第7話 たこ焼き

途中、喉が渇いたということで、皆でラムネを買い、喉を潤している。


「翔、知ってるなりか? このラムネの瓶に入っているガラス玉っなんていうえ?」 


 唐突に茉琳が翔に質問を投げかけてきた。


「ビー玉だろ」

「ブゥー! 違うシー」


 茉琳様がしたり顔で宣う。


「瓶の中に入っているのはA玉なり。栓として使えないものがビー玉え、駄菓子屋で

配られたなしな」

「へぇー」


 そんな、雑学を披露している茉琳の小鼻か震えた。


「このソースを作り出す野菜とトマトとバターの 一緒くたになった、うっとりするような匂いは?」


 またしても、香りに釣られて、茉琳は、フラフラと屋台に引き寄せられていった。そこには………

 鉄板プレートに並んでいる穴を一つ一つにタコ坊主で油を馴染まていく。適温になったところで、水多めで出汁と長芋がを入れられた生地を一気に流し込めむ。そして一つ一つの穴にタコを入れていく。その上に紅生姜、小口ネギ、天かすの順に生地の上に散らしていく。

 千枚通しで穴の間に溝を作って溢れた生地を穴に入れる。焼けて来たところで斜め千枚通しを差し込み縁をくるりと回しながらひっくり返す。そこではみ出た端を穴に押し込んでいく。

 千枚通しで回転させながら形を整えつつ焼き上げていく。出来上がりをふなざらにのせてソースを塗り削り節、青のりを乗せ鰹節が熱で踊っているところへマヨネーズをトッピングして出来上がる。

 一連な仕事が手慣れた仕草でありながら熟練の技を魅せていく。


「おっちゃん。うまいなぁ。綺麗に捌きよる。ほなら早速やけど、よっつ、クださいな」


 店主は、それを聞いて、プレートの穴入っている出来立てのものを横から千枚通しで串刺しにして舟皿にのせていく。それが包装紙で包まれるという時に、


「おっちゃん。ひとつは包まんどき、すぐ食べるさかいに」


 茉琳は出し抜けに頼んだ。


「あいよ。すぐ食べますか?」

「モチッ! のロンよ。焼きたての、ホクホクとろとろが、タまらん」


 爛々と目を輝かせて、店主が持つ舟皿一杯に盛られた、たこ焼きに熱い熱視線を送る。


「はい、お待ちぃな」


 茉琳は差し出された、ソースとマヨネーズと鰹節の香りが溢れ出した、たこ焼きに目が釘付けになっている。そのうち、


  ごくり


 と喉が嚥下した。食べたいという欲求が溢れ出す。


『翔、すぐ食べよう。私、すぐ食べたい』

「そうなり、翔、たこ焼きは熱いうちに食べてこそ、美味しいなし」


 彼女の同じ口から異なる雄叫びが上がる。


「でもなぁ、茉琳、りんこ飴がまだ途中でしょ。まだ、食べろきれてないよ。どうするの」

 

 でも、翔の現実的な指摘に絶句する。

 しかし、諦め切れないのか、茉琳は右手で握りしめる真っ赤な飴が残る齧り掛けのりんご飴とマヨネーズと青のりー削り節がトッピングされた黄金色のたこ焼きを交互に見て、


   ぐぬぅ


 悩み悶えている。そして一度目を瞑り、すぐさま見開くと………

 茉琳は口の周りが赤く染まっていくのを構わずに物凄い勢いで甘い飴を舐め取っていく。中のりんごが現れるそと唇を裂けよの とばかりに大きくて口を開け、


   しゃくしゃく


 と齧っていく。

  でも茉琳の胃にも限界があるようで、限界、もう、入らないとなって口が止まる。ところが、


「翔、お願い。後、後、後とをおねがい。残りを食べて」


 と、翔にいきなり声をかけると食べかけの林檎を彼の口に押し込んでいく。


   ウグゥ


 翔は林檎に口を塞がれて喉を詰まらせられて言葉も出ずに目を白黒させている。


 茉琳は、翔が慌てふためいているうちに、手に持っていた舟皿から爪楊枝を取り出すと、大ぶりのたこ焼きに突き刺して口元に運び、そのまま咥え込んだ。


   ほふほふほふ 


 たこ焼きの熱さを息を吐いて冷ましていく。


「うわっ、このふわふわでとろとろがいいねんな。変な具が入ってへんのが素晴らしいんや。あのおっちゃん、たこ焼きつうのを分かっとる、通やねな」


 なんて、感心しきり。

 うんうんと唸りながら、更にたこ焼きに爪楊枝を突き刺して、口の中に放り込む。そして熱いはずなのにもぐもぐと咀嚼した。


「タコもブリップリっの歯応えがあって、ええやねん」


 そして、ごっくんと食べ切ると、茉琳は、タコの生きの良さに感動して嬉しそうに話してくる。


「いい仕事しよる。見事なもんや。おおきにな」


 そして余程、満足な出来だったのだろう。店主に、思いっきりの笑顔を送り、露天を離れていく。

 翔は、置いていかれまいと、慌てて彼女を追う、あきホンやゲンキチもその後を追って通りを進んで行った。そのまま茉琳は、ひとつ、また、ひとつと、たこ焼きを口に放りながら、並んでいる屋台を冷やかしに廻る。


一通り、並んだ屋台も見終わり、通りを抜けると、そこは交差点になっていた。周りは、茉琳達より若い子達が屯している。手に手に屋台で買い込んだ戦利品を持って、笑い、喋り賑やかにしていた。 


