七瀬雹の本棚(読んだ本の感想)
七瀬雹
【怪談】第七脳釘怪談(朱雀門出)の感想
本の題名「
著者(
出版社(竹書房怪談文庫)
ジャンル(怪談)
定価(680円+税)
〇 あらすじ 〇
44編の怪談が詰まった本。
〇 感想 〇
第1話目の「チョキとグーでヤミクラさん」から、すでに怖かった。破壊力のある怪談だった。
語り手である「奥さん」が、妹の家で観てはいけないビデオを観たことで、怪異に巻き込まれる。それ自体はよくある怪談やホラーの鉄板展開かもしれない。
しかしこの「チョキとグーでヤミクラさん」は、王道の上を行く不気味さがあった。
客に
怪異が何食わぬ顔で、観てはいけなかったビデオに関連することを質問してくるシーンは、本当に恐怖心を掻き立てた。
もし、ヤミクラさんの話題を受け流さなかったら、語り手はどうなっていたのだろうか。
また、他にも興味深いという意味で面白い話や、考えるとゾッとする話がいくつもあった。
第2話の「靴づくし」で出てくる靴の刺身や、靴の紐や靴の底を使った不気味な料理。怪異が振舞ったそれを、美味しい美味しいといって食べたという語り手は、ひたすらに不気味だった。
また、第26話の「喉切り箱」では、駄菓子屋の店主のお爺さんが駄菓子を盗もうとする子供たちへ残酷すぎるトラップを仕掛ける。
そして、その後、主人公の記憶は周囲の人々の記憶と異なるものになり、店主は奇妙な行動を取る……。この話は、結局どういうことだったか謎解きがなされないままに終わる。
それはホラー・怪談ジャンル特有の終わり方かもしれない。
ミステリならば犯人もトリックも分からないで終わると、次回からその作者の本はもう買わないと思う。ドラマならもう観ない。
だがホラー・怪談ジャンルではこれが許されるのだ。いや、むしろ、よく見かける。謎解きをしないことにより、物語に言いようのない後味の悪い不気味な読後感が生まれるような気がする。話も身近に起きそうな感じがして、怖さが簡単に増すような気もする。
自分の中で「この話はこういうことだったのでは……?」と自分なりの怪談への解釈が生まれる。それも楽しい瞬間なのかもしれないなと感じた。
怖ければなんでもアリな、怪談ジャンルの自由さが私は好きだ。
けれど、私はごりごりに理詰めで謎解きをする怪談の本やホラーも楽しく読める気がするので、そういうのもいつか見てみたい気はする。
科学の力でホラー・怪談ジャンルを解明するような、ホラーを解剖していくシリーズとかあったら読みたい。
また、第35話の「怖い卵を産む」も、後ろからついてくる小さな女の子というのが、不気味だなと感じた。
人間は、マッチョで元アメリカ合衆国の陸軍勤めの元プロボクサーのムキムキ格闘派幽霊にはまったく怖がらないくせに、こどもとか、真っ赤なドレスを着た髪の長い華奢な女性とか、線の細い不気味で顔色の悪い言動が奇妙な男性には怖がるのが、なんだか不思議な気もしつつ。
(現実的には肉弾戦のプロのほうが強そう=殺傷能力が高い=怖いとなりそうなのに、そうはならないのが人間という生き物の不合理さと魅力を現していると思う)
とにかく、この第七脳釘怪談は、カレーで例えると辛口と中辛の間かなと思う。話によって緩急が付いていて、そこも良かったのかなと思う。いつまた凄く怖い話になるのかなとドキドキしながら読んだ。
期待を裏切らない、しっかりと読んでいて不気味な話だった。興味深い怪談が詰まっていた。面白かった。
(朱雀門出さんの作品は、首ざぶとんを持っていた気がするので、そちらも生きているうちには読みたい)
七瀬雹の本棚(読んだ本の感想) 七瀬雹 @nanasehyou
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