さよならジンセイチゃん

イタチ

じんせいちゃん

伽藍洞な倉庫に、私は一人立たされていた

辺りは、冷たい無機質なコンクリートが、私とは、全く無関係だとでも、言い張るように、そこには、たたずみ、私の孤独な、存在は、冷たい、冷房の中、その建物の中に、閉じ込められ続けていた

約束の時間まで、後五分ほど、あるだろう

機械式の腕時計は、残酷なまでに、私に、その時間を、教えてはいるが、其れの正確性について、私が、これ以上語ることは、出来ない

その時計の間違いを、正すほどに、私は、それを、信用出ていないが、しかし、それを、疑うほどに、私は、それを比べる器具も、また、其れの誤差範囲内の行動しか行わないだろう、もしmこの時計の見当たらない部屋に置いて、腕時計の時間が、間違っていたとしても、それは、私には、分からないと言う意味だ

この部屋から、出ればいいとお思いかもしれないが

しかし、もうそんな場所は、見当たらないし、かなり後ろであり

前六で走ったところで、今日は、約束があるのだ、もし、誤差範囲外だったとしても、

私は、ここに居続けなければならないだろう

時計の針が、ゆっくりと、時間だけが、過ぎていることを知らせる

時計は、私に何を伝えたいのであろうか

それは、時間だけであろうか、それとも、全く、この時計としての、時間ばかり知らせる機会は、何か、別の何かを、お教えしようとしているのだろうか

少なくとも、現時点での私の使用方法は、時計以外には、存在しない

チープなその時計は、ジャリコの時計売り場で、1660円で、安売りされていた

時計売り場のスーパーの中での出会いである

緑のふちに、茶色いボディー、色気のないベルト、何から何まで、おしゃれとは程遠い

それをそぎ落としただけの商品に、思える

きっと、それ相応の、恰好をすれば、それは、農家のおじさん方が、使うようなものや、仕事ではなく、おしゃれとしても、有用活用出来るのではないかと、相応のではあるが、

私の、野暮ったい、今現状の、ぼさぼさした、くさっぱらに、三年放置したような

この服では、農家のおじさんが、仕事中に壊れて、そこに捨てていった

そのままを、切り取り持ち歩いたような、ある意味は、現状書庫、または、現代アートとでも言うような、小民的な、低さを、歴史的資料として、指示したような気がする

時計は、二分五十六秒を、約束まで、過ぎさせようとしていることを、示している

そこには、まだ誰の靴音もしなければ

何の変化もない

ただ、クーラーだけが、回って居るのであろう

酷く寒い

私は、油で、曇った眼鏡の奥から、辺りを、見渡す

本当に、何もない

掃除置きや、資材の断片が、隅の方で、無機物に、備品だと言い現わすように、恐ろしいほど、整頓されて、置かれている

そんな中、私は、時計を、眺めていた
















だれも居ない空間かと思っては居たが

そこには、私以外の存在が、実はいた事に気が付いたのは、丁度、時間になろうと言う所

私は、その存在が、嘘ではないと言う事が、実は、良くは、分かってはいなかった

なぜなら、それは私によく似ていた

まるで、良く知って居る人のように、それは、鏡でも見ているかのように

私は、その肌、野暮ったい服、銀歯、時計

そのすべてが、私の同じもので割ろう様に思われ

まじまじと見てみてみたが、やはり、どうにも、昔見た鏡の中の自分のように

それは、わたしにごく、酷似していた

私が何者であろうかも、しらないし

それが、夢ではなく、本当に、私自身だったら

私と言うものは、量産された、肉でしかないのかもしれない

「あなたは、誰ですか」

驚くことに、最初に話し始めたのは、相手だったが

その声は、私には聞きなれない、キンキンとしたものであり

私は、言葉に詰まりながら

「私は、林道 曽場谷です、あなたこそ、誰ですか」

相手は、それこそ、答えず、私に、こういうのです

ここはもうだめです、あなたは、これから、酷い事が起きます、だから逃げてください」

果たして、何処に逃げればいいと言うのか

私は、約束があってここにいるのだ、逃げることはできないのだ

しかし、それを逃げろと言うこの人は、責任をどう考えているのだろうか

私は、彼女に対して、更に詰問することにする

