第19話 裏切り者には死を
「そう……でしたか」
翌日。薬草摘みの途中、ナナンと二人きりになったタイミングで昨夜の出来事を話した。
「わたしたちに睡眠魔法をかけて森の蛮人たちに武器を売っていたと」
「おまけにナナンやランのことを便利な駒呼びだぜ。最低な野郎だ」
「悲しいです。アンビシャスの生き残りがそんな人だったなんて」
慕っていた憧れの人物がクズだと分かったときほど辛いことはない。
可愛そうな彼女のためにも依頼はちゃんと果たそう。
「最終確認だけど、追放ってことでいいよな?」
「はい。お願いします。せめてアンビシャスの名前は綺麗なままでいてほしいですから」
依頼主の意思を確認。
ただ、これだけだとまだ追放できない。脱退申請書を通すにはパーティーの過半数の賛成が必要だ。
アンビシャスは三人パーティー。
つまりもう一人のメンバー、ランにも事情を説明して承諾してもらわないといけない。
パステラを愛している彼女が話を聞いてくれるだろうか? 不安だ。
「はあ? パステラ様が野盗に武器を横流ししている? バカなこと言わないで!」
やっぱりこうなるわな。
パステラが車に戻ったタイミングを見計らってランに事情を説明したところ、大声で怒鳴られました。
「高潔なるパステラ様が蛮族に協力するなんてありえないわ!」
「そうは言ってもこの目で確認したし……」
「うるさい! だいたい追放代行サービスってなによ! 聞いたことないわ!」
「最近立ち上げたばかりだから……」
「ナナン! あなたもバカなことをしたものね! こんな胡散臭い連中に相談するなんてありえないわ!」
「で、でも! 犯罪しているのを見過ごすのは仲間として間違えてる!」
「私は信じない! 今まで出会ってきた男の中でもっとも真摯なお方。王子様のように気高いお方。それがパステラ様。悪に手を染めるはずがない! そいつらが適当なことを言っているだけ!」
必死にパステラを守ろうとしているけど、パステラは彼女のことを都合の良いコマとしか見ていないんだよな。可哀想に。
「じゃあアイツが野盗に武器を渡す瞬間を目撃したら納得してくれるんだな?」
「ええ。もっとも、そんなことはあり得ないのだけど」
「わかった。じゃあ今夜、俺たちについてきてくれ。奴は今日も取引するらしいから」
「望むところよ! もしそこで何もなかったら、そのときは覚悟できてるんでしょうね。私のパステラ様にあらぬ疑惑をかけた罪、きっちり償ってもらうわよ!」
というわけでその日の夜、睡眠魔法を回避した俺たちは、全員でパステラの後を追った。
30分後。
昨晩と同じ場所で野盗に武器を渡すパステラの姿があった。
「ウソ……でしょ?」
大木の陰から様子をうかがっていたランは愕然としている。
「いざ目の前で見せられると辛いものがありますね」
目を背けるナナン。
「信じていたリーダー裏切られる。2人には酷なことだと思うけど、これが現実。受け入れてほしい」
「クズ男に騙されたバカ女も、これで目が覚めたんじゃないの?」
「…………」
クックの煽りも耳に入らないほど絶望しているようだ。黙ったまま、血の気の引いた顔色でパステラの背中を見つめている。
ここまでくれば現実から目を背けるわけにはいかないだろう。
盲目の恋を振り払い、パステラの追放に納得してくれるはずだ。
とはいえ現実を受け入れるのに時間が必要だろう。ランの気が済むまで待つことにした。壁のように大きな幹に背中を預け、リラックスタイム。
それが油断だった。
「いやよ……これは何かの間違い。ねえ、そうでしょ? パステラ様」
「ちょっ!」
俺やクックが目を離したすきに、ランはパステラに向かってふらふらとした足取りで歩き出していた。
マズい! 俺は慌てて引き戻そうと大木の陰から飛び出した。
直後、
パキッ
小枝を踏み折る小気味いい音が夜の森に響いた。発生源は俺の足元。
あ。
やっちゃった。
「誰だ!?」
パステラと野盗が一斉にこちらを見る。
「お前たち……!
「ど、どーも」
色男に睨みつけられたのでニヘラと苦笑いを返した。
「パステラ様! こいつらがあなたを犯罪者呼ばわりしています! ナナンも裏切り者です!」
ランが叫ぶ。
「おい! この期に及んでまだパステラの味方かよ!」
「うるさい!」
「イテッ!」
俺を突き飛ばしてパステラの傍に駆け寄ると、大木を指さして、
「入隊希望の女も隠れています。ナナンも一緒です」
これ以上隠れていても意味がない。二人も姿を見せる。
「まったく。あきれるほどの大馬鹿女ね」
「……ランさん。どうして」
パステラはナイフのように鋭い声色でナナンに尋ねる。
「お前はこいつらの正体を知っていて引き入れたのか?」
頷く少女を見る目は害虫に向けられるような侮蔑が込められていた。もう仲間と認識していないようだ。
「ふん。王国兵士か冒基かは知らないが、僕の懐に潜り込むとはいい度胸じゃないか。覚悟はできているだろうね?」
腰に差していた剣を抜くパステラ。
隣でランも魔杖を構える。
「全員始末しましょう! そうすればパステラ様は潔白のまま王都に戻れます!」
「ランの言う通りだ。目撃者は全員始末しないとね」
含みを込めた言い方。パステラの瞳は隣にいるランを捉えていた。獲物の喉元を噛みつかんとする獣のような目。
危ない。
そう思ったときにはもう遅かった。
ズシャ
ランの首が飛んだ。
「残念だが、僕の正体を知ったからには生きて返すわけにはいかない。たとえこの期に及んで恋に盲目なバカ女だとしても、ね」
血が噴き上がる。土の上に倒れたのは、魔法使いのローブを纏った首なし死体。
パステラは躊躇なくパーティーメンバーを斬り捨てた。
「ランさんっっ!!」
ナナンが悲鳴を上げる。
俺も悲鳴を上げたかったけど、喉までせり上がった胃の内容物が邪魔をして、口を押さえて青ざめることしかできなかった。
「次は君たちの番だ」
鮮血が滴る剣先を俺たちに向ける。月光を浴びる金髪の王子様は悪魔のような形相。背後で三人の野盗たちもサーベルを取り出す。
「僕は絶対に失敗できないんだ! 邪魔者は消えてもらう!」
追放代行サービス 〜スキル『嫌われ者特効』を手に入れたので、あなたのパーティーの厄介者を追放します~ 中田原ミリーチョ @kaguyaxx
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