第一世紀(0~99)デルフォイ朝フェンディル王國(10~127)の榮光 "鍛鐵大王"グラディウス

 "千年紀"の第一世紀(0~99)で採りあげるべき事𧰼じしょうはやはり、デルフォイ朝フェンディル王國(10~127)の北テラスティア【現今こと帝國曆300年代の地理區分で言えば"ザルツ"全域、 舊"ファルサロス州(リーンシェンク)" "ムーラ川以北"】における霸權はけんの確立であろう。

 最後のノーブルエルフことクラリス=ファルネーゼと幾人の英雄たちの活躍により、テラスティア大陸における魔法王の恣意的支配しいてきしはいと魔神・不死者の跋扈ばっこに終止符が刻まれ、神聖魔法を除く魔法がほぼすべて封印された。

 かくして起きたのが支配者層の劇的な交代である。强大な魔力を背景に衆庶たみ抑壓的よくあつてきな支配を敷いていた者たちがその力の根據こんきょを徹底的に奪われたのだ。

 

 この時代ではからだの頑强さか、もしくは手工業に適した器用さ、あるいは信仰心の强さが立身出世の鍵となった。

 いかなる時代に於いても人口の大部分を占める"人間"種を除いては、以上の三條件いずれにも適正の高いドワーフにとって最も生きやすい時代であり、またデュランディル時代では不遇だったリルドラケンやソレイユにとっても榮光の摑みやすい時代であったと言えよう。

 バルバロスのなかではなんといってもトロールやケンタウロスたちが、種族の垣根を超えて傭兵として活躍するか、千年紀300~500の"戎狄來寇"時代(レーゼルドーン大陸からの大規模な種族移動)に至っては王や皇帝を自稱する者まで現れた。バジリスクは力ある者に庇護を求め、かわりに智慧を提供することで生存を圖った。もっとも、"蠻夷狄戎ばんいじゅうてき"(これはセフィリア帝國人が好んで用いる稱謂しょうい/よびかたである)の帝王將軍宰相たちで死をとこに得たものはほぼ皆無である。



 さて、"千年紀"のそのはじまりに採りあげるべきはやはり時代の象徴的人物である"鍛鐵大王"こと武王グラディウス=フェンディル=カリュブス【デュランディル曆5985年~千年紀41年 享年56 種族は人間種】であろう。


 彼は魔法文明時代最後のフェンディル王とその正后のあいだに生まれた。しかし生まれた直後に行われるマナ容量の檢査において魔法適正が全く無いことがわかり、兩親は忌み嫌い公式には流産としたうえで祕密裏のうちに殺害を命じた。

 魔法不適合者が生まれたという事實じじつは、王や后の中に缺陷けっかんのあるものを生み出す要素があるということになり敵對者てきたいしゃに恰好の口實こうじつあたえかねないため、この命令は魔法文明時代の支配者層の思考としては何ら不思議ではない。

 しかし嬰兒えいじを殺すに忍びなかった臣下が巧妙な僞裝工作を行ったことにより、フェンディルの邊境アナトリオロス東山郡【神のきざはしのある山脈の東側にあたる】において在地のドワーフ豪族【貴族として承認されていないが地方の有力者】デルフォイ家のミノス=デルフォイの息子として育てられる。

 

 グレンダール信仰に篤い養父母のもとグラディウスは、魔法が使えないことに劣等意識を抱くことなくまっすぐ育ち體格たいかく膂力りょりょくに惠まれ馬術にも長け、さらに鍛治技術と武術に深い關心かんしんを持ち、生まれつき魔法の使えない、あるいは極端に苦手、またはもともと魔法に向かない種族(※無論グラスランナーでは無い)のわかものたちと交遊した。


 魔法文明が終焉した時グラディウスはよわい十五。ちょうど成人を迎える歲であった。養父ミノス=デルフォイより出生の祕密を告げられフェンディル王國の正統な血筋を引くことを知ったグラディウスは養父母とその宗族や郎黨ろうどうとグラディウス自身の友人たちの支持のもと混亂する王國の繼承者爭いに敢然と名乘りを舉げた。


※【"王侯卿士おうこうけいし何ぞ血を要せんや"】の名言で知られる鬭爭とうそう奴隷コリントスとその叛亂やグラディウスがフェンディル再統一戰爭において相對あいたいした羣雄ぐんゆうたちについては、また別に一章を設けて詳述する。


10年の戰いを經て王都ディルクールを獲得、ここにデルフォイ朝フェンディル王國(10~127)が成立する。【※注】

 きゅうイスカイア帝國領パルサリア地方やリーゼン地方からの侵攻、レーゼルドーン大陸の海賊や蠻夷狄戎ばんぞくによる沿岸部・河川を遡行しての襲撃、さらに零落した舊貴族層が復權を目論み、封印された魔神との連絡路の再構築を試みたり、ブラグザバスやザールギアスなどの邪敎に歸依きえして叛亂を起こすなどの事件も起きたが、グラディウスは苦勞の末千年紀34年までにフェンディル王國領を一つに統合することに成功する。

 以降も41年に崩御するまで王國の統治體制の構築と産業・文化の發展に精勵した。

 

【※注 デルフォイ朝フェンディル王國の區分については01034本論に於いては一般的な認識に從うこととする。】


 妻は二人。正室はクラリス=ファルネーゼのむすめであるエルフ(名は傳わっていない)そして物心ついた時から一緒に過ごし統一戰爭にも將として活躍したシャドウの女性"慧武妃けいぶひ"ことイルミニア・ヴェンティア(シャドウ族、女性 デュランディル曆5987~千年紀35 享年47)である。

 正室とのあいだに第二代"平王"ファビウス=フェンディル(22~54)と後にセフィリアの貴族に嫁いだパトリツィア・アモリア・ファルネーゼ(20~千年紀第四紀)を、

 糟糠の妻であるシャドウのイルミニアとのあいだに創世の三劍にちなんだ名前をつけたルミエラ(12~50)イグニカ(15~67)カルディナ(16~60)の三人のむすめとグラディウスの養家であるデルフォイ家を繼承し二代王ファビウス、三代王フォルトゥヌス、四代王アウレリウスを支えた宗室の名臣として同時代からも後世からも尊敬される"成惠大公"レオン=ヘルメス=デルフォイ=ポリュマテス(25~95)が生まれた。









 

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《テラスティア史記》(修訂本)設定資料集 ※準備中 宮野あゆ @taiyakiayuayu

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