第17話-それぞれの決意-
「それで、大丈夫なの?柚葉ちゃん、遠慮せずにうちに泊まってもいいんだよ?」
「大丈夫です。私、大丈夫ですから。」
車の中で私の姉、仁科伊織が言った。車種は日産のFair Lady ZのS30型で、通称「悪魔のZ」と呼ばれている。社会人四年目で給料も高くないはずなのに、この車をローンで買ってしまうなんて、本当に変わった人だと思う。
「ほんと、そういうところ昔から変わってないよね。自分の気持ちを隠して無理しても、結局そのツケが後から大きくなって帰ってくるだけ。わかってる?」
「うっ…歌織ちゃんはいつもはっきり言うよね。」
「仕方ないでしょ?誰かさんがいつも自分だけで解決しようとして我慢しちゃうんだもん。」
柚葉は昔からそうだった。小学生の頃、男子生徒たちにちょっかいを受けて、ひとりで抱え込み、倒れて病院に緊急搬送されたことがあるくらい、重度の独りよがりさんなのだ。
「ごめんなさい。」
「そうじゃないでしょ?ありがとうって言うのが礼儀よ?」
「そうだね。ありがとう、歌織ちゃん。」
柚葉は少し落ち着いたようで、私の肩に寄りかかり、眠たそうにしている。
「ユズ、そろそろお家に着くよ?寝たら帰れないよ?」
「うぅん…眠い…。歌織ちゃん…送ってって…」
甘えたさんモードになった柚葉を見て、私は覚悟を決めるしかないなと思った。
「お姉ちゃん、後で私の外泊セット持ってきてくれる?」
「わかったよ。あと、必要なものがあれば教えて。食材とか。」
「後でLINKに送っておくね。お姉ちゃん、いつもありがとう。」
「急にどうしたの?いいよ、いいよ。可愛い妹ちゃんからの頼み事なんだから。それに、現在を生きる少年少女の夢を応援するのが大人の権利なんだから、このくらいさせてよね。」
数刻後、柚葉の住むマンションに着くと、彼女はすでにぐっすりと寝落ちていた。はあ、これは疲れるなあ。
「一応お姉さんに連絡しておくね。私、乃愛ちゃんの先輩だし。」
「ありがとう、じゃあまた後で。」
柚葉とその荷物を抱え、玄関口へと向かうと、珍しく管理人さんがいてくれた。
「ああ、どうもです。ユズなんですけど、ぐったりしていて」
「柚葉ちゃん、大丈夫?もしまずい状態なら病院に行った方がいいよ?連絡する?」
「大丈夫です、今のところは。とりあえずこういう状態なので、鍵を開けてもらってもいいですか?鍵を取り出すのも一苦労で」
「いいよ、いいよ。大事なお客さんのお友達なんだから、顔パスでいいよ。じゃあ開けるね」
管理人さんとはもう十数年の付き合いがある。顔パスで通してくれるのも、その信頼からだ。本当に気前の良い人だ。ドアを通り抜けエレベーターに乗り込み、目指すは十二階の八号室。このマンションは十五階建てで、それぞれの階に十号室まである。こんな良いところ、家賃高そうだなあと思いながらも、十何年間も家賃については聞けていない。聞く勇気がないのだ。
「ほら、ユズ。家着いたよ。」
「んぅぅ…歌織ちゃん…」
まだ夢の世界にいるような柚葉。能天気なところが、彼女らしさでもある。
「鍵どこ?」
「バッグのポケット…」
寝ながら喋っている。夢と現実の境でふわふわしているのだろう。バッグの中から鍵を取り出し、ドアを開けると、中に入っていくのだった。
七つの華が咲く頃に 雪華月夜 @snow916white
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