同級生の、お姉さん!

崔 梨遙(再)

1話完結:1300字

 あれは、僕が小学3年生か4年生の時(だったと思う)。夕方と夜の間、6時か7時くらい? 食事時に玄関チャイムが鳴った。


 僕が玄関のドアを開けると、二十歳くらいのお姉さんがいた。


「おば様、いる?」

「はい。お母さん、お客さんやで!」

「あ、真央ちゃんやんか、どないしたん?」

「おば様-!」


 そのお姉さんは母に抱きついて泣き始めた。母は、


「どうしたん? どうしたん?」


と、そのお姉さんをなだめた。


“っていうか、このお姉さんは誰?”


 お姉さんが泣き止んだ後、僕はそのお姉さんが同級生の姉だと初めて知った。母は以前に真央と会ったことがあり、母は真央のことを知っていたらしい。僕はその時が真央との初対面だったけれど。


「おば様、中に入れてもらえますか?」

「どうぞ、入って」


 母は、夕飯を1人分追加で作って真央に差し出した。


「ご飯まだやろ? 食べて、食べて」

「いえ、明日の朝いただきます」


“え! 明日の朝? お泊まり決定?”


 で、話を聞いて、真央が父親と喧嘩して家を飛び出たことがわかった。母は、真央の家に電話をして、真央を預かっていることを伝え、真央の親を安心させた。


 それから、泣いたり怒ったり、真央は父親に対する不満を僕の母にぶちまけた。母は笑顔で、“うん、うん、うん”と話を聞いてあげていた。


 真央が話し疲れて長話が終わると、真央が言った。


「そろそろ、お風呂に入りたいんですけど」


“え! 何様?”


 風呂に入ったら入ったで、


「すみませーん、シャンプーが足りません-!」


母が詰め替えのシャンプーを風呂まで持って行った。


 真央は風呂から出ると、ゆっくりドライヤーで髪を乾かし、


「すみませーん! 着がえ用意してもらってもいいですか?」


と言うので、スエットの上下を貸し出した。すると、


「そろそろ眠らせてもらっていいですか?」


と言うので布団を用意。真央は布団に滑り込むとあっという間に眠った。


 朝、昨日の夕食を完食し、ようやく真央は帰ってくれることになった。だが、


「おば様、ついて来てもらってもいいですか?」


母は表面上は笑いながら真央の家に真央を連れて行った。



 勿論、帰って来た母は不機嫌だった。


「あの子、どんな躾されてるねん!」


 真央の家は従業員数名の零細企業の社長だった。普段、真央の家族は“私達は社長だ!”と威張り散らしていた。だから嫌われていた。


 僕はそんなことは気にしていなかったが、真央を見て、“これは嫌われても仕方が無いなぁ”と思った。とにかく、真央は爆弾野郎だった。疾風のように現れて、疾風のように去って行った。


 その後も何度か真央はウチに来たが、もう泊めたくないので母が上手くなだめて家に入れずに真央宅まで真央を連れて行った。すると、その内、真央は来なくなった。真央が来なくなって、僕達はホッとした。本当に迷惑だったのだ。



 後でわかったが、真央には友達がいなかったらしい。友達がいないので、妹の同級生の僕の家に来たのだ。本当に、困ったものだ。“社長だ!”と威張っていても、そんな躾では社会では通用しない。







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同級生の、お姉さん! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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