「流石に歩き疲れたなりね。どこかで座って休みたいなりよ」


 屋台を見て廻った茉琳は、疲れが出たようで、休めるところがないか、辺りを見渡している。

 辻の一角に三角錐のモニュメントがあって大きい丸い壁時計が埋め込まれている。台座の石囲いが座れるような高さにあり、結構な人数が休憩のために座っていた。


「翔、あそこなら座れるなり。早く休みたいしー。早く行くえ」


 茉琳はたこ焼きが入った舟皿を手で持ったまま、スタスタと通りを横切り、モニュメントのところまで行ってしまう。

 丁度、茉琳の前にいたカップルが立ち上がって2人が座れるスペースができた。ちゃっかり茉琳は座る。たこ焼きの入った袋を隣に置いて翔が座る場所を確保。


「茉琳! さっさと、ひとりで行っちゃうなんて危ないでしょ。転んだら、どうするの」


 追いかけてきた翔にお小言を早速もらうのだけれど、茉琳は翔が自分を心配していってくれているのがわかってしまうから胸がほっこりしてしまう。頬張った大好きなたこ焼きよりも熱くなってしまう。


「何、笑ってるの」

「えっ! ウチ笑ってるのなりか?」


 茉琳は、翔に言われて初めて自分が知らず知らずに笑っていることに気づかされた。彼女は自分の胸に手をそっと当てて、そこに宿った暖かさを実感する。頬が緩み、嬉しさに感極まって目が潤んでしまう。


「だいたい、お前が…」

「翔ぅ、あ〜ん」


 茉琳は自分の腿に置いた舟皿に残る二つのうち、一つのたこ焼きを丁度、説教をするために開いた口に差し込んでいく。


   ふがっふふ


 翔はいきなり、たこ焼きを詰め込まれて、続く言葉も立ち行かなくなってしまう。


   ウガウガ


 茉琳は、横に置いていた、たこ焼きの包みをどかして、ボンボンと叩いて、翔に座るように催促する。


「とにかく、ここに座ってなし」


 ワガッアオ


 唇がたこ焼きが塞がっている状態で答えて、翔は不承不承ながら石囲いに腰を下ろす。そして唇を器用に動かして、全てを咥え込むと口をモグモグさせていく。


「確かに、タコのブリットした感じいいねえ。噛むと旨味? が出てくるよ」

「でしょ」

「中はクリーミーで、外だって柔らかくてボリューミーだ。たこ焼きじゃないみたいだ。うまいよ」

「そうなり」

「流石、茉琳のお勧めだね」


 翔はは茉琳に満足そうな笑顔を向けていく。


   キュン


 茉琳は自分の胸の中がときめくのを感じた。彼の笑顔にハートを撃ち抜かれる。自分と同じことを感じてくれていると。

 彼女は、下を向くと舟皿を見る。たこ焼きの最後の一つが残されている。爪楊枝を刺して、今一度、翔の口元に近づけていく。


「翔。アーン」


 茉琳は満面の笑顔を添えてたこ焼きを彼に捧げる。


   ドクン


 翔は自分の胸の中で心臓が跳ねたのを感じる。彼女の目元を染めて、自分に向けてくる笑顔が、あまりにも可愛かったのだ。

 翔も頬を熱くした。その拍子に、たこ焼きを半分に噛み切ってしまう。

 茉琳は爪楊枝に残ったたこ焼きの残りを自分の唇につけた。


「ふふっ」


 思わず出た吐息と共に、口に入れていく。そしてゆっくりと咀嚼した。


 そんな2人を少し離れた場所からあきホンが眩しいものを見るように目を細めて見ていた。


「そこの茹で蛸みたいに顔を赤くする、お二人様」


 と、声を掛けた。

 翔も茉琳も真っ赤な顔をあきホンに向ける。


「そろそろ、私くしの実家に戻りませんこと? みんなで色々とつつきませんか。スイカも冷やしてありますの」


 あきホンは、満足気な笑顔を2人にに向けて誘う。


「みんなでスイカの種の飛ばし合いしましょう。おふたりには負けませんわ」


「スイカ! なら、わたし食べたい」


 あきホンに誘われて、それまでの雰囲気をあっちに飛ばして茉琳はぴょんと立ち上がる。


「種を飛ばすのだってやってみたいしー。初めてなりよ」


 と、誘われて喜んでいる。


「さあ、翔。帰るなし。スイカが待ってるなりな」


 茉琳は、未だ座っている彼の手を握り、引っ張り上げてる。


「やっぱり、食いしん坊じゃないか。食べ物に釣られて」

「スイカは別腹だよ。ほとんど水じゃないの」


 食いしん坊と言われたのが恥ずかしいのか。茉琳は言い返す。


「翔は種飛ばしやったことあるなりか? どこまで飛ばしたなしー」


 しかし、みんなで遊ぶのがよほど楽しいのか。期待に目を輝かせて翔に聞いている。


「おれ、やった時ないなあ。『意地汚いことするんじゃありません』って親に言われてやったことないよ」

「じゃあ、翔も初めてだね。ウチもそやから頑張ってやるなし。負けへんでえっ」


 そう言って、翔の手をぐいぐい引っ張っていく。


「もう、そんなに引っ張らないの。急いだってしょうがないよ。あきホンさんの家は逃げないよう」

「言ってろなシー」


 言いながらも2人はあきホンの実家へ足を進めていく。

 翔は気づいているのだろうか。女性恐怖症のトラウマで過呼吸になってしまう障害があるというのに茉琳に手を掴まれても症状が出ていないということに。


「あきホン、ゲンキチさんも早く来るなシー。スイカが待ってるよー。ウチ種飛ばし頑張るなりー」


 茉琳は振り返り、後ろについてきている2人に手をオーバーに振って催促する。


「置いていくなりよー」


 そして、翔に振り向くと、笑顔を添えて誘う。


「行こ!」


 そして2人は並んで歩いていく。その手は、いつのまにか組まれていた。それは恋人繋ぎと言われている。

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