1話目 ~混乱~
貝への転生を望んでいたら無事人間になりました。
(だいたい)80年間分の罰ゲームスタート。
・・・
望んでも居ない人生が始まってしまった。 何故か状況を呑み込めている自分が怖い。
車に轢かれたら人生二週目始まるとか脳みそ四等分にされても普通思いつかないぞ。ラノベの世界じゃないのこれ。
「ん"、う"ぉっ...ぇ」
言葉を発したいのに声が出ない!29年間培って来た言語が頭に残っているのに。なんでよ。
軽くパニックだ。あばばば、なんか暴れてたら涙が出て来たぞ。この歳で人前で泣くとは情けねえ。
『あーやっと泣いた!元気な赤ちゃんですよ!おめでとうございm...』
看護婦さん?が何か言っているらしい。そっかそっちは祝福ムードか。
慣れ親しんだ言葉が上手く発せないだけでこうも動揺してしまうのかよ。
心は落ち着いていても、身体の本能的な反応に抗えない、まるで他人の身体だ。
ってか身体が動かない。世界が妙に広い。俺の身体が身体してない。別人視点かよ?
まるで他人の身体って感じ。
・・・もしかしてこの身体は俺のものっていうより、実際本当に他人の身体だったりするのだろうか。俺はこの身体を一時的に乗っ取っているのか?
ある意味不思議じゃない。俺はさっき(?)死んで、この身体は今生まれたばかりだ。
何かの手違いで、俺の残滓が入り込んでしまったのだろうか。
だとしたら、いつかこの身体の本当の持ち主の意識が戻って来て、その時俺っていう意識は――
いや怖い。マジで怖い。下手に轢かれて死ぬよりもずっと怖い。
人間、死ぬ時の認識ってのはほんの一瞬だ。自分で死を認識した時には、既に肉体はめちゃくちゃになってるもんだ。(体験したし。)
ある意味一瞬だから楽なのだ。悲惨な事故死だって痛覚が頭に届く前に意識は死んでる訳だし。
そこで、もしも徐々に自我が消えていく様な死に方だとしたら?
痛みも苦痛もないだろうけど、少しずつ自分が自分で無くなっていく事を自覚しながら意識が消え、死んでいく訳だろ?
そんなの怖すぎるよ、それに比べたらいつかの上司の怒号なんて最早こもり歌レベルだ。
言葉にならない恐怖。目の前の人物には決して伝わらない恐怖。
怖いよ、こんな恐怖初めてだ。泣きそうだよ既に泣いてるけどさ。
「ん"、ん"う"ぉあ~...」
混乱しつつもこれは俺の声じゃない。自分で声を発しているのに、聞こえて来る反響は他人の声である事の恐怖。
てか言葉がマジで出ない。喉と舌の感覚を忘れてる。
『元気な子!マジ元気!さっすがは私の子だよねぇー、マジ元気に育ちそう!』
から元気だよ。つーかこの母親俺より年下じゃないの。俺よか自分の心配もしなさいよ。
...そっか俺今0歳児だったわ。俺赤子。
・・・いわゆるゲームってのは一回クリアした後の二週目ってのは
色々と最初の部分が簡略化されるもんだ。
例えばチュートリアルとか。一番最初に手厚く教えて習得させた以上、それ以降日常的にこなせている事を今更また教える必要もないだろう。
しかしどうやらこれはそういうゲームやチュートリアルでもないらしい。
まるでデータを全て抹消した後の、まっさらな状態のゲームカセットの様。
熟知していた筈の事が何も出来ない。何も知らない、分からない。
目の前の奴らは俺の事なんて何も知らない。そもそも目の前の奴らは誰だよ。
『これからよろしくねぇー、うちの家族担って下さいよぉー!』
知るか。それどころじゃない。
俺どうなっちゃうの。元の身体に帰りたい。いや、それもそれで嫌だけど今は今で地獄でねえ、ぬぬぬー。
変化を望んだ所で、本望通りにはならないって事ってねぇ――。たすけて。
前世の底からこんにちは ~もしかして転生失敗してね?~ 天窓際 @modern_neet
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