「あなたは、しらないかもしれませんが、私はこれから、待ち合わせがあるのです

相手方がいる以上、それに私にも用事がある以上

それは、私が、ここにのこならなければいけない用事なのです

あなたは、それを、どうして、何処かに行かなければいけないと言うのですか」

私は、問うた、しかし、相手は、いきなり、私の腕をつかむと、そのまま、もと来た、道を走り始めた

何という事だろう、何という横暴

私は一人、そのあとに、連れ去られるように、走る

柔らかい、手が、私の腕を、きつく、握って居る

「あなたは、誰なんです」

私の問いに、後ろ髪が、揺れるだけ

コンクリートのその建物は、何処までも、同じような、風景が、続いているように思われた

私は、一人、靴が、ぶつかったり、紐が巻き込んで、転ばないように

彼女の細く似合わせるように、走る

もともと、同じような体系をしているのだから、それは、明らかな、物ではないだろうが

やけに、妙に、遅い気もする

「あなた、怪我をしているの」

見ると、どうも、足の歩幅が、可笑しい

どちらかの足を、どちらかと言えば、右足を、後ろに引きずるように守るように走っているような気もする

彼女は、首を振って否定するが

しかし、白と青い筋の入った運動靴は、赤く染まっていた

やっぱり、何か、怪我をしている

その時、背後で、何か、音がした

それは、何だったのだろう

何かが吠えると言うか

ピエロが、鳴くと言うか

私は、彼女に、それでも、力強く、引っ張られるのを感じながら

白い青い照明の取り付けられた天井の下

背後を、振り返ると、そこには、もう一人

全く同じ雰囲気の私と言う存在の少女がいた


「待ちなさい」

それは鋭く、二人には届いたが

相変わらず、彼女は腕を引っ張り、私を、前方へと、連れて行こうとする

私は、絶えず、振り返りながら、こちらに、走り出そうとする、彼女を見ていた

「あなたは」

私は、叫ぶと、彼女は

こちらを、眼鏡の奥で、鋭く、にらめつけるように

「約束」

そう叫ぶ

白い腕

私は、そう叫んだ彼女が、正しいに違いないと、そう思うのであるが、引っ張る彼女は、どういう理由で、前に、進もうとするのだろう

私を、何処に連れて行って、どうしようと、考えているのであろうか

ただコンクリートを歩く音が、それぞれ、六つ聞こえる

それぞれが、何かしらの、ずれを、生じているようで、その音は、リズムは、全く別である

それでも、その六個の音は、三つのそれぞれが、独自のリズムを刻んでいるようで、この灰色の筒の中に、反響しているが、それに意味はあまりないようにも思えた

それでも、それぞれに、意味を持つように、腕を引っ張り、それに、ついて行き、それを、止めようとする

私は、ぼんやりと、人に握られた腕の中で、脈の回数を、計りそうになっていた



長い廊下の先、そこには、真っ赤な部屋があった

それは廊下が

途中で、色を変えたせいで、そう思っただけで、ただの廊下の途中だっただけかもしれない、それは、泥を、踏んだような、そんな、質感が、止めることなく、ワックスのように

硬いコンクリートに、ぬられたように、私たちは、途中で、滑りそうになったが、幸いにして、二人で、手をつながれていたせいで、こけようとすると、反対側が、それとは反対方向に、こけそうになり、それは微妙な、感じに、留まり、スキーか、スケートのように、床を、滑る

しかし、ここは、何なのだろうか、嫌なにおいが、ムッと、辺り一面を、覆いつくしている

私は、一人、何もすることもできず、滑るに任せて、その赤い部屋を見る

何が、この部屋を、こびりつかせているのだろうか

後ろを見ると、服を、真っ赤に汚しながら、倒れている人と

その廊下の色の変わった前で、あの先ほど、約束と、叫んだ、女の人が、立って、こちらを見ている、「何故、約束を、守った方が良いと考えているんですか」

彼女に、私は、そう叫ぼうとしたが、彼女の、言葉は、聞く前に、床に、倒れて、聞く事は、出来なかった

ただ、その後ろを、私の声が、虚無に、虚空に、響き、赤い部屋から、私は、滑りだすように、元の灰色の床を、ペンキでも、汚すかのように、ペタペタと、歩いていた、「大丈夫か」と聞こうとしても、彼女の姿は、そこには、もうなかった

