第18話 リーダーの正体

「マヌケ社長。起きなさい」


 目を開けると、クックの顔が視界を覆っていた。


「んあ?」

「『んあ?』じゃない」

「イタタタタ!」


 頬つねられました! 寝起きのおっさんにひどすぎる仕打ち!


 もしかしてもう朝? 六時起床って言われてたけど、寝坊した?

 慌てて空を見上げると、なんだ、まだ星が瞬いているじゃないか。


「夜じゃん。それじゃあおやすみ」

「馬鹿ね」

「イタタタタタ!」


 もう! なんなんだよ!


「周りをよく見なさい」

「周り?」


 言われた通り周囲を見渡す。


 夜の森を照らす焚き火。その周りで寝袋に入っているランとナナン。


 あとは見張りのパステラが座って……、


「いない……!」


 一気に目が覚めた。


 そうだ! 思い出した!

 パステラの動向を監視しようと眠らないように気を張っていたんだ!


「なんであっさり寝ちまったんだよ俺」

「パステラの仕業よ。私たちに睡眠魔法をかけた」

「なんだって!」

「だからこれだけ大きな声で会話しているのに、ランとナナンは目を覚まさない」


 すぐそばで眠っている二人は心地いい寝息を立てて深い眠りについている。


 Bランクの冒険者だぞ。睡眠中でも警戒心は解いていないはずだ。おっさんの汚い悲鳴を聞いて無反応なのはおかしい。


「じゃあなんでクックは起きていられたんだ?」

「こういう事態を想定して、こっそり魔法防御壁を展開していたのよ」

「ははぁー。恐れ入りました。さすがSランク様」

「ふふん。もっと褒めることを許可するわ」


 すっかりご機嫌。扱いやすいや。


 とにかく。

 パステラは朝まで目を覚まさない睡眠魔法をかけて、見張り役を放棄して姿を消した。

 ナナンの悪い予感は的中したってわけだ。


「あとは野盗との取引現場を確認すれば確定する。行きましょう。見失わないように魔コウモリを追跡させているから」


 優秀!






「これは……」

「決定的な証拠、ね」


 コウモリの案内でパステラに追いついた俺たち。そのまま尾行すること30分。彼は断崖の足元にある洞穴の前で数人の人影と対面した。


 俺とクックは大木に身を隠して様子を伺う。

 遠くで鳥や魔物の鳴き声が聞こえるだけの静かな森の中。三十メートル離れていても声が届く。


「パステラさん。早かったな。さっそくだけど例のブツは?」

「もちろん。最新の弓と魔杖を5つずつだ」

「助かるぜ。あんたみてえに信頼できる闇商人なら多少の額を払ってでもお使いしてもらう価値がある」

「任せてくれ。僕は君たちの味方だからね」


 味方、ねえ。

 どっぷり黒じゃねえか。イカ墨が白く見えるほどの真っ黒だ。

 確定した。

 パステラは野盗に武器を横流ししている。


「それで、パーティーにはまだバレてないのか?」

「そんなヘマはしないよ。万が一、パーティーメンバーに僕の動きを察知されたとしても、あの二人は黙って見逃してくれるはずだ」

「たしかお前やアンビシャスに傾倒している盲目的な女ばかり仲間にしているんだよな」

「僕の言うことならなんでも聞いてくれる。扱いやすい駒さ」


 コイツ!

 なんて野郎だ!


「ブツはこれで終わりか?」

「いや。収納魔法に入り切らない分が車に積んである。明日、同じ時間に持ってくるよ」

「そういやここにはパーティーメンバーと一緒に来てるんだろ? こんなことしてバレないのか?」

「僕に愛されていると勘違いしている女に、アンビシャスの名前に惹かれた愚図な女。バレるわけがない。今回は入隊希望者も同行しているけど、世間知らずの女とくたびれたオッサン。大丈夫だろうね」


 くたびれたおっさん……。


 その後は雑談タイムに入ったので、俺たちは一足先にキャンプに戻って眠ることにした。


 さて、どうやってパステラを追放しようか。

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