最終話 担当医
「うん、いや、わかってる。キミのプライベートにかなり踏み込む質問だけど、今回の病気を診断するにあたって、医学的に大事ことなんだ」
「べ、別に、キミが、私の前によその女とキスしてるかどうかとか、そういうことを気にしてるんじゃないからな!!」
「いや、そりゃ、全く気にならないわけじゃないけど……」
「あ、いや、そうじゃなくて、本当に診断上大事なことなんだ!! だから、答えてくれ!!」
「そうか……やっぱり初めてだったんだな……」
「これではっきりしたよ……」
「すまない……今回のキミの病気の原因は……」
「……私だ」
「順を追って説明しよう」
「まず、キミの今回の病名は“
「伝染性単核球症というのは、EBウイルス(Epstein-Bar virus)というウイルスによる感染症なんだ」
「症状は発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹、肝脾腫などで、血液検査では肝機能障害と異常な形態のリンパ球がみられる」
「そう、まさに今回のキミの状態に合致する」
「EBウイルスという名前は聞いたことがないかもしれないが、珍しいウイルスではなく、むしろほとんどの人が感染しているウイルスなんだ」
「日本では、80%の人が3歳までに感染して、成人では90%以上の人が感染し終わっているんだ」
「幼少期に感染すればほとんど症状がないか、あっても普通の風邪と区別がつかない程度のものだ」
「だが、幼少期に感染せず、成人してから感染すると、今回のような強い症状がでる。それが伝染性単核球症だ」
「そして、このEBウイルスは唾液を介して感染する……」
「15歳から30歳までの間で、初めて誰かとキスをしたあとに発症するというのが典型的なパターンで、別名……“Kissing disease”と呼ばれている」
「そう、おそらくキミはEBウイルス未感染で、この前、私とキスをしたときに私が保有しているEBウイルスがキミに伝染したんだ……」
「ちなみに潜伏期間は4~6週間。時間的にもぴったり符合する」
「そんなに落ち込まないでくれ!! 大丈夫、安心してくれ!! この病気は所見は派手だが自然に治るものなんだ。よほど重篤な合併症がない限り、安静と対症療法で治癒する」
「え、病気のことで落ち込んでるんじゃない?」
「私から
「いや、違う、違う、違う、違う、違う、違う!! 言っただろ!! 80%の人が3歳までに感染するって!! 私は幼少期に不顕性感染してたんだよ!! だから……私だって、あれがファーストキスだったんだぞ!!」
「……って、何言わせるんだよ!!」
「え? 私のせいで病気になったんだから、責任取れって?」
「なんだよ? 慰謝料でも請求しようっていうのか?」
「え? 主治医として治るまで面倒見ろって? いや、もちろん治るまで担当するよ。2か月以内には完治するから安心してくれ」
「え? 2か月じゃ足りない?」
「一生、一緒にいてくれ?」
「…………はぁぁぁぁぁぁっ!? なんだ、それ!? ステップ飛ばしすぎだろ!!私たち勢いでキスしちゃったけど、手すら繋いでないんだぞ!! てか、そもそも、その前に、こっちはキミから“好き”っていう言葉一つ聞いてないぞ!!」
「なっ……今、ここで、このタイミングで言うか!?」
「私の方はどうなんだって!? それは……その……」
「私も……キミのことが好きだ……」
「うん……」
「そうだね……」
「うん、いいよ……」
「さて……話を戻そう!! 完全に治るまで2か月近くかかるが、最初の急性期1週間くらいは入院しておいたほうがいい。それくらいの数値だったからね」
「え? 入院はいやだって? ダメだぞ。担当医の言うことは大人しく聞きたまえ」
「なにしろ、私は、これからずっとキミの担当なんだからね」
「“一生”かはまだわからないけれど……」
「“一緒”に同じ時間を過ごしていこう……」
病院受診して担当になった美人女医が実は、昔地味だった高校の同級生だった。 阿々 亜 @self-actualization
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