何処に行ったのか、動く姿も、見つけられない

私は、大丈夫かと、目を凝らしたが、そこには、赤い四角い空間が、四角く開いているだけなのである

倒れて、ペンキで

そう思ったが

それでも、彼女は、私を引っ張る

ここは、本当に、帰り道なのか、もと来た道なのであろうか

私は、あんな、道が、行きにあったとは思えない

ただの巨大なビルディングだ、そんなものが、あるアスレチックではないだろう

私は、腕を、引っ張る彼女のに、「ねえ、何処に行くの」

と、もう一度聞いてみたが、腕を、強く引っ張るだけで、彼女の額や腕は、私を、引っ張るせいで、余計に力を使うのであろう、汗で、髪が、張り付いていた

「ねえ」

目の前に、窓の光が現れた、問いかけるも、答えてはくれない、相手を、よそ眼に、私は、ビルの外を見た

それは、何て言う事のない、ただの街の風景だ

子供が、適当に、積み木を積み上げたような、灰色の人工物の間に、おもちゃの車が、走っているような

そんな光景が、窓ごとに、続きを、断片を、残しながら、私に見せている

さすがに、日光なのだろう

上からの蛍光灯とは違い、窓越しに、温度を、感じさせる

そんな窓も通り過ぎれば、木陰のような、暗さを、した人工の明るい明かりの下に、入る

私は、彼女が、これほど懸命に、何処に連れて行こうとしているのか、気になり始めた

先ほどからも、気になってはいたが

しかし、一向に、相手の意志にも関わらず、答えてはくれない

それにひっぱらっれる

私は、一体何なのだろうか

私の意志は、彼女に関係があるだろうか

私は、廊下を、二人の足音を、それぞれ、ばらばらに、響かせながら

走る


この建物は、奇妙な、これほど走っても、階段一つない

それほどまでに、広いのか、渦巻のように、ぐるぐると、回っているだけなのか

それとも、同じ場所を・・

同じような光景だが、しかし、いまだに、赤い廊下は、走って居ないから、戻ってはいないし、窓も、さっきの一辺きりだ

じゃあ、何処に向かって

そこまで考えて、彼女が、頑張って引っ張って入るが、そこで、道が、分かって居るのか

一切間違いがないような、迷いがないような、単純さで、道を、知って居るのだろうか、彼女は、走り続けている

「ねえ、あなた、何処に行くか、自分でも分かって居るの

知って居るの、何処に行こうとしているの」

私は、腕を、引き留めるように、後ろに下がろうともしたが、しかし、彼女の賢明さに、なぜか、止まることなく、また引き戻されるように、声だけが、廊下に響く

息も絶え絶えと言う感じで、汗びっしょりの彼女が、一瞬だけ振り返り

前方に、声を発した

「行かなきゃいけないあなたは」

本当だろうか

私は、容赦なく、立ち止まると、するりと、腕は、抜けて、二人に、戻った

「何で」

彼女の目はそう、うったえかけ、ぜんそくのような、息の荒い呼吸の向こうに、小さく聞こえた

「あなたは、それを、求めるかもしれないけど、私は、まだ、約束を、果たしていない」

彼女はこちらを、睨みつけるように見た、見ていたのだが

私は、それを、無視するように、なぜか、ありがとうと、お礼を言って、引き返したが

私の腕を、また誰かが引っ張った

それは、乾燥した手で、更には、二つの手だ

誰だろう

一人の人間が、一つの左腕を、引っ張ったのかとも思ったが、それはどうやら、両方とも、同じ、右手であり、彼女とは違い、小さいような気がする

私は、とっさに、振り返ると、そこには、小さな女の子が、たくさんいた

まるで、量産される、工業製品のように、ずらりと、その向こうの方で、押されるように、彼女の、腕を引っ張った、彼女のあたりだけ、その整列が、乱されるように、彼女だけが浮いて、そこには存在していた

「あっ・・あ」

何かを言っているような気がするが

下の彼女たちは、腕を、引っ張って、私を見ている

何かを言おうとする前に、彼女は、私を、列の先頭に、立たせて、歩き出した

そのせいで、私は、対応しきれず、少し後ろの彼女の誰かに、ぶつかり、仕方なく、歩く

立ち止まろうとしても、前に、押されるのだ

あの最初に引っ張ってくれた彼女は、遥か後ろの方で、立ち止まり、膝をついている

彼女は、何を、しようとしたのか

私は、彼女たちの進行を、邪魔しないように、端の方を、歩いて、戻ろうとしたが

彼女たちの流れは、端の方までも、及び

鉄の意志のように、後ろには戻れない

何故なのだろう

「ねえ、戻して、道を開けて」

しかし、だれも、耳を貸さない

それは、私を、じり、じりと、前に、巻き戻していく

どちらが、道の前方など、あるかは、ないかは、私には、分からないが

しかし、私は、どうしようもなく、後ろに下がる

「ねえ、あなたは、どうしようとしてくれたの」

彼女は、何かを、後ろの方で、叫ぶが、次第に遠ざかり、暗闇の中

私の目には、小さな私のような、軍隊が前方をふさぎ、私の前に、立ちはだかる

端の一人を、どかしても、直ぐまた後ろには、別の人がおり

その子供をどかしても、私は、子供の波に、押し返される

「あなたたち、どきなさい、これは命令よ」

叫んでも、私は、ブルドーザーの前の小石のように、前方に移動させられ続けた


赤い場所を、通り過ぎ、そのまま、私が元の場所まで戻ってきたような,感じがした

あの子供たちは、もうここにはおらず、私を残して、何処かに行ってしまった

私はついていくこともなく、広い廊下の中、コンクリートに、囲まれて、一人、佇んで居た










ゆっくりと、とけゆく思想

思考のなか

私の意識は、やはり存在しない

青い電球の下

刺激された感情なエンドルフィンは、行き場をなくしたように、コンクリートに、突き当り、死ぬ

私のたまり場は、単純作業を、壊し続け無意味にたまった、そのコンクリートの角のゴミ置き場の山を、見ながら

死ぬる魂を、この虚空から、開放したいがための行動に、思える

だれも居ない虚空の中

私の哀れな分身のみが、乾いた生を野生に戻そうと、私の嘆き続きを、私に自覚させようとするが

箱庭の現在は、土の存在を、遠く擦れ薄れさせ

私は、何処にもいない

ただ、私の中に













だれも居ないコンクリートの廊下

時間は、一分ほど、過ぎただけであった

目の前には、真っ赤な何かが、迫って居る

あれは、大きな音をさせて、何をするのだろうか

私は、誰とも目を合わさず、ただ、そこで、目の前を、見ていた

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さよならジンセイチゃん イタチ @zzed9

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