第16話-回想編ver.3-

「よくやった!初戦勝利だ、お前たちは虹ヶ丘の歴史に残る活躍をしてくれた!だがな」


 その後に続く言葉に、俺たち二年生だけでなく部長たち三年生も生唾を飲み込み、覚悟を決めた。


「このギリギリの点差は誠にいかん!まだゾーンの甘さやフォーメーション、連携も上手くできていない!明日からはスリーオンスリーの量を増やすぞ」

「お、押忍!」

「だがまあ、あともう一試合あるんだ。体冷やさずにクールダウンしておけよ!」


 苦言と共に士気を落とさないような言葉を受け止めた。


「ありがとうございました!」


 部長の挨拶に合わせて他の部員も感謝の言葉を述べた。


「よし、飯だ!早めに食って、早めに消化済ませて午後の試合に備えろ!」


 部員二十六名の虹ヶ丘中のメンバーは、開星中の食堂へと向かう。大会中は、開星中学の校長によって食堂が開放されることになっている。体育館は三つもあり、塀を越えた先には開星高校もあって、そちらにも三つの体育館がある。物理的にビッグサイズの中高一貫校だ。生徒の偏差値が六十を超えるのだから、文武両道を体現している学校と言えるだろう。


「お兄ちゃん!!!」


 食堂の扉を開けると、聞き覚えのある声が響いた。そうだ、俺の大事な妹の声だ。すっ飛んできた妹は、そのまま宙を飛んで抱きついてきた。


「ごふっ!」

「お兄ちゃん、かっこよかったよ!!!」

「そうかそうか、良かった」


 それぞれの部員が親や身内の元に向かい、お昼の準備を始めていた。


「そういえば、母さんは? まだ来てないのか?」

「うん、まだみたい。大丈夫かな、道わかるかな?」


 俺たちは後になって知ることになる。バスケに夢中になっていた最中に、最悪な出来事が起きていたことを。



「悪い、俺が語れるのはここまでだ」

「どうしてよ!ここからが本題でしょ!? 」

「仕方ないだろ!バイト先に着いちまったし、シフトの時間始まっちまうんだから!」

「ううん、大丈夫。続きはまた明日話そう?」

「ユズ、大丈夫?」

「うん、大丈夫。少し落ち着いた。あんな話聞かされて泣いてもいられないよ」


 それもそのはず。柚葉はバスケを楽しむ暁くんのことを思い浮かべながら、話を聞いていた。いや、これは柚葉と私だけのナイショの話だから余計なことを言ってしまったわ。


「明日土曜日だし、どこかのファミレスに集合ってことで。場所や時間は追って連絡し合いましょう」

「うん、わかった」

「おけ、じゃあバイト行ってくる」


 赤橋くんは切る直前まで少し声が焦っていた。シフトに間に合わないといけないからだろう。本当は今すぐにでも続きを聞きたいのだけれど、そうも言ってられないわね。


「ユズ、帰ろう? 今日はもう家に帰ってお風呂に入って、心の汚れも落としたほうがいいわよ」


「うん、ありがと歌織ちゃん。そうする」

「家まで送ろうか?」

「ううん、大丈夫。ひとりで帰れるよ」


 そう言いながら立ち上がろうとするも、足がふらついて体勢を崩してしまった。


「ほら、言わんこっちゃない。仕方ない、お姉さんを呼ぶ?」

「お姉ちゃんだけはやめて!こんな姿、見せたくない」


 あれ、いつもならこんな反応しないのに。これはお姉さんと何かあったな。


「仕方ない、私のお姉ちゃんを呼ぶか」


 スマホを取り出し、お姉ちゃんに連絡をする。お願い、出て、お姉ちゃん。


「どうしたの、歌織?今運転で忙しいんだけど」

「お姉ちゃん、お願い、助けて」

「ど、どうしたの?助けてなんて今まで歌織の口から聞いたことなかったんだけど。それほどやばいことってこと?」

「そう、私の大事な友達を、親友を、ユズを助けて」


 お姉ちゃんに頼るしか、この状況をなんとかする方法はなかった。仕事終わりのお姉ちゃんが学校に着くのを、柚葉と共に待つのだった。

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