第15話-回想編ver.2-

「狭間、パス寄越せ! あと三点でひっくり返せるんだ、俺に渡せ!」

「クソッタレ! あと三十秒で試合も終わりって状況で四点差、キャプテンも透先輩も、黒埼先輩も、硬くディフェンスされてる。これじゃパスしようにも…」


 その瞬間、パスが俺の目の前に飛んできた。透先輩の背中を通り過ぎ、スクリーンができるように動いてくれた。先輩、まじ感謝します。


「行け、暁月! チャンスを勝ち取れ!」

「うおぉおおお!!!」


 スクリーンを成功させ、フリーでスリーポイントを打てる状況に持ち込んだ。ここは俺の得意なゴール角度、四十五度のエリア。決めれば三点、されど三点だ。それに、第四クォーターの極限状態でシュートポジションに入れれば、焦って飛び出したディフェンスによって…。


――ピーーーーッ――


「ファウル! フリースロー!」


 来た! 俺の体に覆い被さるようなディフェンスの仕方だ。わざとぶつかりに行きながらもフォームを崩さず、入る球を打つ。これも立派な戦術だ。綺麗な弧を描いた球はゴールポストの淵を少し回転した後に入った。


「決まった!!!!」

「暁月!!!!よくやった!!!」

「時間は!?」


 着地した後、すぐにタイマーを見ると残り一コンマ六秒だった。クソッ、ブザービートで決めていれば逆転のチャンスのリスクを考えなくても済んだのに。


「フリースロー、しっかり決めろよ」

「奏詩。お前、あともう少し時間をかければとか思ってるだろ。それはナンセンスだ。この極限状態の中でこのチャンスを活かさなければ、後悔が残る」

「はぁ、はぁ。そうですね、このチャンス、活かさないのはナンセンスですよね」

「フリースローの準備お願いします」

「暁月、一本だ。決めろよ」

「狭間。そうだな、押忍!」


 フリースローラインに立ち、集中する。フリースローはいわば自らで作ったルーティンを正しくできた者にこそ点数が与えられる。俺が決めたルーティン。二度ドリブルをしてから、手に取ったバスケボールを描かれた線に沿って並行にし、後ろ回転を施したボールを地面に放り投げる。ボールの線の角度良し、足のシュートポジション良し、構え良し。正しいフォームでシュート体勢に移り、手からボールが離れていった。ボールは綺麗に真っ直ぐ飛んでいっている。確実に言える、この一点は決まる。


「もし何かあって外れたとしても、リバウンドに勝てば追加二点だ。頼むぞ、暁月。俺に夢を見させてくれ」


 監督からの熱い視線が俺に向けられている。それに俺は気づいている。球は運命が決まっているかのように、バックボードに触れることなくポストを通り抜けた。


「よっしゃあ!!!! ディフェンス、気張れよ!!!」

「押忍!部長!!!」


 大歓声の中、俺を含め四人全員が残り一コンマ六秒を守りきる決意を固める。ブザービートなどさせてたまるものか。菖蒲ヶ原のスモールフォワードによりポイントガードに球が渡され、タイマーが進行する。


「気張れぇえええええ!」


 部長は死ぬ気で誰にも球をパスできないように守りきり、俺たちは相手ポイントガードから球をパスさせないように他メンツの前に立ち、パスコースを塞ぐ。時間が迫っている。焦るポイントガードは無茶なドライブで部長を抜き去り、強引な球を投げる。その球はどの選手に向けられたものでもなく、ゴールリングへと迫る。ブザーが鳴っている最中に決まれば三点取られて二点差で敗北、決まらなければ俺たちの勝ちだ。


「この球の軌道では…」


 このシュートはパスの延長線上であるため、どうしても円弧が緩やかで高さも出ない。球はゴールポストにも届かず、地面に叩きつけられた。


「試合終了!出場メンバーはセンターポジションに集まってください!」


 俺たちは勝った。初戦を無事に終えられた。気が緩んだ俺はその場でフラッと膝をついた。


「おい暁月、情けないな。まだ挨拶が残ってるんだ。ここで倒れるなよ」

「狭間。すまん、そうだな」


 あと少し気を引き締めて、センターポジションへと向かった。


「九十一対九十で勝者、虹ヶ丘中学!礼!」

「ありがとうございました!」


 試合後の挨拶がコートに響く中、俺たちは観客席へ向かい、応援してくれた人たちへの感謝の気持ちを伝えた。まずは部長からの掛け声。


「ご声援、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 部長の挨拶の後、俺たちの挨拶がコートに響き渡る。もう片方の列にも挨拶が終わり、監督の元へと歩みを進めた。

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