ~~~~水刃!」


咄嗟に某漫画の技を叫んでしまった。

でもまあ、一気に片付けられたのでよしとする。


ーーーースキル [ 水魔法 ] を取得しました。


あ、それもスキルなんだ。


よっく分かんねーなぁ。

取り敢えず、スキル把握して~ぇ。


「そーゆーの出来るなら、さっさとやってよ……」


インチョーにため息をつかれた。心外。


「いや。スキルの把握してないからわかんないじゃん。何が出来るのか」

「まあ、確かに……」

「てなワケで。モーニングスターって分かる?」

「……モーニングスター?」

「棒の先っちょにトゲトゲの鉄球が鎖で繋がってるヤツ」

「…あぁ!……アレってそんなコジャレた字面なのね」


「ちょっと待って」と言い、モーニングスターを出す。へー、いけるんだ。

剣と同じように、足元に魔方陣が浮かび、ニュッと出てきた。インチョーがそれを持つ。


「重っっっ!!?」


そりゃそーだ。鉄球ついてんだもん。

当然、持ち上がらない。


「ぇ~……武器にかけるとそれを持った人間がそれの重さを感じなくな~る魔法薬」


バシャッ


「…ど?」


インチョーがモーニングスターを持ち上げる。


「ぅわっ!……え、やば…」

「貸して~。…わぁ。重さを全く感じなー

い☆」

「でしょ!?ほんとにここって、異世界なのね………」


これでおれ達はやっと実感した。

ここは知らない世界で、誰も助けが来ないことを。

ここで生き残るには、知恵と力と技術が必要不可欠だと。



「このモンスターの死体、どうすればいいの……。ねぇ、どうすればいいと思う?」

「う~ん………」

「処理も出来ないし」


この先どーすっかなー。女神が『冒険者ギルド』はあるっつってたし、取り敢えずそこ目指すかなぁ。


「血の匂いでモンスターが寄ってきたりしないよね………?」


まずはこっから出ないと。出口どこだよ。

まあ、ダンジョンっぽいし、ダンジョンといえば地下だし。上がってみるかー。


「ねぇ、澤原さん?おーい」


あ……。食料あるかな…。最悪モンスター食うか……、いや火ねぇし。危ねぇわ。


「澤原さん?ねーぇ!」


あーもーダメだこれ。オワタ/(^o^)\ 。

どーすっぺ。


「ちょっと!聞いてる!?」

「ん?あぁ、えっと…。……インチョーって名前なんだっけ?」

「……………………っはああぁぁ!!!!?ふざけてんの!?」

「ゴメンゴメン。…………………テヘッ♡」

「……………………………」

「ちょちょちょっ!!無言で剣を振りかざさないで!!?」


こうして、おれとインチョー………改め、

澤原 さわはら ほのか

山岸 鹿綿やまぎし かわたという、

最高に相性が悪い女子2人の、異世界サバイバルが始まった。

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