第17話 深まる疑惑

 王都を囲う広大な森『隔ての森』にやってきたアンビシャス+追放代行サービス一行。

 日中は回復薬や魔力回復薬の原料となる薬草をひたすら集めていく。


「集めた分はどうするんだ」


 両手いっぱいに集めた細長い草を長髪の魔法使いに見せる。


「あなた異世界人ね。こんなことも知らずにアンビシャス加入体験を受けるなんて」


「これから頑張るから教えてくれ」


「この世界には亜空間に物を出し入れする収納魔法があるの。魔力量や魔法コントロール力によって収納できる量は変わるけど、冒険者ならみんな使える魔法よ」


「俺、使えないんだけど」


「しょうがないわね。私が受け取るわ」


 ランは俺の手から青い草の束を奪い取ると、三角帽子を脱いで、その中に薬草を放り投げた。

 長さ的にはみ出すはずなのに、薬草はシュルシュルと帽子に吸収された。

 便利だなあ。


「持ってもらって悪いな」


「別に構わないわ。もともと薬草の収納担当は私だし」


「収納担当?」


「言ったでしょ。収納魔法のスペースは限りがある。だから分担するの。例えばナナンは今晩のキャンプ用具担当。キャンプ用具はずっと収納しておかないといけないし、サイズがあるから、薬草を収めるスペースがないのよ。おまけに弓使いだから矢をたくさん持ち歩かないといけないしね」


 確かに弓使いにとって矢は命綱。


「で、私は薬草担当と食材担当を兼ねているわ。今日のお昼ご飯のパンも私が持ってきたのよ」


「なるほど。ご飯はキャンプ用具と違って消費するから徐々にスペースが空く。すると薬草を入れるスペースが増える。だから兼任できると」


 RPGの荷物整理術ってやつだ。

 荷物がパンパンの状態で拾いたいアイテムがあるとき、スタミナ回復の食料を使って無理やり枠を開けるもんな。そんな感じなんだろう。


「ちなみにパステラは何の担当?」


 パステラの正体を探るうえで重要な情報になり得ると考えた俺はさりげなく聞いてみた。


「パステラ様は戦闘用の消費アイテム。あとは全員分の武器の予備を持ってきてくれているわ。だからいつもパンパンなんですって」


 収納スペースがいっぱいになるほどの道具か。森の蛮族たちに最新の武器を横流しているとしたら、それなりの武器を入れておかないといけないから、辻褄があうな。


「それよりも。そろそろ日が暮れそうだし、パステラ様と合流しましょう」


 ランの提案に、俺はあたりを見渡す。


「そういえばパステラはどこに?」


 目の届く範囲にクックとナナンはいるけど、パステラはいない。途中までは一緒にいたんだけど。


「一足先にキャンプ地を確保してくれているわ。といってもいつも使う場所があるから問題ないでしょうけど」

「いつも? アンビシャスはこんなミッションを頻繁に受けているのか?」


 薬草摘みってモンスター討伐に比べたら簡単な任務だよな。

 アンビシャスのメンバーは少人数とはいえ全員Bランク以上。この手のミッションはとっくに卒業してそうだけど。


 ランは紫のネイルが美しい指を顎に当て、


「そうねえ。たしかに私たちには役不足ね。退屈しちゃうわ」


「じゃあなんで受けたんだ?」


「ミッション受注はパステラ様が管理しているの。それだけじゃないわ。会計や共有アイテムの管理もパステラ様が一任している。私やナナンが口を挟む余地はないわ」


「すべてパステラの意思ってことか」


「気分転換がしたいんじゃないのかしら? きっと森林浴が趣味なのよ。キャッ! 見目麗しいお姿にぴったりの趣味ね! もうたまらないわー!」


 体をクネクネさせて悶絶するランだが、パステラの裏の顔を疑う俺はシリアス。


 武器やアイテムの運搬担当。

 わざわざランクに見合わないミッションを受けている。しかも場所は『森の蛮族たち』がいる隔ての森。

 面倒な業務を部下に任せようとしない。


 怪しい。


 




「やっぱり自然の中でのご飯は格別だね」


 森の間隙。夜空が見える開けた空間で、俺たちはキャンプ椅子に座って焚火を囲んでいた。


 ランが持ってきた食材。ナナンが持ってきた調理器具。それらを使ってパステラが簡易的な料理を作ってくれた。モンスターの肉を使ったステーキにコンソメスープのようなもの。どれも日本で食べるものと遜色ない味付け。


 働いて寝るだけの社畜時代を思い出すと、可愛い女の子と一緒に夜空の下でキャンプ飯なんて最高過ぎる。


「さて。明日も早いし寝ようか。ナナン。寝袋は持って来たね?」

「はい」


 ナナンが虚空から全員分の寝袋を取り出す。こんなものまで収納していたのか。結構スペースあるんだな。


 全員に行きわたったところで、パステラが切り出す。


「みんなは先に寝てくれ」


「あんたは?」


 クックが尋ねる。


「僕は見張りだよ。屋外でパーティーの全員が寝るなんて冒険者見習いでもやらないよ」


「それはわかるけども」


「お嬢ちゃん。もしかして寝不足で僕の美しい肌が痛んでしまうんじゃないかと心配してくれているのかい? 大丈夫さ。スキンケアは欠かしたことがないからね。それに五時間後にランとナナンが交代してくれるから問題なし」


「どうでもいいわよ」


 キザな声色に機嫌を悪くしたクックは一足先に寝袋の中に入り込んだ。俺、ラン、ナナンも続く。


 朝から動き回ったことで体は疲れ切っている。焚火の音も睡眠導入BGMに打ってつけ。目を瞑ったらすぐに夢の世界に行けるだろう。


 でも、寝るわけにはいかないんだ。


 もしパステラが野盗に武器を渡しているなら、動くのは仲間が寝静まった夜。

 このあと絶対に怪しい動きをする。決定的な瞬間を見逃さないためにも、起きておかないとな。


「おやすみ。五時間後に会おう」


 ところが、あまりにも重い瞼を少しだけ閉じた途端、いともたやすく意識が途切れてしまいました。


 オッサンだから疲れに負けて熟睡しちゃったのかな? てへぺろ。

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